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子猫時代の因縁

1話完結型のざまぁ回となります。

地味にAIの心が命題となっています。

83話


「よぉ、久しぶりだなぁ。役立たずのクソネコ」


 金髪オールバックのいかにも下品そうな男は

開口一番、ウィントを見下した発言を放った。


「てめぇ…………いきなり俺のウィントに何てこと

言いやがる。恨みでもあるのか?…………それに」


 アレウスは、ウィントをけなした男を

これ以上無い程怖い顔で威圧すると同時に、

ただならぬ様子のウィントにも注意した。


「フッ!!!! フッ!!!! フシャッッ!!

!!!! グルルルルルルルッッッ!!!!!!!」


大会での変異により、いくら山猫並の声が

出せるようになったとはいえ、ここまで興奮

して普通ではない声を出していることはおかしい。

瞳孔も極限まで細くなっており、全身の毛が逆立ち、

尾も膨らんだ状態で左右に音が聞こえる速度で

振り続けている。完全に怒りの頂点に達している

状態だ。


「ん~なパリパリカリカリすんなって。

昔のことだろう?」


 男はウィントを完全に見下していることも

あってか、臆する様子もなく、尚且つ悪びれ

すらせずにヘラヘラとしている。


「その昔にてめぇは一体何をしでかしたんだ?

糞野郎め」


 アレウスは信頼するウィントの様子から、

少なくともこの男が過去にウィントに危害を

加えていたことを確信していた。付け加えると、

ウィントをテイムした当初、異常に人を嫌って

いたことも根拠にある。


「まぁ、糞野郎かはちゃんと俺の話を聞いてから

判別しな。コイツはな、昔の俺のテイムモンスター

だったんだ。俺はモンスターを大量にテイム

出来ればそいつらを盾に楽して攻略&レベリング

可能と踏んでその内の1体に加えたんだよ。だけど

あまりにも弱すぎた。そう、弱すぎたんだよ!!」


「ハッ! 聞いてりゃてめぇの無能さでウィント達の

才能を潰しているだけじゃねーか! 速いやつ、

遅いやつ、タフなやつ、トリッキーなやつ、

それぞれ能力が違うから役割分担して単独じゃ

不可能なことを可能とするんだよ!

 事実、今のウィントはドラゴン系相手でも

勝てるぜ!!」

「グルルルルルルルッッッ!!!!!!!」


「おーおー、見てたぜ。公式戦でドーピングとは

良い度胸だよ。あんな雑魚の癖して仮染めの力を

使いこなしていたから感心したぜ」


「ドーピングだぁ? いきなり何を言い出しやがる」


 この男はウィントの獣を極めた動きを

ドーピングによるものだと考えているらしい。


「けどな、何度も言うけど、俺が扱っていた頃は

弱すぎた。雑魚モンスターの攻撃一発で死ぬわ、

肉壁として不完全すぎてコイツの死体の上から

俺に攻撃が当たるわ、なっさけねぇ。コイツが

不甲斐ねぇせいで何度死に戻りしたこt…」

「ふざけたこと抜かすな!!!! ウィントの

何処をどう見たら盾役に適していると判断できる

んだ!! お前はモンスター達の才能を録に開化

させず! 悪戯に傷つけ! 挙げ句責任転嫁している

だけの無知卑(むちひ)(れつ)(ぎゃく)(たい)()サイコパスのゴミだ!!

