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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第七節:王妃様参加の夜会にて(第八賭・表:対貴族たち)~噂好きな夫人視点~

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第63話 王妃様の志 ~噂好きな夫人視点~



 そういえば、彼の家は代々文官の一族だ。

 もしかしたら自分たちが省かれた事に、少し不満があったのかもしれない。


 王妃様は、小さく笑った。


「私に近しい文官と彼が信頼する文官たちには、この慈善事業全体の運営をお願いしているのです。その関係で、私の伝手でお願いできる文官の方がいらっしゃらなくて。これについては、ただ偏に私の力不足ですわ」


 手が回らない自らの落ち度を恥じるような、そんな微笑み。

 その美しさに、私は密かに息を呑む。



 王妃様程の権力を持つ方なら、王族からの命令として文官たちを駆り出せばそれで済む。

 勿論通常業務の上にこのような催しにも駆り出されるとなれば、必然的に仕事も増えようものだが、王族からの命となれば、断るなどという選択肢はない。


 それこそ断ろうものなら、どうあっても王族からの心証が悪くなる。

 王命とまでいかないのであれば強制力はないものの、王族からの「お願い」を断る事は、どうしたってハイリスクなのだ。

 だから皆、基本的には従うだろう。

 余程の反発心がなければ、だけど。



 それで言うのなら、スイズ公爵家や王家に対し並々ならぬ敵愾心を持っている貴族は少ないだろう。

 少なくとも表立って反発するような事をしたい者は、かなり稀有だ。


 たとえ水面下で鍔迫り合いのような状況があったとしても、「まだ期ではない」と考えると思う。

 それこそ陛下が王妃様やスイズ公爵家を冷遇している状況があるなら未だしも、そういう話は聞こえてきていないし。



 そういう状況であっても尚、彼女が王族として文官たちに働きかけなかった理由が気になった。

 しかしその答えはすぐに分かる。


「今回の行いが慈善事業である以上、行ってくれた働きに明確な見返りは渡せないのです。だって貴族にとって、慈善事業はノブレスオブリージュ。見返りなく与える事の美しさと尊さ、高潔さを示すものですから。ですから『仕掛け人』側に回る以上、その方々にも慈善の心を以て携わって欲しいのです。慈善を強制するのは、美しくありません。慈善の押し付けはしないと決めているのです」


 思わず目を見開いた。


 なんという事だろう。

 「王族からのお願い」などと考えていた自分の浅はかさが恥ずかしい。


 彼女はきっと心から、これを慈善事業としたいと思っているのだ。

 でなければ、人は楽な方を選ぶ。

 お願いした方が楽なのだから、そちらを選ぶ。


 しかし彼女はそれをしないと「決めた」のだと言った。

 それは即ち、たとえ手間がかかっても「ノブレスオブリージュ」に立ち返り本気でこれを慈善にしようと決め、携わる人たちにも同じ気持ちを共有してほしいという事なのではないか。

 少なくとも私には、そう思えたのだ。



 形ばかりの慈善事業が普通となっているのは、誰もが少なからず感じていた事だった。

 慈善事業は、令嬢や婦人の義務に近いものだからやらねばならない。

 誰もがきっとそう思った事がある筈だ。


 それに今、敢えて王妃様は一石を投じようとされている。

 私はそう感じた。


 今の物言いは、私が考えたような手法で慈善事業の功績を作った夫人・令嬢と、対立する可能性がある。

 それこそ失敗などすれば、「所詮は机上の空論だ」と「言葉では綺麗な事を言っているけど」と「現実が見えていない」と。

 そんなふうに揶揄されるだろう。


 今の王妃様の様子を見ていると、それを王妃様が分かっていないとは私には思えない。

 きっと「それでも」と、分かっていて選んだのだろう。


 高い志が伺える。

 私などとは天と地ほどの差がある。



 ――これが国を統べる人の妃なのだと、まざまざと見せつけられたような気がした。

 そして強烈に憧れた。


 私もこの方の言う慈善事業に参加してみたい。

 

「文官や騎士、執事やメイドでないと、この催しには参加できないのでしょうか」


 気が付けば、私はそう問いかけていた。


 王妃様の瞳が、こちらを向く。

 私を映して、花のつぼみが開くように優しく柔らかに綻ぶ。


「そんなふうに言っていただけるなんて、嬉しいですわ。勿論善意を示してくださる方にお願いしたい事もありますの」


 嫋やかな響きが耳をくすぐる。


「皆様には、寄付をお願いしたいのです」

「寄付?」

「はい。慈善のための孤児院への寄付、そのためのお金です。しかし、ただそれをお願いするだけではつまらないでしょう?」


 たしかにそれでは代り映えしない。

 寄付は、形だけの慈善としては最も手っ取り早く簡単な方法だ。

 誰もが一度はした事があるだろうし、実際に継続的にそれをする事で、自分の手間と時間を掛けずに慈善活動の体裁を整えている夫人や令嬢も多い。


「厚かましくも『私を通して寄付をしていただきたい』とお願いするのは――これは、私にとっては先程話したような啓蒙活動は一度では実を結ばないと思っていますので、二回目三回目とこの祭りを続けるため、この慈善を国にとって実となるものに昇華させるためには必要な事なのですけど、それはあくまでも私の思いですもの。皆さんにとってはあまり自分事ではない筈です」


 たしかに、言葉を飾らずに言うのなら「何故わざわざ王妃様の実績作りに協力しなければならないのか」という話だ。

 同じ方法・同じ金額で寄付を行うのなら、取りまとめて「王妃様の」という名札の付いた慈善より、自分の名だけが付いた慈善の方が聞こえはいい。


 そもそも慈善活動は、社交場での自分の体裁を保つためという側面がある。

 王妃様の名でそれを為されては、こちらはやり損なのである。


 しかし、そんなこちらの気持ちをまるで見透かしたかのように、彼女は歌うようにこう続けた。



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