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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第九節:王都にて(第九賭:対国)

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第71話 事前の用意



 器の入った荷車は、私が来た時にはあった。


 それが、今はない。

 この状況は、誰かが意図的にどうにかしなければ作れない。


 そして、私の護衛には『この場の護衛』をお願いしている。

 つまり準備中の今、この辺に近づける部外者はいない。


「作ったのは汁物よ。器がないんじゃあ、どれだけたくさん作っても……」

「あっ! 食べたい人には自分で器を持ってきてもらえば!」

「持っていない人が大半だと思います」


 そんなやり取りが交わされて、夫人・令嬢たちは青ざめる。



 ――王妃様の慈善活動が、失敗する。

 王妃様の懐だけで完結するものだったならまだ影響も最小限だったのだろうけど、今回の慈善活動は広く寄付を募っている大規模なものだ。


 その寄付の一部は、この炊き出しにも投じられている。

 それが失敗するという事は、協力してくれた人たち全員の顔に泥を塗るも同然だ。


 ここにいる彼女たちは、それをきちんと理解している。

 だからああして頭を回して、考えて、ダメだと分かって、真っ青に青ざめている。



「まさか、こんなところにまで……」


 そう呟いたのはアランで、彼は顎に手を当てて何か少し考え込んでいるかのようだった。


 おそらくこんな事をする犯人に、私たちの敵について考えているのだろう。


 一応私に敵対してくるかもしれない人間については、潜在敵も含めて伝えているけど、黒幕には当たりが付けられても、実行犯までは分からない。

 おそらく今頃「どのくらいの数の実行犯――妨害者がこの王都に紛れているのかと考えているんじゃないかと思う。


 しかし。


「べトナー卿」

「あっ、はいそうでした! すぐに持ってこさせます!!」


 アランに声をかけると、彼は私の護衛騎士の一人に声をかけ、少しの間少し席を外した。


「どうしましょう、王妃様」

「問題ないわ」

「え、でも……」


 一体どうするつもりなのか。

 そんな声が今にも聞こえてきそうな不安顔に、私はニコリと余裕の笑みを浮かべる。


「大丈夫。こんな事もあろうかと、手配は既にべトナー卿にしてもらっていて――」

「お待たせしました! 王妃様!!」


 アランの声に振り返ると、そこにはアランともう一人。

 先程席を外した護衛騎士が、荷車をガタガタと引いてやってくる。


「ご指示通りに」

「ありがとう、べトナー卿」


 護衛騎士が重そうに引いてきた荷物は、すべて器だ。

 陶器の物は所々欠けていたり、木の物も変色しているのがチラホラとある。

 間違っても質のいい器とは言えないけれど、炊き出しを提供するには十分だ。


「どうやって、こんなに沢山の数をすぐに」

「事前にべトナー卿に指示していたの。『貧民街に住む人たちに寄付してもいい器を、町の人たちから集めるように』と」


 各家で、そろそろ捨てようかと思っていた物や、買い替えの時期が来ていた物。

 そういう物を寄付してくれないかと、王都の人たちにはそれとなく話していた。


 併せて今日の出店では多くの質のいい食器がいつもより安価で売られる事も告知た事で、「どうせなら新しい器に買い替えるか」「そうなったらこの古いの、要らないな」と思わせる事に成功したのである。



 皆、ゴミを捨てる感覚で寄付してくれた。


 私の名は出しているけれど、勿論強制などはしていない。

 持ってきてくれた人には代わりに、今日限定で使える割引券を渡している。


 割引額自体は微々たるものだけど、ゴミ同然だったものが少なからずお金に化けるのだから、買い替えたい人にとっては利のある話だっただろう。

 そして私たちは私たちで、古いまでも渡した割引券と等価という、かなり安い値段で器を手に入れる事ができた。


「元々炊き出しに来た人たちに毛布と一緒にあげようと思っていた物だけど」


 使ってもらって、そのまま持って帰ってもらうのでもいいだろう。


「善意で用意していた物が、意図せず助けになるなんて……素晴らしいです!」

「王妃様の日頃の行いを見ていた神様が、きっと味方になってくださったのですわ!!」


 そんな事を言っている人たちに、私は微笑むだけに留める。



 意図せず、などでは決してない。

 こういう事もあろうかと、事前に用意しておいたのだ。



 因みにもし食材が盗まれたら、その代わりもこっそりと用意している。


 食品の出店をしている所の品を、最悪すべてこちらに持ってくる事ができるようにしているのだ。

 今回は食材に何もなかったから、最初の予定通り出店で普通に一般客に対して売られる事になっている。



 とはいえ、だ。

 元々用意していた器がなくなった事実には変わりない。


 その分の出費は発生する。


「でもまぁそれは、国から割り当てられている王妃の予算から出るから、私の懐が直接的に痛むような事はないのだけど」


 時戻り前。

 私の分の予算は名ばかりで、私のためには使われなかった。


 それがそのまま国庫を温めていただけだったのか、それとも別の人間が使い込んでいたのかは知らないが、今世でも浪費をするつもりはない。

 ちょうど今年度の予算が余るなと思っていたので、問題ないだろう。


 別に余ったところで何という事はないのだけど、国庫――つまり金銭の出所は国の財布であり、国王だ。

 無駄遣いをするのなら未だしも、誰かを助けるために使うのだ。

 その上それが『あの男の財布から』となると、最早申し訳なさなど微塵もない。



 逆に使ってやれて少し済々したくらいよ。


 そういう意味では、感謝しないとね。

 ――私を妨害している誰かさんに。




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