第51話生きる意味をくれた花
優乃さんと並んで歩くこと、10分。
人通りの少ない公園に着いた。
暗闇の中に、ひっそりと『花畑』という看板が立っている。
「ここ、なんだか静かだね」
「大通りからは外れてますからね」
吐く息が白く広がって、夜の空気が頬に刺さる。
心臓の鼓動が、静かな夜にやけに響いて聞こえた。
そういえば、『花畑』とは書いてあるけど、何の花畑なんだろう。
しかも、1時間おきに光るタイプらしい。
あと30秒で光る。カウントダウンが始まった。
さん、にい、いち——。
「あ……!」
パッと明るくなった花畑を見て、息を呑んだ。
夜の闇に浮かび上がったのは、一面に広がる黄色い菜の花畑。
——そう。俺に、生きる意味をくれた花だ。
「きれい……」
優乃さんが、きらきらと力強く輝く、菜の花畑に見惚れている。
その横顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと熱くなった。
この穏やかな笑顔を、一生守りたい。
心から、そう思った。
「優乃さん」
喉が渇いて、声が少し震えた。
それでも、勇気を振り絞って呼びかける。
「なあに?」
優乃さんが、ゆっくりとこちらを見る。
いつもと同じ瞳で見つめられているだけなのに、心臓がドクンと跳ねた。
空気は冷たくて、澄んでいるのに、全身は熱くなっていく。
「この1ヶ月間、優乃さんの気持ちを、できるだけ理解したくて、俺なりに色々と勉強しました。病気のこととか……将来のこととか……」
「篝くん……」
「そして、勉強すればするほど思ったんです」
息を整えて、優乃さんの瞳をまっすぐ見つめる。視線がぶつかった瞬間、心臓が爆発しそうになった。
でも、ちゃんと目を合わせて、まっすぐに伝えたい。
「この命は、あなたと、幸せになるためにあるんだ……って」
優乃さんの目に、涙の粒が浮かんだ。
泣かせてしまって、ごめんなさい。
でも、あとひと言だけ——。
「だから、結婚を前提に付き合ってください。お願いします!」
頭を下げようとした、その瞬間。
ふわりと、優乃さんが俺に抱きついてきた。
え……今、何が起きてる……?
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
優乃さんが、ぎゅっと俺を抱きしめる。
その体温が、俺の身体にじんわり染み込んでいく。胸の奥が、温かいものでいっぱいになった。
「優乃さん……」
嬉しくて、俺も抱きしめ返した。
頬が熱くて、目頭がじんわりする。
ああ、頑張ってきて……よかった。
「……大好きだよ」
耳元で、優乃さんの囁く声が聞こえた。
その一言が、心に深く刻まれる。
世界が一瞬、静止したようだった。
夜空の光も、菜の花の輝きも、全部がぼやけて見える。
視界に映るのは、優乃さんだけ。
「……俺もです」
どちらからともなく、俺たちは、そっと唇を重ねた。
夜風が優しく背中を押す。
その瞬間、世界がゆっくりと動き出した。