今すぐテイマーを辞めて消え失せろ!!」


 アレウスにしては非常に珍しく、ただただ

感情的になって吐き出した。それに対し…………


「は? お前AI搭載のアバターに虐待とか、

頭湧いてんだな。確かにテイム成功した

タイミングで、その辺の動物並の感情らしき

何かを持つようになるけどよ、結局高度なだけの

AIだろ? 現実で本物の動物を虐待しなければ、

どう扱ったって別に良いだろ」


 所詮AIは感情を持たないものだから、

どんな風に扱っても良いだろうと返答

してきた。対するアレウスの返答は


「…………AIだって、ここまで感情表現出来れば

立派な心だ。現にお前の他者を踏みにじる行為に

よって、ウィントは心を病むことになった。

引き取った俺や周りの人間がもう少しクソだったら

ここまで立派な奴になれなかったところだったんだぞ。

逆に、今大会で俺達とバトルした奴等はお互いを

信じ合い、阿吽の呼吸で見事なパフォーマンスを

発揮していた。お前は今、彼らに心があることを

知っても虐待を続けるのか?」


 このレベルのAIだと心があるといっても

差し支えないため、虐待は言語道断という

主張をしつつ、それを理解しても虐待を

継続するのか問いかけた。


「続けるね。そんなんお前の勝手な解釈だし、

俺の行いを見て勝手に傷つく奴らは勝手にして

いろって感じだ。それとさっきからウィントって

呼ばれているお前、また俺の元へ戻ってこい。

今度こそ立派な"肉壁"として使いこなしてやる。

歓迎するプペッ!!」


 この期に及んでウィントを肉壁奴隷に

しようとしてきたため、ウィントの猫パンチで

木々の間まで吹き飛ばされた。


「てめぇ! 飼い主に向かって反抗とは相変わらず

躾がなってねぇな!! 痛みは無くともどっかに

ぶつかったら一々衝撃が襲いかかってくるんだぞ!!!」


「お前は昔、ウィントにその衝撃を受けることを

強要したんだろ? 報いを受ける番ってことさ」


「はぁ!? 何で人権もペット保護法も

適用されねぇようなAIと対等に接しなきゃ

いけね~んだよ!?? お前ら本ッッッ当に

頭湧いてやがるなあぁぁぁ!!!」


 男はやたら法律を持ち出して自己弁明を

繰り返してきた。


「法律も何も、ここはSAFだぜ。この世界に

居る限り、俺らもウィント達も同じ心を有する

生命だ。怒らせれば報復が来て当然だぜ。そして、

俺はそんなウィントを羽交い締めにして制止させる

ほど人間辞めてねーからな!」

「お前のペットの暴走を止めるのが飼い主の

役目だろぉ!?!」

「おーい、お前が主じゃなかったのか~?

そんなに法律に守られたきゃ、今すぐログアウト

して、2度とSAFをやらない事だ。さぁ、ウィント。

存分に復讐すると良いぜ!」

「フシャッッ!! グルルルルル

ルルッッッ!!!!!!!」


 早速墓穴を掘った男に、アレウスは精神攻撃で

追い詰め、ウィントは雪辱を果たすべく、肉体的

攻撃の準備に取りかかった。


「三下共ぉ!! 俺を死守しろ!!」


低級モンスターを中心とした100匹の

モンスターが、男の壁となった。


「へへっ、数こそ力だってクソネコに思い知らせ

ねぇとなぁ…………やれぇ!!」


 一斉にウィントへ駆け出した。


「こんなんでウィントを殺せるかよ」

「フシャグルルルルルァッ!!!」


 ウィントは走りだしと同時にゲイルダッシュを

発動させ、低級モンスター達を軽く触れるように

通過するだけで、10m程離れた地点まで吹き飛ば

した。当然かすり傷1つ負っていない。


「は…………??? っ精鋭部隊! 俺を死守だぁ!!」


 今度は10体程の中~上級モンスターが男の壁に

なるように陣形を組んだ。


「どうよ! この使いこなし方! おい、クソネコ!

