第7話
「その、貴女は『セイキオ』を知っているのではないかと思ったのです。」
私はレイモンドの言葉に目を見開く。
やっぱり、彼も『セイキオ』を知っていたのだ。
私が『セイキオ』を知っていることについて取り繕おうかとも思ったけれど、やめておく。
表情が変化したことを、レイモンドもわかったはずだから。
「ええ、私は『セイキオ』を知っています。
レイモンド様も知っているのですね」
レイモンドは、あいまいにうなずいた。
「ええ、まあ。友人が話していたのを聞いただけなので、あらまし程度ですが」
「それでも、朱雀が契約するのはヒロインだということは知っているはずです。
だからこそ、前世の『セイキオ』を知っていても、朱雀と契約しているとまでは思わないのでは無いですか」
私の言葉に、レイモンドは苦笑した。
それは決して同意ではない。
「ゲームはあくまでもゲームですよ、姫。
誰もがゲーム通りに動くわけではありません。
だからこそ、貴女様も目をつけられたのです」
レイモンドの言葉に、私は少なからず動揺した。
記憶を思い出してから、私はこの世界をゲームの中のものとしか考えていなかった。
誰もがゲーム通りの人生を生き、物語が展開されていくのだと思っていた。
レイモンドたちヒーローも、ヒロインも、私自身すらも、ゲーム通りに生きるのだと疑いもしていなかった。
けれど違うのだ。
ゲームには選択肢によって結末が変わるように、今ここに生きている私たちにも選択肢がある。ゲームの設定通りになる選択肢もあれば、そうならない選択肢も存在する。
そのことに、私はようやく思い至った。
「私が転生者だから、特異な存在として朱雀の興味を引いたのね」
「ええ、そういうことです」
今度こそ、レイモンドは正解だという風に笑った。
けれど私は同時に、その笑顔が作り物めいていると感じていた。
何故かはわからない。
だけど彼の話したことの中には、嘘はなくても、真実ではないものがあるような気がした。
「まあ、ここまでバレているのであれば、我が隠れていたとて無意味だな」
「わっ」
急に、私の胸から朱雀が顔を出した。
青年の顔なのに、首が長くて羽毛に覆われている、人面鳥の姿だ。
胸から下は私の体の中なので、奇怪な姿である。はっきり言って気持ち悪い。
私は、かろうじて外に出ていた朱雀の肩を掴むと、彼を私の中から引っ張り出した。
「朱雀、勝手に出てこないでください。
それと、あの現れ方はないです。気持ち悪いですわ」
私が文句を言うと、朱雀は「ハハハ」と乾いた笑い声をあげた。
「其方ははっきりものを言うな。やはり面白い。契約して正解だったぞ」
「何が正解よ。もういいわ。
レイモンド様、改めて紹介します。
私が契約している四神の朱雀ですわ」
私がそう紹介すると、レイモンドは朱雀に向かって礼をした。
「改めまして、レイモンドと申します。
姫の契約聖霊、四神の朱雀とお会いできて、嬉しく思います。
これからよろしくお願い致します」
「うむ。玄武の契約者よ。よろしく頼むぞ」
彼らがそう言っている間に、私は壁際の書棚に近づいた。
そこには、まるで亀の置物ような玄武がいて、気になっていたのだ。




