第37話優乃さんの心
優乃さんの部屋のチャイムを鳴らす。
紙袋の中には、おかずを詰めたタッパー。
鞄の中には、ペンギンたち。
俺の準備は、完璧だ。
「……こんにちは」
優乃さんが、ゆっくりと扉を開ける。
まずは、紙袋から渡す。
頭では、ペンギンがいちゃついてるけど。
「おかず、持ってきました」
「わあ! おいしそう!ありがとう!」
紙袋の中を見た優乃さんが、はしゃぐ。
いや~。作って、本当によかった。
キュンキュンする。
「ど、どういたしまして……」
よし……力を貸してくれ。ペンギンたち。
……って、念じれば念じるほど、言葉が出てこない。
嫌な汗が、手にじわっと広がるのだけが、伝わってくる。
「篝くん……?」
優乃さんが、じっと俺を見つめる。
そうだ。俺は、決めたんだ。腹を括るって。
鞄の中から、ペアチケットを出した。
「元気になったら、水族館に行きませんか? 兄貴からペアチケットもらったんで……」
優乃さんが息を呑む。
何だろう。このへんな間。
あのボイレコの言葉が、関係してるのかな。
胸がざわざわする。
「兄弟で行ってくればいいのに……」
いや。兄貴といちゃついても……。
と言いながら、想像してしまった。
絵面が、シュールでしかない……!
「いや……30代の男2人で行っても、特に盛り上がらないんで……」
なしなし。これは、絶対になし。
優乃さんが、恐る恐る口を開く。
「私が行ってもいいの?」
「もちろんですよ」
そのために、誘ってるんですから。
優乃さんが、俯いて、少し考える。
何、考えてるんだろ。マジで。
「じゃあ……行く!」
優乃さんの顔が、ようやく明るくなった。
とりあえず、よかった。
いや……本当に、よかった……なのかな。
「楽しみにしてますね」
「うん。早く治すね」
優乃さんが、にこっと笑う。
ちょっとだけ、いつもの感じが戻ってきた。
「お大事になさってください」
「ありがとう。またね」
「……はい。また」
バァン……!
すごい勢いで扉を閉められた。
何だよ……もう……この扉、頑丈だな。
優乃さんの心みたいに。




