第69話 勝負の朝
朝。
いつものように目を覚まし、まだ寝ている子どもたちの寝顔を眺めた。
スヤスヤと眠るロディスとリリアの寝顔はとても健やかで、思わずフッと表情が綻ぶ幸せそのもののようだなと思っていると。
「おはようございます、王妃様」
「おはようアン、今日も早いわね」
かけられた声に、振り返る。
そこにいたのは、そばかすのある一人のメイド。
私の専属メイド・アンである。
人懐こく媚びない笑みが魅力的な、元気のいい彼女は今日も健在の様子。
その上張り切った感じで、胸の前で両手をグッと握り朝から意気込み充分だ。
「はい! ロディス様の事もリリア様の事も、今日も元気に見守りますよ! 王妃様の催す『お祭り』にも!!」
「ありがとう。私は一足先に炊き出しに向かうけど、あとで子どもたちと一緒に来てくれるのを楽しみにしているわ」
「はい! お任せください!!」
そう言ってくれる彼女に頷き、私は子どもたちの傍から離れた。
これから、今日の準備をする。
王都で王妃として十分に立ち振る舞うための戦闘服に着替えるのだ。
◆ ◆ ◆
「王妃様」
「べトナー卿、調子はどう?」
王都は貧民街。
炊き出し準備が整いつつあるその場所で、声を掛けられ鍋から顔を上げた。
私は大きな鍋に具材を入れ、ちょうど煮ていたところで、周りには何の思惑か、お兄様が貸してくれたスイズ公爵家の騎士数名が護衛についている。
準備をしているのは私だけではない。
協力してくれている令嬢や婦人たちも傍にいて、料理なんてした事のない私がこうして鍋の前にいられるのは、彼女たちが体に優しい味付けを担当してくれたからである。
そんな、色々な人たちが聞いている場で私の問いに答える事に、アランは少し躊躇したようだった。
しかし私が笑顔で頷くと、許可は取れたと判断したのだろう。
少し重くなっていた口を開く。
「各所の準備は上々です。中心街の店々では、既に安価マーケットが開催されています」
「そう、ありがとう。とはいえ、貴方にとってはこれからが本番だと思うけど」
「はい。当日にはトラブルがつきものですからね。『監査』に関しては役振りをした人間に任せるとして、それ以外の物には私が対処します。数があまりにも多すぎたり、上級貴族相手のトラブルがもしあれば、そちらはお任せする事になってしまいそうですが」
「問題ないわ。最初からそのつもりだしね」
王妃である私が顔を出すだけで、収まる争いというものもある。
私は私の『王妃』という、陛下ありきの立場が決して好きではないし、それにずっと縋り続ける気も勿論ないけど、使える物を好き嫌いや意地で使わない程愚かでもない。
収まったのが、表面的な争いだけでも問題ない。
今日に限ってはたった一日。
この一日が滞りなく済めば、とりあえず成功なのだから。
――まぁ、だからといってその後のケアにもぬかるつもりはないけれど。
「それで? 《《何もなかった?》》」
私の言葉に、アランが黙る。
「……残念ながら、王妃様の予想は的中しました」
「という事は、やはりあったのね。私たちの今日を妨害しようとする動きが」
「はい」




