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2、二番目のヒロインは愛されたい

 もし、私がこの世界に行ったら。


『皆に愛されるヒロインになりたい』


 そう願った女は、ある日の病室で、病の末に死に至った。


 ◇ ◇ ◇


「……この、姿って……」


 長い金髪に透き通った碧眼の瞳を持つ少女は頬を染めていた。


「まさかの『ヒロごと』のヒロイン? わぁ、可愛い……綺麗……」


 鏡の前でクルクルと周り、自身の姿にときめいている。シアンはこの世界において特別な存在。そんなヒロインに慣れたことが、ただただ嬉しい。


「誰か一人なんて選べないし、そうなると全キャラ攻略一択よね……」


 そしてヒロインになったからには、男キャラたちを攻略したい。彼女は誰か一人に執着せず、全員攻略し、逆ハーレムエンドを目指すことに決めた。


「何より、いろんな人に愛されるのって素敵。凄く特別って感じ」


 艷やかな笑みを浮かべ、自分の理想の未来を思い描く。複数の人から無償の愛を受け取る。そんな世界で生きることができるなんて、なんて素敵だろうか。


「どうせ元々長く生きれない運命だったんだし、バッドエンドなんて気にしなくていいや。むしろ延命できてお得って感じ」


 彼女は身体が弱く、入院生活を送っていた。毎日、見舞いに来て面倒を見てくれる母親。甘えたら何でも与えてくれる父親。わがままを言っても絶対に叱らない兄。彼女にとって、愛とは無償で与えられて当然のものだ。


「せっかくヒロインに生まれ変わったんだから、沢山愛してもらわないとね」


 いつ死ぬか怯えながら生きることには慣れている。バッドエンドなんて怖くもなんともない。彼女は自分が愛されることだけを一心に考え、不特定多数のキャラクターを誘惑していった。


 ◇ ◇ ◇


「シアン。一緒に街に行かないか?」

「……シアン。お前が食いたいって言ってたスイーツを取り寄せたんだが……」

「シアン様。今日はお疲れなのでもうお戻りになった方が良いかと」


 第一王子カロン、第二王子エドウィン、そして護衛騎士ノア。『ヒロごと』に登場する攻略対象は全員、彼女の思惑通りに動いてくれた。バチバチと火花を飛ばし合う彼らを、彼女は心底愛おしそうに見つめていた。


(あぁ、愛されるって素敵。格好いい人達に取り合いされるのって素敵。こんなことができた私って素敵。さすが、ゲームの世界だわ。入院中にやり込んでて良かった)


「そうですねぇ……今日一緒に過ごすのは──……」


 口元に指を当て、誰にしようかと選んでいた時のことだった。


「きゃあぁぁぁぁ!!!」


 突如、激しい爆発音と叫び声が教会内に響いた。建物は一瞬にして激しい炎に包みこまれる。

 叫び声を上げたのはシアンに仕える侍女の一人だった。炎で腕を焼かれ、見るに耐えない有様になっている。


「な、何!?」

「シアン、彼女の治療を!」


 シアンはこの世界で唯一、治癒魔法を使うことができる。カロンが侍女の治癒を頼むが、当の本人は動揺し、侍女のことを見向きもしていなかった。


「そ、そんなことより、早く逃げなくちゃ……」

「もちろん脱出はする! だから、シアンは彼女の治療を……シアン? 聞いてるか!?」


 本来のシアンであれば、きっと自身の身よりも他者を思いやっていた。しかし、彼女は転生者であり、本来のシアンではない。他者を思う心など、彼女の中には存在しない。いつだって自分が大事で、自分のためにしか生きたことがない。


「せっかく逆ハーレムに持ってこれたんだもの。もっと私を優先して! 誰が私を助けるか、皆で争ってよ!」

「お前は──……」

「兄上! 此処なら炎が弱い。早く脱出をしましょう!」


 突然癇癪を起こすシアンを、カロンは呆然と見つめた。自分勝手な主張を目の当たりにし、何故、彼女を好きでいたのかが分からなくなる。


「行きましょう、カロン様! その女はもう助からないので、残念ですが此処において……」

「──お前は、誰だ?」


 カロン・クロノスは、目の前にいるシアンに軽蔑と警戒の目を向けていた。それに対し、彼女が視線を逸らしたのを見て、カロンは確信した。彼女が偽りの聖女だということを。


「……いや、話は後だ。私はベラを抱える。シアンは自分で来れるな?」


 彼は気絶している侍女を抱きかかえ、エドウィンの声が聞こえた方へ走った。


(シアンじゃないってバレた? いいえ、バレたからって何よ。私はこの世界のヒロイン。変わらず愛してくれるに決まっているわ。攻略対象が、ヒロインの私を嫌うはずがないもの)


 未だかつて、彼女は軽蔑されたことがなかった。カロンにその目を向けられたことが信じられず、ただ立ち尽くしていた。此処が、炎の中だということすら忘れて。


「シアン様! 早く──……」

「……は……」


 落ちてきた瓦礫に押し潰され、彼女は痛み苦しみながら、死に至る。

 暗転した世界に声が響く。


『あなたは何を願いますか?』


 死ぬのは怖くない。だが皆に愛されることを重要視する彼女にとって、軽蔑され、嫌われることは何よりも怖かった。

 この世界で、生きたくないと思うほどに。


(もう、いい。延命は十分よ。あんな目で私を見る世界にいたくない。早く、私を死なせてよ……)


 そうして、二人目のヒロインだった者の魂は天に消えていく。

 教会が爆破され命を落とす。それは、この『転生ヒロインの願い事』のバッドエンドのうちのひとつだった。

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