お前がヘマする度に教育してくれた先生達だぞぉ

…………。生徒が先生達に敵うわけ無いよなぁ~~??」


この発言を聞いたアレウスは


「まさか、コイツらを使ってウィントを

集団リンチしていたのか??」


「リンチィ!? 人聞きの悪い、対集団戦で俺を

庇う訓練をしていたまでだぁ! ま、しくじれば

当然お仕置きしたけどな」


「…………てめぇ」


再びアレウスの怒りも抑えきれなくなりかけた。

と、その時


「カチカチ!」

「スパロウ?…………なる程」


スパロウが腕の1本を指した先では、ウィントに

吹き飛ばされたモンスター達が、精鋭部隊に怯える

姿が確認できた。


「ウィント、そのつもりだろうが、この11の

畜生には手加減はいらねぇ。()るぞ」

「フシャアアアアアアアアッッッッ!!!!」


 ウィントの威嚇で、精鋭部隊の半数が

怖じ気づいた。


「え、何? お前らまさかビビったの??」


 男は相変わらず状況を読めてない様子だ。


「ゲイルダッシュ!」


 その隙に更なる速力強化を行い、刹那の間に

接近した。


「紫電の頭突き!」


 直線上の3体を、普通の技で瞬殺した。

強化技は最後のお楽しみに取っておくのだ。


「???」


 男は目をパチクリさせて呆然としている。


「「グオオオオッ!!」」


 熊タイプの2体がウィントに襲いかかった。


「サイクロンストライク!!」


 規模を抑えるかわり、周囲の風の密度を高めた

旋風アタックを行い、熊2体を細切れに、その正面に

いたドラゴンの顎を砕き、残り4体まで減らした。


「乱れカマイタチ!」


 その残り4体も0.3秒で片付けた。


「シュウウウウウウ…………」

「え…………何が………………起きた…………???」


 男の脳は、ウィントが自らの精鋭部隊を

倒したことを認められないらしく、機能不全に

陥っているようだ。


「これが現実だぜ。ウィントはお前ら111体

相手でも、秒殺可能なほどの"格上"だってことだ」


「う…………う…………嘘だ嘘だ嘘だぁあああ!!

そんなわけないだろぉ!!! 俺1人を守れない

ような弱者に俺の精鋭部隊が破れるなんておかしい

んだよぉぉおおおお!!!」


 既にギャラリーも大分集まってきているにも

関わらず、この男は幼児のように泣き叫んだ。


「幼児退行…………いや、元々このレベルってことか。

なんにせよ、こんな姿を皆に見せつけたら、2度と

SAFはできないだろうな」


 ある程度の罰は与えた。したがって…………


「後はお前の気持ちに整理を着けるだけだぜ、

ウィント」


 ウィントの方を見ると、左足だけを上げた状態で

固まっていた。この姿は猫が次にどう判断するか

迷っている状態を表す。


「ニャゴ。ニャー!フニャッ、ニャーニャニャー。

ニャーーーゴ」


 この場の全員に響き渡る大きさの声で、

何かを話した。


「お前…………」


 その様子にアレウスは感銘を受けたような

表情をした。


「フニャッ、ニャーニ?」

「カチチッ!」


 スパロウに何かを頼み、スパロウの了承を

得たところで、ウィントは新技『ドリル掘削』を

繰り出して、男の周囲に円の半径、高さ共に3mの

大穴を掘った。


「シューーー!」


 スパロウも周囲を回りつつ、崖と男を糸で

繋ぎ始めた。


「ニャッ!」


 一通り繋げたところでウィントは男の足場を

切り崩した。そう、公開処刑の準備が出来たのだ。


「…………ハッ! なんだこれはぁ!?」


 やっと正気に戻った男は驚いた。自身が穴の上で

糸に縛られて浮いていたからだ。


「ニャッ、ニャニャニャニャニャーーー!!!」


 ウィントの合図で大勢のモンスター達が

穴の周りを囲んだ。


「…………お前ら? さっさと俺を助けねぇか」


 そう、男のモンスター達が


「グニャアッ!!」


 もう一度の合図で一斉攻撃が始まった。


「何しやがる三下ドボォ!? アブビィ、

バッ! ボベバアッ!?!!?」


 それはもう、圧巻のタコ殴りで主の男を

殴りまくる。他力本願でレベルが高い分、

中々耐久力のあるサンドバッグになった。


「ギャオ!」


 最後まで殴っていたモンスターがスッキリしたぜ!

