第68話 忍び寄る影 ~謎の男視点~
最近の社交界は、にわかに活気づいている。
「あら、もしかしてそちら、王妃様の慈善活動の寄付金の?」
「えぇ。先日寄付していただきましたの」
「つつましやかでありながら、なんと美しい宝石の虹彩!」
そう言ったのは、ある子爵令嬢。
それを見て羨ましがるのは伯爵令嬢。
国の紋章が透かし彫りされた石をはめ込んだアクセサリーを見たり見せたりしながら楽しげに談笑する婦人たちがいる。
「わたくしも寄付はさせていただいたのですけど、急に多くは用意できないでしょう? 仕方がないのは分かっておりますけど、やはり気持ちが逸ってしまって」
彼女たちの言う事には。
王妃エリスのあの情報開示依頼、どうやら多くの寄付が寄せられたらしい。
先日王妃様が公式に「予想より多くの方々のご協力が得られて嬉しい限りですわ。贈答品に関しては、急ぎ準備しているところですので、しばらくお待ちいただければと」と仰ったらしい。
だからこうして、現時点で同じように寄付をしている人の中でも、贈答品が届いている人といない人がいる。
こういった場合、通常ならば身分の高い人間の方が優先的に品を得る事ができるのだが、王妃様はそうなさらなかった。
簡単に言うと「早い者勝ち」だ。
早く寄付をしてくれた順に品が渡されているようで、この措置は一部の上級貴族の中には多少不満の声を発する者もいるものの、大きな問題にはなっていない。
むしろ過半数の貴族からは好意的に見られている。
「生まれではなく、行動を評価してくださる。王妃様は広いお心をお持ちなのだわ」
「我が家は何を寄付すべきか、皆で協議しましたの。そのせいで寄付が遅れてしまい……しかし『寄付の対象である平民たちのための、趣向を凝らした寄付をありがとうございます』と手紙を添えてくださっていて!」
寄付の形は、何も金銭だけではない。
寄付された一部物品は、王都で『祭り』の日に配られたり、安価で売られたりするらしい。
そこで得られた利益もまた、民のために使われるのだとか。
「当日も、私、王妃様の炊き出しのお手伝いをしようと思っているのです」
「あらそうなの? 私はそこまでは手伝えないのだけど……でも、時間が許せば少しだけ町を見物してみるかもしれないわ」
「町でも催しがあると聞いていますから、退屈するような事はなさそうですよね」
「平民でごった返しているところが、少し懸念事項ではあるけれど。だって治安に関わるでしょう?」
「その点は、国王陛下が全面協力で、騎士団を一つお貸しするのだとか」
「陛下も協力的なのね。お二人の関係は良好なようだわ」
そんな話を口々にする女たちを、遠目に見る男が一人いた。
壁に背中を預け、腕を胸の前で組み「ふぅん? 王妃エリスねぇ……」と呟くその男は、見目がいい。
本来なら女が放っておかない部類の男なのに、不思議と――いや、不気味なほどに、彼に寄って行こうとする人はいない。
「ミーナが言っていた臆病女が、偉い違いようだが……まぁその方が面白い。楽しみだなぁ、当日が」
勿論そんな男の呟き声も、他に聞かれる事はなかった。
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※投稿文字数が少ないので、今週は明日の朝も一話更新します!




