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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【閑話】

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第49話 ある神の視界



 サラサラと、砂時計が時を刻む。


 いつからそうだったのかは、覚えていない。

 気が付けば我はその前で、砂が落ちるのを眺めていた。



 その砂の一粒一粒は、誰かの一生。

 どこからともなく生まれ出でて、下に滑り落ちて幾らか(何百年)か時間が経つと、パチンと弾けるように消える。


 それが輪廻転生なのだと気が付いたのは、ひどく昔だ。

 一粒にジッと目を凝らせば、その者の人生が見えると知ったのも、昔。


 そろそろ終わる命が分かるのも、粒の輝きに変化があるから。


 淡く光るのだ。

 命を燃やし尽くすかの如く。



 その日もそういう粒を見つけた。


 その粒が私を呼んでいる気がした。

 だから目を凝らし、その者の一生を覗き見た。


 とてもちっぽけで哀れな命だった。

 望む物を最後まで得る事ができず、手の中にあった幸せには、失うまで気付く事ができなかった。


 酷く嘆いていた。

 後悔していた。

 自分を責め、敵を憎み、守るべきだった子どもたちの魂の、来世の幸福を切実に願っていた。



 転生したところで、子どもたちの魂とまた出会える訳ではないというのに。

 出会ったところで、その子たちだと分かる筈もないというのに。


 それでもいいと言わんばかりに祈るその心に、我は神としての使命を思い出して。



 我は時の神。

 そして、反逆の神。


 だから時の神の力を以って、この魂に反逆の機会を与えよう。


 そうした結果を、反逆の経過を、今、あの時と同じようにジッと目を凝らして、我は見ている。

 


「王妃様、べトナー様がお越しになりました!」

「ありがとう、アン。こちらまで通してあげて」


 運命に反逆する魂(王妃)の言葉に、メイドは「はい!」と元気よく答える。



 少ししてから、メイドに連れられ文官がおずおずと現れた。


「ようこそ、べトナー卿」

「あの、ここまで入ってしまって、大丈夫なんですか? 俺」

「いいのよ。元々アンだけじゃなく、子どもたちにも会わせたかったし」


 おそらく文官が気にしているのは、通されたのが応接室ではなく、その奥にある王妃の私室だったからだろう。

 しかし王妃は気にしていないどころか、ロディスが覗き込んでいるベッドに足を向ける。


「リリア、おいで。ロディスもいらっしゃい」


 娘を抱き上げた王妃の横に、息子がトテトテとついてくる。

 彼女が向かったのは、もちろん文官のいるところ。


「この子が、ロディス。で、こちらがリリア。ロディス、リリア、この人はお母様のお仕事のお手伝いをしてくれる人よ」

「お母さまを助けてくれる人?」

「そうよ。とても優秀で、正しい人。二人にもきっと、優しくしてくれるわ」

「お、王妃様……」


 王妃が子どもたちにふわりと微笑みながら言うと、文官は「恐れ多い」と言わんばかりに恐縮する。

 そんな彼を、息子は見上げた。

 キラキラと輝く、尊敬の目で。


「お母さまは、うそは言わないの!」

「うっ!」

「眩しいですっ!」


 無垢な眼差しが、文官に「優秀で、正しくて、優しい人!」と言いたげにまっすぐ向けられた。

 今までずっと大人の世界で仕事を押し付けられ冷めていた文官は、その眩さに人の温度を取り戻し、一緒にその眩しさを浴びたメイドに至っては、何故か「眼福ですぅ!」と言って悶えている。


「ロディスです! よろしくね、えっと……」

「申し遅れました。アレン・べトナーと申します。第一王子殿下におかれましては――」

「アレン! よろしくね!!」

「あうぅ!」


 長く続きそうだった生真面目な挨拶口上が、知り合いが増えた喜びに笑顔の花を咲かせた息子によって強制終了された。

 娘の方も手を伸ばし、下げられていた文官の頭をポンポンと叩く。


「アレン。貴方には、手伝ってほしい施策が幾つもあるの。私一人では成せない事を、この国の民のためにより大規模で、有用な事を行うために」


 子どもたちのために、私は『王妃』という肩書だけには留まらない影響力を持たねばならない。

 そのためには、国中巻き込むような規模の、有用な施策をせねばならない。


 王妃の一生を覗き見ているからか、そんな王妃の内心が伝わってきた。



 決して純粋な国への献身ではない。

 しかしそれは『子どもたちのため』という、何よりも純粋で母にとっては至極根源的な願いに連なる野望である。


「妊婦も無理なく着れるドレスもノエさんの妹にプレゼントし、エインフィリア公爵夫人も職人とうまく連携して、新型ドレス普及のために動いている。そろそろ社交界で成果のお披露目も始まるでしょう。皆の注目が、ドレスの発案者である私に集まる。今こそ事を起こす、最大の好機――」

