表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第八節:後宮にて(第八賭・裏:対貴族たち)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/72

第67話 陛下から聞くエリスの動き ~側妃ミーナ視点~



 枕元に置いてあったピッチャーから、水を注いで一気に飲み干した。


 体が重い。

 怠い。

 腰が痛い。


 ふと見た鏡に映った自分と目が合った。

 不快感に眉間にしわが寄った自分の姿は、起き掛けのボサボサの髪も相まって見るに堪えない。


 そんな自分を見たくなくて、持っていたガラスコップを投げつけた。


 バリィィィィインッ!


 音を立ててコップが粉々に。

 大きな姿見にピリリと深いひびが入った。



 陛下をも虜にした自慢のプロポーションは、ポッコリと出たお腹によって大きくそのバランスを崩している。


 分かっている。

 純粋に太った訳じゃあない事は。

 このお腹には陛下の子が宿っていて、全体的に少しふっくらしたのも、腹の中の子を育てるためには必要な過程なのだという事も。



 昨日来た医者には、子どもが順調に育っているという報告を受けた。

 この体の不調も妊娠特有の症状で、別に病気ではないらしい。


 症状には個人差があり、腹の子に影響がある可能性から、薬を飲む事は許されない。

 そんなふうに言われたから、この付きまとうような不快感に耐えるしかない。



 最近特にイライラするのは、きっと不調のせいだろう。




 私が妊娠して以降、当たり前だけど陛下の夜の渡りがなくなった。


 それは仕方がないと思う。

 でもその分昼間に私の体調とお腹の子を心配して、様子を見に来てくれると思っていたのに。


 そもそもその前から少しずつ、夜の渡り自体少なくなりつつあった。

 そのせいなのか、別の理由か。

 彼は仕事の忙しさを理由に更にここから足が遠のいた。



 ――私から会いに、行けないのに。



 こんな日々を送っていると、どうしても「腹の中に子どもなんていなければ」と思ってしまう時がある。

 そうすれば私はこんなふうに体が辛いような事もなければ、どこへだって行けるのにって。


 少し前までみたいに執務室に行って、忙しさにかまけて休憩を忘れている陛下と一緒に、休憩の食事やティータイムの時を過ごせたら、どんなにいいか。


 王妃はそんな事はしない。

 まぁ、いつも作り笑いばかりしているあの女に、陛下が癒せるとは思わないから、無駄な努力をした結果私の邪魔をしないだけ、まだマシだとは思うけど、可哀想に。


「その立場を脅かされる可能性だけは、考えなくていいのは楽だけど」


 殊癒しに関しては、王妃エリスに負ける筈がない。

 その確信が持てるから、何もかもがうまく行っていない現状でも、まだ比較的心に余裕が残ってい――。



 コンコンコン。


「何」

「ミーナ様、国王陛下がお越しです」


 ニヤリと口角がつり上がる。

 ほら来たわ、私に癒しを求めて。


 最近会えていなかったけど、会いたかったのは私だけではないのよ。


「応接室にお通して」

「それから少しだけ身だしなみを整えるわ」

「畏まりました」





 整えたのは、髪と顔だけだ。


 敢えて服は着替えない。

 着ていたマタニティドレスはお腹に楽で、見た目だってそれなりだ。

 外に出るのなら未だしも、後宮内くらいなら十分に来客に耐え得るという判断だった。


 ――これが、あの女の発案したものだっていうのは、少しだけ気に食わないけど。


 さっきの鏡が割れてしまったので、新しいのを持ってこさせて全身くまなく確認しながら、私はニヤリとほくそ笑む。


 この装いで陛下の気が引けた後あの女に「貴女のあのドレスのお陰で、陛下からの寵愛が深くなったわ」と、笑顔で勝ち誇ってやるのが今から楽しみだわ。


 ……うん、よし。

 完璧だわ!


 ちょっと直しただけなのに、鏡の中の自分の見目は見違えた。

 心なしか、体調もよくなったような気がする。


 結局愛が、何者にも勝るのだ。




「お待たせいたしました、陛下」


 ニコニコと微笑みながら応接室に姿を見せると、振り返った陛下が「あぁ」と答える。


「すまなかったな、顔を出せなくて。ミーナの体調不良の件は何度も耳にしていたんだが、最近少し忙しくて」

「構いません。こうして来てくださったんだもの! でも、少し寂しかったわ」


 こういう時は、我儘を言わない。

 でも、可愛く急貸して見せると、男心を擽るための常套手段に、彼はニコリと微笑んで「次はちゃんと早く来るよ」と言ってくれた。


 ほぉら、私の手にかかれば陛下もこんなものよ!


