第50話 時戻り前、“すべてが敵の慈善活動”に関する記憶
私には、今でも悪夢として思い出す記憶が三つある。
一つ目は、言わずもがな子どもたちの死を前にした瞬間の記憶。
二つ目は、亡き子どもたちについて陛下が言ったあの冷酷な一言。
そして三つ目が、すべてが敵だった、慈善活動。
元々側妃・ミーナによって、日常的に社交界からつま弾きにはされていた。
様々な方法で私という人間は、追い詰められ人としての尊厳を奪われていた。
それでもそれらの記憶より、あの日の記憶の方が悪夢だ。
時戻り前の私は、慈善活動があくまでも社交活動の一環である事は分かった上で、それでもそれだけの気持ちではなかった。
慈善活動は私にとって、王妃として最後に残された自由でもあった。
活動に打ち込んでいる間は、私は唯一周りの目を気にせず、自然と笑って、胸を張れた。
誰かの為に存在する事は、後宮の中に居場所のなかった私の、最後の居場所だったのかもしれない。
楽しかったし、誇りも持てていた。
しかし結局、活動は途中で止めてしまった。
理由は簡単だ。
――皆がそれを望んでいない。
そう、感じてしまったから。
奉仕する相手が、助けが必要なはずの人たちが、私を蔑み罵倒したのだ。
“俺たちを見下しているくせに”
“自分は散々贅沢な暮らしをしておいて”
“お前からの施しなんて要らねぇよ”
彼らの心が悉く、私の心を折り尽くした。
すべてが終わった後に調べさせて、これもまたミーナの手が回っての事だったと初めて知った。
ミーナは噂を流していた。
“王妃・エリスは、国民の血税たる国庫の金を湯水の如く使い、私腹を肥やしている”
“王妃・エリスは、裏で貧民たちの事を『まるで蛆のようにうじゃうじゃと沸いて』『あのような者たちがいるから、この国は美しくならない』と言っていた”
“王妃・エリスは社交界で『あの者たちは、私の施し失くして生きていく事など叶わない』『一度でいいから、死ぬまでに私の役に立ってほしいものだわ』と嘲笑っている”
そんな、根も葉もない噂を。
噂を流したミーナはもちろんだけど、あれだけ心を尽くした活動を見てきた筈の人たちが、どこから流れてきたのかも分からない噂を信じた事が許せなかった。
そして、あれだけ時間がありながら彼らの信頼を勝ち得なかった自身に落胆した。
私はこの件で、国民に拒絶された時と、後の調べの二回、絶望の淵に落とされた。
――いえ、三回だったわね。
活動を止めた後に、陛下から「ついに、俺が任せた『王妃としての最後の仕事』さえ放棄したのか」と言われたのだ。
侮蔑の籠った、用なしに向ける瞳だった。
おそらく私が完全に見限られたのは、この時だったのだろうと思う。
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