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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第五節:後宮にて(第八賭準備:対エインフィリア公爵夫人)

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第59話 嘘と本当



 ここで弱みを見せてはならない。


 

 実際のところは、陛下はああいう性格なので自分の利にならなくなった瞬間に私を見捨てるだろう。

 時戻り前の時と同じように、何の躊躇もなく。


 だから私も彼を信用する気はないし、それはルリゼに対しても同じだ。

 今は害がないから傍に置いているだけで、彼女以上に信頼のおけるメイドがもう一人見つかったら、ルリゼは少しずつ遠ざける。


 ルリゼ自身も、私を主として慕ってはいない。

 すべてにおいて自分の知った事は陛下に報告するだろうし、私自身に好印象は抱いていないので、どちらかというと悪い意味で着色が入る可能性の方が高い。


 が、そのような緊張感のある間柄である事を他人に知られて、いい事はない。

 


 きっとここで、今からでも「王国派を次点で優遇する」と言えば一番丸いのだろう。


 ユアリアがこのような探りを入れてきた理由も、自分にのみ利がある状況が気持ち悪かったから。

 つまり、何か裏があるのではないかと勘繰ったからなのだろうし、真っ向からあちらからのこの申し出を断るのは、ルリゼの耳に「王妃としての責務の一つである、陛下の政治上の地盤固めをしない」と言っているように聞こえるだろうから。


 実際には「何故私がわざわざ敵の地盤固めをしなければならないのか」という気持ちで一杯だけど、そもそも陛下の事をも敵認定している事がバレれるのはよろしくない。

 真っ向から言える筈もない理由だ。


 つい匂わせて陛下に対して嫌味の一つでも言いたくなるところだけど、それもまた最悪手以外の何物でもない。



 その上で、「王国派を次点で優遇する」という選択肢は存在しない。


 私は陛下の妻としてではなく、私自身の力で子どもたちを守れるようになりたいのだ。

 様々な政治的思惑や男性優位な考え方が根付いた古くからの保守的派閥など、どのように頑張ったところで完全に私の手中には収まらないし、そもそも国王という名の権力とは切っても切り離せない派閥である以上、王妃という立場を排した私自身の盾にはなり得ない。


 私が『陛下の妻』という名の立場に魅力を感じていたならば、きっとそうする意味はあったのだろうけど。


 ――その立場それ自体に固執する理由は、今の私にはないもの。


 そうである以上、私がすべきは私自身についてくる派閥作りでしかあり得ない。

 それ以外に費やす時間もない。


「王国派の方々も、優遇しません」

「それは何故……?」

「逆に夫人は自分の助けになる派閥が一つしかなくて、不安に思ったりはしないのですか?」


 私が質問に質問で返すと、彼女は意図をはかりかねたような顔で私を見てくる。


 普段なら、決してしない表情だ。

 少なくとも私は初めて見る顔である。


 だからこそいい。

 そういう顔が引き出せたという事は、相手が私の話に興味を持ったという事で、自分の中にない答えを探しているという事。

 そういう相手は、存外「そういう考え方もあるのだな」と勝手に思ってくれたりするものだ。


「私は保険として、陛下が今最も頼りにしている派閥や、敵対もしくは中立的な立場を示している既存の派閥以外の派閥を作るべきだと思っているのです」

「……それは第四の派閥を作る、という意味でしょうか?」

「第四だなんて、いかにも他との間で敵対しそうな言い方ですね」


 言外に、そういうものではないのだと示す。


 すると、流石は社交の手練れの一人。

 話の筋道が分かったのだろう。


「そのような事が、本当に……?」


 驚きと困惑が入り混じった表情で、私に対して聞いてくる。


 彼女の問いに、私は頷いた。


「そのためのドレスであり、そのための《《これから》》です」

「これから?」

「はい。一つ、慈善事業を成そうかと。夫人には、そのお手伝いをお願いしたいのです」


 そうして私が続けた話を聞いて、ユアリアはゆっくりと目を見開いた。


「それならたしかに、派閥に関わらずお話に乗ってくる方も多いでしょう。が、そのような事を本当に……?」

「もちろん。ただの夢想を豪語する趣味はありませんよ。実際に、既に計画は進んでいます」


 夫人にとっても、この話は自身の勢力拡大の助けになる、いい話の筈である。

 そうする事で夫人には手伝いの手間以上に甘い蜜を吸わせる事になるけど、いつまでもそうという訳ではない。


 これはその後のための布石。

 先に続けて美味しい思いをさせておけば、その味を忘れる事は難しいでしょう?


「頼れる派閥を王国派以外にも持つ、それもそれが他派閥を股に掛けた団体であるという事は、いつかきっと陛下のお役に立つでしょう。陛下には、自身がやりたいと思った事を周りの反対などに惑わされずに成す事ができる場が必要なのです」


 この言葉は、完全なる善意でも事実でもない。

 たしかに陛下にとって利になり得る状況は出来上がるけど、それをみすみすあの男に使わせるほど、私は甘くもあの男の事を許してもいないから。


 それでもこう言っておけば、ルリゼは一定の納得はするだろう。

 それを陛下に報告したところで、美味しそうなものを目の前にぶら下げられている動物も同然だ。


 自分が利を見る未来が見える事に満足し、あわよくば少なからずの助力さえするかもしれない。

 もしそうなれば、初めて陛下の事を路傍の石と比べて少しは役に立つ何かに見えるかもしれない。

 煩わしいだけの存在ではなくなるかもしれない。


 ――まぁそれでも、私が彼に心を許す事は未来永劫ないのだけど。




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