「王妃様、お客様がおいでです」


 王妃の言葉を遮るように、メイドが声を上げた。


 先程の元気のいいメイドではなく、落ち着いた声の冷静なメイド。

 王妃が「誰?」と尋ねると、返ってきたのは「ジェイス卿です」という声だった。


「ウィルターが?」


 何故、と言いたげな王妃に対し、「宰相補佐閣下からのお手紙も持ってこられている様子で」という言葉が返される。

 王妃は「そう」と答えると、少し考えるそぶりを見せた後「通してちょうだい」と答えた。



 スラッとした背の高い騎士が室内に通される。

 無表情な彼は貴婦人に対する騎士の礼を律儀に一つした後、「ルティード様からです」と懐から、手紙を一通差し出した。


 王妃はそれを受け取り、読む。


「……ウィルター、貴方はここに書かれた内容について知っているの?」

「はい。口頭で説明を受けました」

「その上で了承して、ここにいるのね?」

「その通りです」

「そう……」


 苛立たしい。

 王妃は内心で毒ついている。



 見透かされている事。

 借りを作られた事。

 しかしこの申し出がありがたい事。


 あれだけ援助は要らないと言ったのに。

 人が嫌がる事をするのが上手な兄だと思う一方で、この話を拒否する理由がない。

 せめて本人が難色を示していれば理由になったかもしれないけど、微塵もそういう様子はない。


 そうである以上周りに兄との不仲を勘ぐられる隙を与えないためにも、受け入れるしかない。

 おそらく今頃「してやったり」と、フッと笑っていたりするのだろう。

 

―――

 先日の一件で、お前が欲しいのは信用できる人材だと感じた。

 実際に先日メイドを一人新たに傍に置いたようだが、護衛に関しては適任がまだ見つかっていないのではないか。


 俺が見る限り、今の騎士とは折り合いが悪いのだろう。

 元々陛下の監視も同然だという事以上に、性格的に。


 その点ウィルターは、優秀だ。

 腕が経つのはもちろんの事、でしゃばるような真似はしない。

 少なくとも今の自己顕示欲が高く、自分の評価のために執拗なまでの護衛をしたかと思ったら、手のひらを返したようにやる気なくただついて回るだけの木偶の坊になるような者よりは、余程有用に扱える筈だ。

―――


 いつの間に調べたか、感じ取ったかしたのかは分からないが、どうやら内情を透かして見たかのような内容の手紙を渡されたのだから、たしかに我の目から見ても、ほくそ笑んでいる可能性はそれなりに高いように思うが。


「ロディス、リリア、アレン、アン。彼はウィルター・ジェイス。今日から騎士として、私たちの身の回りの護衛を任せるわ」

「今日は新しい人、いっぱい!」

「うーっ!」


 王妃の声に、息子と娘がそれぞれに湧いた。


 息子が「よろしくね、ウィルター!」と言うと、騎士はスッと片膝をつき、息子と目線の高さを合わせる。


「よろしくお願いいたします、殿下」


 相変わらずの、無表情。

 しかしそんな彼に、息子はまた目を輝かせた。


「今いる騎士の人と、ぜんぜんちがう! お母さま! 今日はいい人、いっぱい!」


 ガバッと振り向いて、いい笑顔を浮かべてきた息子に、王妃は思わず顔を綻ばせた。

 周りの空気が、つられて朗らかになる。


 王妃が求めたやり直しは、今のところ順調なようである。

 時を改変した事により生まれた波は、運命の揺り返しによって、今後更に強敵となって王妃たちの前に立ちはだかるだろう。


 しかしこの者ならきっと、あらゆる物を賭けて突き進むのだろう。

 逆境を吹き飛ばすような、今後の運命への反逆を見守ろう。



~~第一巻、Fin.



【連載再開しました!】

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