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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第二節:後宮にて(第六賭:対側妃のスパイメイド)

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第53話 潜り込んできた側妃のメイド



「その『考えている事』とは?」


 べトナー卿が聞いてくる。

 彼の表情には「本当にそんないい方法があるというのか」という疑問と疑心の入り混じったものが張り付いていた。


 そこには一種の緊張感さえ存在する。

 もしかしたら「もし私が夢見がちな提案をした時には、キッパリと指摘しなければならない」と思っての事なのかもしれない。


 ――いかにも生真面目な彼らしい。

 そんなふうに内心で独り言ちる。



 おそらく彼は、私に仕事以上の感情をなんら抱いていない。

 彼に対しては、前の職場での助力はしたけれど、たったそれだけの事である。

 それ一つで全幅の信頼や献身を私に向ける事はない。


 世の中も、人間も、そして何よりこの生真面目な彼も、そんなに簡単ではないのである。



 だからこそ、私は彼を選んだのだ。


 彼ならちょっとやそっとの事では、他の誰かに靡く事はない。


 敵ばかりのこの世界で、確固たる中立性や「雇い手に対して仕事の義務を負う事」「仕事に慢心や手抜きがない事」などは、私にとっても分かりやすい信頼の軸なのだ。


 時戻り前の彼は「例の横領の首謀者たる経理文官長から金をチラつかされた」とも言っていた。


 それでも尚、あちらに与する事はおろか、許容さえできなかったのだと。

 今の自分は非常に厳しい立場だけど、それでもあの時の自身の判断を「間違っていた」と思った事はない。

 そう言っていた。


 その金にも権力にも靡かない持ち前の生真面目さが、私に一定の信用を与えてくれる。



 だからきっとこの話も、難しいとは思っても最大限の手を尽くしてくれる。

 この計画の事だって、他に口外もしないだろう。


 そういう信用に繋がっている。

 ――しかし。



 彼のずっと後ろの方で、アンがこちらに手を振っていた。


 私が彼女に気が付くと、あちらもその事が分かったのだろう。

 嬉しそうに更にブンブンと大きく手を振ってくる。



 傍から見れば、微笑ましい主従。

 人によっては若干『従』が分を弁えていないようにも見えるかもしれないけど、これは《《想定通り》》だった。



 答えを待つ彼の前で、席を立つ。


 そのまま部屋から出て行こうとする私に、彼は背中越しに「あの……?」と声をかけていた。

 その彼の口を、彼が次の言葉を口から発する前に塞いだ。


 その場で振り返り、自身の口元に人差し指を当てる。

 たったそれだけの動きだけで。



 彼にも手招きをして、扉を開けた。

 扉の外には、これまた真面目な騎士が一人部屋の前で護衛をしている。


 こちらは私に初めから声をかける気がない。

 彼はルティードお兄様によって昔から「俺が聞いた時にだけ答えればいい」という教育を受けて育っている。


 それ故に、無用な私語や詮索をしない事もまた自身の仕事の一つだと思っている節がある。

 お兄様のところから配置換えになった後も、彼のやる事は変わらない。

 彼がするのは、ただ護衛対象を守る事。

 それだけだ。



 彼は、私が何も言わずとも勝手についてきた。


 そうしてやって来たのは、私たちが話をしていた部屋の隣。

 そこにも小さな部屋がある。


 今は使われていない、空室になっている使用人の部屋だ。


 

 私はその扉を、躊躇なく開けた。

 部屋には簡素なベッドと、机と椅子。

 そして。


「私には、信用に足る人間以外の盗み聞きを許容する趣味はないのだけど」


 胸の前で両腕を組んで尋ねる。


「そして貴女に、この部屋を与えた記憶もないのだけどね」


 部屋には、一人のメイドがいた。

 壁にへばりついた普通ではない格好で今の今まで耳を欹てていた彼女は、私たちの入室に驚いて、頭でも真っ白になったのだろう。


 逃げる機を完全に逃したどころか、その普通ではない格好のまま口をポカンと開けてこちらを見てきている。


「それどころか、私の居室に普段出入りしているメイドではないわね。出入りのメイドが少ないから、人目も少ない。紛れ込むのも楽……だと思ったのかしら。だとしたら残念」


 そう言って、温度のない笑顔でクスリと笑う。


「たしかに私のところに出入りするメイドの数は少ない。その上これほどまでに私や子どもたちがいつもいる場所に近いこの辺りのフロアともなれば、アンとルリゼ以外には、決まった日にしか入る事を許していないの」


 もちろん今日は、《《そういう日》》ではない。

 そうでないからこそ、こうして客人を招いた上で大切な話をしていたのだ。

 その上で、私は子どもたちと一緒に中庭で遊んでいるアンに、一つのお願いを予めしていた。



 ――もし、隣の部屋に誰かがいたら、庭から私に手振りで合図をしてちょうだい。

 相手が誰であっても、関係はない。

 人影が見えたと分かっただけでいいから。


 それは、私が外部のメイドたちを中に入れる許可を出していない今日、一人は子どもたちと庭に、もう一人は間違いなく私の世話兼監視をするために同じ部屋から離れないと分かっていたからこそ、できた一つの賭けだった。


「信用するメイドが少ないと、《《その他》》をあぶり出すのも簡単ね。それで、何故《《側妃のメイド》》がこんな日に、こんな場所にいるのかしら」


 顔を青ざめたメイドが耳を当てている壁の向こう。

 そこにあるのは、私とべトナー卿がつい先程まで慈善事業計画について話していたあの部屋である。



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