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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第一節:後宮にて(作戦会議 前編)

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第52話 虎の子の慈善事業案



 予定通り、その日の午後にはべトナー卿が私を訪ねて部屋に来た。


 子どもたちはアンに任せ、ルリゼは私の後ろ。

 「男性と二人きりになる訳にはいかない」という理由と給仕役として、メイドが一人必要だ。

 陛下に内容を報告される事を前提にしなければならないが、現時点では暫定でアンの次に――主に「側妃ミーナに内容を漏らさない」という一点においては信用できる。


 まったく、早々にもう一人くらい信頼の置けるメイドを増やしたいところね……なんて思いながら、べトナーに向かいの席を示し、早速話をし始める。


「べトナー卿、貴方を経理から引き抜いた時に私がした話は覚えている?」

「はい。王妃様の慈善事業の手伝いが、次の俺の仕事だと」

「そう。たった一人の手伝いよ。だからこれから話す事は、私がこれまで内で温めてきた、虎の子の慈善事業案」


 この言葉には、暗に「情報管理を徹底してほしい」という旨を含ませている。


 べトナー卿は頭が回る。

 当然の如く理解して、「勿論、細心の注意を払います」と頷いた。


 それに私も頷き返し、口を開いた。


「慈善事業として――五都市で順番に祭りをしようと思うの」

「祭り、ですか?」


 べトナー卿らしく、一言一句逃すまいとペンを構えていた彼が、キョトンとしてこちらに顔を上げる。


「孤児院への寄付だとか、炊き出しだとかではなく?」

「それだとあまりにも普通じゃない?」

「まぁ、たしかに誰もが最初に思い付き、大抵そこに落ち着く事ではありますが」


 実際、貴族にとっての慈善活動とは、名売り行為だ。

 行ったという事実がまず大事で、その実績さえあれば問題ない。


 あとは、社交場で話題に出した際に小さな苦労話ができたり、誰かのからの感謝の声があれば、社交の武器としては十分有用だ。


 逆に言えば、それ以上に手間も時間も掛ける程の価値があると思っている人間は、限りなく少ない。

 だから新しい事をしようと思う人間は、そもそもいない。


「新しい事をしようという心意気はとてもご立派だと思いますが、滞りなく実施するための運営や、場合によっては各所との調整・ノウハウの吸収など……すべき事も多岐に渡ります」

「えぇ。だから貴方を引き抜いたのよ」


 もちろん私一人でできるとは思っていない。


 スキル的にも、経験的にも、私一人では机上の空論。

 ただの願望を無理やり実行に移したところで、自身の思った形にならなかったり、逆に方々に迷惑を掛けたり、失態を犯すのは目に見えている。



 それでは意味がない。


 他の人たちがそうであるように、私だってこの慈善事業を社交に――自身の影響力を拡大させるために行うのだ。


 失敗は、むしろ社交の足かせになる。

 そうなるくらいなら、何もしない方が幾分かマシである。



 それでも尚挑戦するのは、従来通りでは大した効果は見込めない。

 妊婦ドレスの件で少し話題は作れたけれど、未だに社交場は側妃・ミーナの主戦場だ。


 先日対外的にもミーナの懐妊が発表されて、今まで以上に社交界は更に王妃派と側妃派、ひいては後ろ盾である和平派と侵略派の水面下でのつばぜり合いが頻発するだろう。



 今の私が持つ優位性があるとすれば、出産までの約七カ月、ミーナの社交場での露出が極端に減る事だ。

 私はこの機をうまく利用して、邪魔が少ないだろう今のうちに影響力を広げたい。



 ……などという思惑を、彼にすべて話すつもりはなかった。


 仕事にあたって、彼にはこういう政治的な思惑を意識してほしくはないと思っている。

 彼にはただ自身のやるべき事、一文官の領分で、キッチリ自分の仕事を熟す事を求めたい。


 それが、周り回ってそつのない成功に繋がり、私の評価にも繋がる。

 妙な政治的背景を頭に入れて、彼に変な忖度をさせる余地を与えたくないのだ。


「実直で、上司に楯突く程の正義感の持ち主。そんな貴方を手中に収めたからこそ、私はこの新たな試みが成功すると確信しているわ」

「そんなに信じていいんですか。『上司に楯突く』と言ったって、それができたのは貴女の助けがあったからです。貴女からの申し出がなかったら、あの資料もお蔵入りしていたかもしれない」

「いいえ、それはないわ。絶対に」


 だって時戻り前に、彼は実際に自身で糾弾すべく行動を起こした。

 結果的に糾弾は失敗してしまったけど、動いたという一点において、私は彼を信頼している。



 彼は、驚きに僅かに目を見張った。


 それから生真面目を絵に書いたようなその目を、ほんの少しだけ緩め。


「そのように評価していただける以上、一層精進しなければなりませんね」


 やりがいがありそうだ、と言わんばかりにそう言い頷いた。



 やる気になってくれたようで、何よりだ。

 私も微笑を湛えながら「それで具体的な話なのだけど」と話を切り出す。


「場所は、この国の主要五大都市。同じ運営方針で、場所を変えて順番に執り行う。『祭り』と称したのは、一種の比喩よ。本当にお祭りをするというよりは、建国記念の周年祭典時には、町にもお祝いの雰囲気になるでしょう? そういう場を『貴族には寄付を募り、困窮者には仕事を与え、商人には経済を回す事で報酬とし、町の人たちには楽しい気分とほんの少しお得な買い物ができる場として提供したい』という試みなの」

「なるほど。それなら都市にもある程度の運営ノウハウがあるし、寄付と仕事の斡旋で十分慈善活動の体裁ができる。王妃様が主催するとなれば、国民たちは『王族が自分たちを気にかけてくれている』と実感しやすいでしょう。利益が出るのなら、商人の協力も得られそうです。しかし、『ほんの少しお得な買い物』とは何ですか?」

「貴族からの寄付金の一部を商人に支払う事で、物の値段を少し下げる事ができれば、と思っているの」

「それは、こちらからの金は受け取って、実際には値段を下げない……なんていう事にはなりませんか?」


 べトナー卿の懸念も尤もだ。

 そもそも商人は仕事があって、店によって収入の増減はあるものの、基本的には一定の金を稼いで生きている。


 現状で、生活に困窮する事はないのだ。

 もし本来困窮者や国民全体に行き渡るべきお金を、そういう者が着服するなどという事になれば、寄付してくれた貴族の心象がかなり悪い。


 他の貴族たちも、私の失敗として論い、ある事ない事言いふらす。

 私の評価も下がるだろう。

 

 しかし。


「それについては、一つ考えている事があるの」



【連載再開しました!】

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