「最近お忙しいって、何かあるの?」

「あぁそうか、君は最近社交界に出ていないから知らないのだったな。エリスが少し大規模な慈善事業をする予定なのだが、それが意外とよくできていてな。諸侯からの評判も良く、俺も少し忙しくなっている」

「へ、へぇー……」


 笑顔が少し引きつる。



 エリス。

 それは王妃の名だ。


 あの女、慈善事業なんてしようとしているのね。

 しかも結構派手なのを。


 まったくもう、あのメイド。

 そんな事になっているのなら、とっとと探りを入れて情報を持ち帰ってくればいいものを。

 きっと何も掴めていないから見せられる顔がないのだろうけど、本当にドン臭いったらないわ!

 

「し、しかしたかが慈善事業でしょう? 男の陛下のお手間を取らせるような事にはならないのでは……?」

「それがあの案の興味深い所でな。愛国心を育て、経済の活性化を図り、弱きに援助する慈善事業。エリスが提案したのは、そういう国を巻き込む新しい慈善事業だ」

「そ、そんなのは……」

「『女がやるような事じゃない』? まぁ実際にそういう声もあるな」

「そうですよね!」

「だが」


 光明が見えて飛びついた私に、彼はまるで何かを思い出すかのように、フッと柔らかな笑みを浮かべて言った。


「これが俺の名声を高める事にもなるのだと、エリスには言われている」


 嬉しそうなその顔にイラっとしたのは、その笑顔が向けられている先がエリスだからに他ならない。



 ――今まで私の前であの女の名を出す時は、いつも煩わしそうだったり、どうでもよさそうだったりしていたのに。


 今後もそうでなければ困る。

 でなければ、私の立場は……。


「そ、そうだ! 陛下。慈善事業なら、クリーラント教会への慰問などがいいと思いますわ! 少々大変な奉仕ですが、国をも巻き込むだなんて、そんな新しい事をする程に元気が有り余っているのなら、ちょうどいいと思いますもの!」

「何を言っている。既に慈善事業は王妃に与えられる予算の範囲内で、ある種の国家事業として動き出している。今更止められるものではない。止める理由もないしな」「しかし!」

「そんなにクリーラント教会が気になるのなら、そなたがその子を産んだ後に、慰問に行けばよいだろう」


 食い下がった私に、彼は少し怪訝な顔をしてそう言った。


 少しばかり、投げやりな声色になっている。

 かつてエリスに向けられていた筈のその色の声が、今は私に……。


「か、考えておきますわ」


 これ以上食い下がるのは、悪手だと思った。

 トーンダウンした私に、陛下は「そろそろ行く。お前の体に障ってもいけないしな」と言って出て行った。


 陛下の背中をお見送りして、扉がパタンと音を立てて閉まる。

 それからしっかり三秒間。

 私はちゃんと我慢した。


 そして。


 ギュッと握った両手が震える。

 怒りだ。

 沸々と沸き上がるような怒りが、私の制御を大きく超える。


「あんの、クソ女!!」


 陛下に出されていたティーカップを、壁にガンッと投げつけた。


 パリンッという軽い音が響く。

 白かった壁に紅茶染みが付いたが、そんな事はどうでもいい。



 何か。

 何か、しなければ。


 邪魔してやる。

 絶対に、邪魔してやる。



 ……そうよ。

 あんなに陛下が期待している新しい慈善事業だもの。

 失敗なんてしようものなら、陛下の心証がどうなるか。


 いえそれ以上に、一種の国家事業のようなものだとも言っていた。

 失敗すれば、国の名に泥を塗る事になるだろう。

 「王妃のせいで」。



 いいじゃない、それ。

 少しだけ気持ちが浮上した。


 腹の中から、トンッという重い衝撃が来る。


 あら、陛下と私の子も後押ししてくれているわ。

 なら猶の事頑張らないとね。

 母親だもの。



 さぁて、何をしようかしら。

 楽しみだわ。


 計画を練る事さえ楽しみだなんて、満足に動けない身重の身に、あの女にしてはいい遊び道具をくれたようね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