9.報告会
町まで歩いて戻り、ギルドの宿舎に辿り着く。
ワイバーンに乗っても良かったが、そこまでしてもらう必要もなかったので、ブレイズが飛び去った後で考えた結果歩いて帰ることにした。
レッドサインのメンバーを助けることができた上、昨日失った槍も拾うことができたので、結果だけ見れば今日は大成功と言えるだろう。
ただし、その裏では過程というもう一つの指標が、ひどい有様で横たわっていた。
サイクロプスに怯えて何もできなかった自分が、昨夜の自分に重なっている。
一晩で変わるなんて無理な話なのだろうが、それでも落ち込むことは避けられなかった。
しばらくして、僕は広間に呼び出された。
そこには昼間助けを求めてきたレッドサインのメンバーに、うちのマスターのパトリック、ブレイズの三人……に加えて、もう一人僕らより一回り年上の男性がいた。
「レンチェル、疲れてるところすまないが、少し話をしてくれないか」
「かまいませんよ」
「ああそうだ、こちらはレッドサインのマスターのローレットだ」
「どうも、ローレットだ……レンチェル、うちのメンバーを助けてくれてありがとう」
流れるように、その一人の紹介が入る。
公式ギルドのマスターがここにいることも、そのような人物から感謝されることに対しても驚きを隠せなかった。
「すげーじゃないかレンチェル、こんな偉い人に直接お礼されるなんてよ」
「まったくだ、私も鼻が高くなってしまうよ」
「な、なら良かったですけど……」
ブレイズとマスターに茶化されて、反応に困る。
ローレットさんは、こちらのやりとりを面白がるように見ていた。
その表情だけで、彼の気の良さが伝わってくる。
「あんたのおかげだ、本当にありがとう。ああ……名乗り損ねたな、俺はガルージュっていうもんだ」
「ガルージュか、僕はレンチェル。よろしく」
「よろしくな、あのワイバーンにも後で礼を言いたいもんだ」
「分かった、明日僕から伝えておくよ」
昼間に会話をしたメンバーからも、礼を言われる。
僕と同じぐらいの年をした青年だが、声は少し高い。
ワイバーンという言葉を口走っていたが、効かれて困る人はこの場にいないのでセーフだ。
そういえば、あのワイバーンは普段どこで何をして過ごしているのだろうか。
ふとそんなことを考えかけるが、すぐにどうでもいいことだと感じて、そのまま椅子に座った。
「……すまないが、そろそろ本題に入ろうか。まずサイクロプスとミノタウロスが出たあのエリアは、しばらく立ち入り禁止になった」
ローレットさんが話を始める。
あの区域が閉鎖されることには、妥当と言わざるを得ない。
今までは昼間であれば入ることができたし、夜間も特に警備がいるわけではなかったので、その気になればこっそり立ち入ることは十分可能だった。
だがこれからはそれも厳しくなるだろう。
「そしてブルーハウンドのメンバーを2名投入してもらうことになった、しばらくはそれで様子を見るつもりだ」
ブルーハウンドとは、レッドサインと同じ公式ギルドのひとつだ。
レッドサインが調査に優れているメンバーで構成されていることに対して、ブルーハウンドは哨戒能力に長けているメンバーが多いと聞いている。
彼らにそのエリアを警備してもらい、いちはやく危険を教えてもらうことで、この町に被害が及ぶ前に行動することができるだろう。
「で、何かあれば俺たちでやるってことか」
「そういうことになる。上の方に戦闘要員も欲しいと言ったのだが、今はそこまでではないと判断されてしまったんだ。すまない」
いざというときは、ブレイズと僕でなんとかする必要があるようだ。
本当にそれで何とかなるのかは不安だが、そう言われてしまった以上はどうしようもない。
「すまない、レンチェル、ブレイズ。これから先、危険な仕事を任せることになるかもしれない」
「任せてくださいよ、俺とこいつがいれば大抵のことはなんとかなりますって!」
マスターの言葉に対して、ブレイズは僕の肩を組んで自信にあふれた様子で返事をする。
ブレイズが戦っているところをあまり見たことがないが、聞いたところによれば相当な力を持っているらしい。
この自信は、きっと実力に裏付けられたものなのだろう。
「ローレットさん、もしよければ俺にも何かやらせて欲しいです」
ガルージュが口を開く。
助けてもらった事に恩義を感じているのだろうか、協力の提案をしているようだ。
「ガルージュ……分かった、今後この近くで仕事があれば君を優先しようか」
「ありがとうございます」
すんなりと話が決まる。
これから先、彼と顔を合わせる回数が多くなるだろうが、悪い気分はしなかった。
なりふり構わず、仲間のために助けを求めるその姿を、僕は覚えている。
「報告は以上だ……何か気になる点があればぜひ聞いてほしい」
「ローレット、彼らは自慢のメンバーだが、必要以上に危険な目には合わせたくない。できれば協力要請を続けてほしい」
「もちろんそうするつもりだ。あまり良いことではないが、今後このようなことがまた起きれば、流石に向こうも認識を改めてくれるだろう」
「頼んだぞ、レンチェルとブレイズからは聞きたいことはないか」
聞きたいことはあるはずなのに、こういう時だけはなぜか忘れてしまう。
ブレイズの方を見ると、俺は大丈夫だぜという感じでこちらに視線を向けてきた。
結局、そのまま黙り込んでしまった。
「確かに今は情報を整理するのでいっぱいだろう、後で思い出したら、その時はパトリックを通してくれ。なるべく早く答えるよ」
「わ、分かりました」
「よし、じゃあ僕とガルージュはこれで失礼するよ。今度会うときは、この町が落ち着きを取り戻してるといいな」
「レンチェル、なんかあれば遠慮なく言ってくれ、俺にできることは協力する」
「ありがとう、助かるよ」
そのまま二人は席を立ち、ローレットさんはマスターに会釈を、ガルージュは礼をして去っていった。
玄関の扉が閉まりきったところで、僕は聞きたかったことを今更思い出した。




