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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第九節:王都にて(第九賭:対国)

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第70話 妨害者



 私たちのやり取りに、騎士たちは微動だにしなかった。


 距離と声量的に聞こえていて然るべきなのに、と思えば、スイズ公爵家の騎士たちは躾が行き届いている方なのだろう。


 対して令嬢や婦人たちは、そうではない。


「えっ、王妃様の慈善事業を妨害する向きがあるのですか?!」

「そんな……。せっかくの王妃様の心尽くしですのに」


 にわかに騒ぎ出した令嬢と夫人たちに、アランが不安そうにまたこちらを見てくる。


 そんな顔をしなくても、大丈夫よ。

 だって、ここにいる皆にこれを聞かせるのもまた、私の講じた策だもの。



 騎士たちは、反応こそしなくてもお兄様に報告はするだろう。

 あの人が善意で人を貸すなんていう事なんて、あり得ないもの。


 ただ、私もそれを許容したから、むしろその方が動きやすいと思ったから、陛下が貸してくださると言った騎士たちは、すべて王都の循環に回した。



 だって、こちらの方が騎士の中に妨害者の紛れる余地が少ないもの。

 もし妨害されたとしても、その責任はお兄様にある。

 お兄様に借りを作る事ができる。


 今回ももれなく幾つかの賭けをしているけど、これが一つ目の賭け。

 賭けも条件を揃えれば、負けない賭けに仕立てる事だって可能なのよ。


「それで? 一体どのような妨害があったのかしら」

「私が知る限りのものではありますが……『今日のバザーが中止になった』という噂と、『王妃様は庶民を軽んじている』という噂。二種類のデマが流れていました」


 彼曰く、前者は出店予定の商人たちの間で、後者は満遍なく平民の間に流れていたらしい。


「そんなデマ! 前者はともかく、後者を信じる者などおりませんわ!」

「実際に信じる者は少なそうではありました」


 ゼロとはいきませんでしたが、とアランは言う。


「前者に関しては、今日の朝の見回りのお陰でデマである事は通達できたので、大きな問題にはなっていません」

「それはよかったわ。こんな方法で失敗されてしまったら、平民たちと王族との間に下手したら不和が起きていたかもしれないもの。ありがとう、べトナー卿」

「い、いえ……」


 私が言ったお礼に、彼は少し驚いたような顔になった。

 何故そんな顔をするのか疑問で思わず小首をかしげると、彼はおずおずと「私は自分の仕事をしただけですので。指示をくださった王妃様の思慮深さこそ称賛されるべき事だと思います」という、生真面目な答えが返ってくる。


 なる程、どうやら褒められるような事じゃない部分で褒められて、驚いたのと少し気まずいのとで半々のようだ。

 でも、そんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのに。


「私が指示しなくても、真面目な貴方なら自発的に見回りくらいはしたのではない? そんな貴方だから、城から私付きに引き抜いたのだし」

「えっ、ではやはり噂は本当だったのですね!」


 私の言葉に、夫人・令嬢が騒ぎ出す。


「噂というと?」

「王妃様が、城で努める文官の中から、実力を見込んで一人自分付きにしたのだと」

「その噂は事実だわ。アランは男爵家出身だけど、どうしても生まれが影響する王城文官の出世事情に埋もれては勿体ないくらい、いい文官よ」

「それ程までに、有能で?」

「そうね。仕事ができるのは勿論だけれど、一番は仕事に真摯なところを買っているわ。私に付ける文官は、不正の温床や他からの付け入る隙であっては務まらない。その点彼は仕事に誠実で、不正を嫌う人だもの」


 あえて、前財務部長の一件は口にしない。

 口にせずとも、ここまで私が持ち上げる文官の裏となれば、誰かが探りを入れるだろう。


 私が言わずとも事実は知れる。

 なら私自ら明言し、真っ向から敵を作るような真似はしたくない。



 私の物言いに、夫人・令嬢は皆沸き立った。


 彼女たちにとって、私に関する情報は、この先の社交界でのいいネタになるだろう。

 それを理解しているのか、いないのか。

 アランは居心地の悪そうな表情で「王妃様……」と、困り顔になっている。


「私付きの文官になったのなら、こうして持ち上げられる事にも慣れないとね。この先注目される事も、取り入ってくる者も増えるでしょう。それでも貴方なら、それを跳ねのけても自分の仕事を全うする。そう見込んでの抜擢よ。だから諦めなさい」

「……承知しました」


 私の更なる褒め言葉に、周りの夫人・令嬢からの興味の眼差しが増えたのを自覚したのだろう。

 諦めたように答える。


 これでおそらく、彼の評価は間違いなく上がるだろう。

 そうなる事で影響があるだろう仕事に関しては、何も心配していない。

 一つ心配があるとしたら。


 ――べトナー卿の結婚相手は、私もある程度選定しなければならないでしょうね。


 アランはまだ独身だ。

 おそらくこれから間違いなく、王妃付きの文官である彼と縁を持ちたい令嬢からの縁談が増えるだろう。


 そうなると、男爵家のアランにはほぼ防波堤がない。

 ――そう、私以外には。


「心配しないで、べトナー卿。貴方の尊厳は私が守るわ」

「え、これから私の尊厳が奪われるかもしれない事が起きるのですか……?」


 顔を青くした彼に微笑み、「詳細はまた今度」と彼に告げる。


「とりあえず今日は、この『祭り』に全力を投じてちょうだい」

「……はい、承知しました」


 そんなやり取りをしていると、この場を手伝ってくれていた令嬢のうちの一人が不意に「あら?」と声を上げる。


「もしかしてまだ炊き出し用の荷物、すべては運べていないのでしょうか」

「いえ、すべて運んであるべきところに置いたと思うけど……どうして?」


 答えたのは、この場で私の次に家格が高く、この慈善事業に対する熱も高いティーディルディ侯爵夫人。

 彼女におずおずと答えるのは、夫人とは正反対の物静かで気弱な印象の、ターム男爵令嬢だ。


「炊き出し用の食器が、どこにもなくて」

「えっ、それじゃあ炊き出しの用意をしても、皆に配れないっていう事……?!」



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