第36話ペンギンになるぞ!
今日は、休日。
優乃さんに、ご飯を作る日だ。
「よし。今日のメニューは……」
イワシの蒲焼き。
ひじきの煮物。
盛り付け用のキャベツも切ろう。
和食も、洋食も、作れる家庭的な男。
そう思ってほしいから。
「朝から何やってんの?」
「料理……優乃さんにあげるやつ……」
呟いて、声の方を見る。
兄貴が、気づけば、隣にいた。
「あ、兄貴……!」
何の物音もしなかった。
せめて、チャイムくらい、鳴らしてくれよ。
「それで、本当に付き合ってないの?」
「付き合ってない」
自分で言って、悲しくなった。
ま、今も楽しいからいいんだけどさ。
「なんか、高校生のバレンタインみたいだな……チョコに愛情込めました……みたいな……」
ザクッ……と兄貴の言葉が胸に刺さる。
う……やっぱり、前言撤回。
「でも、まあ……進歩しただろ……?」
「確かに……」
兄貴がうんうんと頷く。
でも、進歩したのは、それだけじゃない。
俺は、引き出しから、封筒を出した。
「ん? これ、何……?」
「これはな……」
ゆっくりと、封筒の中身を出す。
じゃ、じゃ~ん!
札束だ~!
「えっ……!? まさか……」
そうだよ。だって、それ以外に、俺、借金してないし……。
「立て替えてもらった、入院費だ。返すよ」
兄貴に、札束を押し付ける。
よし。これで、返済完了だ。
「本当に……!?」
「ああ。あの時は、ありがとう。助かったよ」
兄貴が口をぽかんと開ける。
こんな兄貴、見たことない。
「だって、兄貴に借金のある男がカッコいいこと言っても、説得力ないからな」
思わず、本音が漏れた。
兄貴がにやりと笑う。
この顔、ムカつくな……。
「ああ……そういうことね……」
兄貴がスマホを出して、ボタンを押す。
「わかった。落ち着いたら、ちゃんと、優乃さんと話をする」
この前、ともねえに録られたボイレコだ!
なんで、持ってんだよ!
……ってか、親族ネットワーク、すごいな!
「ちなみに、逆バージョンもある」
兄貴が再びボタンを押す。
「落ち着いたら、話をしようと思ってるの……篝くんのためにも……このままじゃ、ダメだって、わかってるから……」
優乃さんのきれいな声が聞こえる。
きれいだけど……悲しそう……。
「どういうことだ?」
心臓がキュッと締め付けられる。
このままじゃ、ダメって、何のことだろう。
「さあな。続きは、本人に聞いてくれ」
「……わかった」
もう、絶対に逃げない。
俺は、力強く頷いた。
兄貴がふっと笑う。
「そういえば、職場の飲み会で、当たったんだよね~」
兄貴が、鞄の中から取り出したのは、水族館のペアチケットだった。
ペンギンのカップルが、いちゃついてる絵が印刷されてる。
「へえ~……いいな~……」
じっと、ペアチケットを眺める。
俺も、あんな風に、いちゃつきたいな……。
「あげるよ」
「えっ!?」
兄貴が、俺に、ペンギンカップルを握らせる。
うぉう……これ、熱い展開だな。
俺としても、ペンギンとしても。
「人生2回目で、ようやっと心を入れ替えた篝に」
「……ありがとう」
「じゃね」
兄貴が、颯爽と去っていく。
相変わらず、物音しないな。
「水族館か……」
チケットをぎゅっと握り締める。
不知火篝。30歳。
俺も、いちゃつくペンギンに……なるぞ!




