第52話(最終話) 生きて、あなたに会えて、よかった
冬を越え、空気にやわらかなぬくもりが混じり始めた頃。
あの日、俺が優乃さんに想いを伝えた公園は、満開の桜に包まれていた。
花びらが風に乗って舞い散る中、俺たちは桜の下のベンチに並んで腰をかける。
「じゃ〜ん!」
優乃さんが、得意げな顔で、鞄から漆塗りのお弁当箱を取り出した。
「おお……立派なお弁当箱だな」
三段重ねの本格派。これは期待していいやつだ。
「立派なのは、お弁当箱だけじゃないんだからね」
優乃さんがパカッと蓋を開ける。
1段目、唐揚げ。2段目、天ぷら。3段目、コロッケ。
揚げ物オールスター。……相変わらず、食生活は心配になるラインナップだ。
「お、おお~……すごいな」
「まあ、篝くんほどは、うまくないけどね」
少し口を尖らせた優乃さんに、慌てて咳払いしてごまかす。
「い、いただきます!」
唐揚げをひと口。
カリッと音が鳴って、じゅわっと旨みが広がる。想像以上に、おいしい。
「ん〜っ、おいし〜!」
隣でほころぶ笑顔は、クアッカワラビー顔負けの破壊力だ。
その笑顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……うん。いい揚げ具合だ」
桜吹雪がふわりと二人の間を舞い抜ける。
見つめ合って、笑い合う――ただそれだけの時間が、たまらなく愛おしい。
俺は、このささやかで穏やかな日々が、大好きだ。そして、心から思う。
生きて、あなたに会えて、よかった――。