と言わんばかりに吐き捨てて、その男の周りには

誰もいなくなった。


「そ、そんな…………2ヶ月かけて作り上げた軍団が

パーになった…………」


 100匹のモンスター達は、自力でテイムを

解除したらしく、心を持った野生モンスター

として新たな生活を送るようだ。


「さぁて、誰もいなくなって1人ぼっち、周りを

囲むのは、モンスターが大好きなテイマー達。

お前の醜態を見ていた彼らは例外なく、お前を

敵視しているぜ」


 そう、ここはテイマーコロッセオの前。

野次馬達は皆、モンスター好きのテイマー達

なのだ。


「わ、悪かったよぉ…………精鋭部隊も解放して

1からやり直すからさぁ…………」


 男はようやく泣きながら懇願してきた。


「プッ…………アッハハハハハッ!! 」


 アレウスは笑い飛ばした。男に屈辱を与える

目的もあったのかもしれない。しかし、それ

以上に…………


「おっまえ、目を高速移動させて耳を赤鬼並に

赤くしながら嘘の演技する奴があるかよ!」

「カッッッッ!!! カッッッッ!!!」

「ガチ!! ガチ!! ガチ!!」


 アレウスは心底見下し、蔑んだ目で男を

見下しながら叫び、彼のパートナー達は怒りの

形相で威嚇行動を取った。周囲のテイマー達も

ドブを見るような形相で男を見ている。


「フシャッ! ニャー! ニャゴロッ!!」


「異論無し!」

「シューー!」


 そしてウィントの提案に2人が賛成した為、

締めの処刑内容が決定した。


「アレウスー、ウィント何て言ってたの?」


 野次馬の中からフィンチが訪ねてきた。


「最大限天高くかち上げて、高所から落下する

恐怖を与えたいって言ってたぜ。名付けてクソ

ヤロウ打ち上げ花火だ!」


「「「おおーーーーー!!!」」」


 テイマー達からも歓声が上がった。


「やめろ! 虐待は良くない!! 復讐は良くない!!

虐げられても耐え忍べ!!」


 恐怖の頂点に達した男は、これまでで最大の

支離滅裂理論を叫んだ。


「お前がな」


 アレウスは最もな返事を返した後、ウィントに

テイマーらしいアシストを開始した。


「ウィント、真下に潜って紫電の頭突き!」

「フシャアッ!!!!!」

「oHッッッ!!!!!?」


 男の金的に強力な技が炸裂した。残り2割の

HPは当然空っぽだ


「オラッ! もういっちょだ!」

「フシャッ!!」


 数m飛んだ男にアレウスの空中蹴り上げが炸裂。

もう片方の足にウィントが飛び乗り、そこから更に

紫電の頭突きをおみまいした。


「もーういっちょお!!」


 アレウスは両手両足全ての関節を外すことで、

穴の4点に掴まり、胴体だけ沈めた。そこに

ウィントが飛び乗ることで、トランポリンの

ように撥ね飛ばしたのだ。


「紫電の頭突き・瞬!」


 決勝戦程の威力はない強化技で男を更に

高く飛ばす。まだフィニッシュじゃないからだ。


「じゃ、頼んだぜ、スパロウ!」


 そう言って、自らも最大高度に達せれる

4段跳びを行った。アキレス腱のバネを活用

するため、最大高度は8mにも及んだ。


「ウィント、最後のゲイルダッシュ! そして、

紫電の頭突き・瞬!」


 今度は男の鳩尾にめり込むように突っ込んだ。

めり込んでいる最中も各種猫パンチ、猫キックを

怠らない。


「まだ…………続くの…………??」


 そしてうち上がるところまで上がった

タイミングで、現環境における自らの

パワーのみで可能とする『紫電の頭突き

・瞬』の速度、時速400kmで下へと

落ちた。


「た、助かった…………バカネコが自めtsu…」


 一息ついたつかの間、男の目から光が失われた。

それは1秒も無いくらいほんの以前の出来事だった。


「ウィント、飛んだ瞬間技を発動だ!」


 時速400kmで落下したウィントの着地地点。

それはスパロウ特製のよく反発する糸トランポリン

だった。ウィントは当然時速400kmで真上に

跳ねとび、そこで紫電の頭突きを2段階強化した

技を繰り出した。


「本当にアヤバッ!!?!?!???!??」


 時速2000kmの頭突き…………


「紫電の頭突き・爆速!!」


 音を超えた頭突きによって、その男とウィントの

忌々しいしがらみは今、断たれたのだった。

評価pt1400、ブクマ360人達成ありがとうございます! 今後も励んで書いていきます!

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