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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第33話 魔女裁判

 

 アンヌは裁判所に出頭していた。

 座る席は当然のように被告席で、右手側には弁護人、左手側には検察官、そして正面には裁判官がそれぞれ1人ずつ立っている。


(夢か)


 アンヌは瞬時に理解した。

 何しろ弁護人と検察官が自分と同じ顔、同じ姿をしている。さらには正面の裁判官は彼女にとっての死神、もとい生と死を司る転生の女神様だ。


「ゴーレムを撃破した際が潮時だった」


 黄土色の法服――アンヌの瞳と同じ色の――を着た検察官アンヌが、現実のアンヌのやったことを批判する。


「当時の上層部を殺すまでは良いとして。直後に蜂起した人間たちの指揮をとり、エルフとの衝突を回避しながら国外逃亡を促せばよかった。

 そうすれば死者は大幅に減り、疫病の発生も抑えられた。

 なのにアンヌはそれをしなかった。

 これは怠慢であり、間接的な虐殺であることは明らかである」


 検察官アンヌの断定に、弁護人が挙手した。


「通さなければならない筋があります」


 珊瑚朱色の……血のように赤い法服を着た弁護人アンヌが、現実のアンヌが行った虐殺行為を擁護する。


「そもそもの発端は何か?

 相手は人間を奴隷として使役する国家です。さらには麻薬を精製、販売していた。

 加えて領民が拉致され暴行を受けた上に、奴隷を献上せよと軍事力を背景に脅された。実際に伯爵領の近辺まで敵国の軍が進軍していました。

 これは通常の犯罪ではありません。国家的な犯行です。

 レヴァンティン伯爵領は深刻な主権侵害を受けており、アンヌ伯爵は領主として、徹底的にかの国をせん滅する“義務”があった」

「弁護人は臨機応変という言葉を知らぬのか?」


 検察官アンヌが皮肉る。


「徹底的なせん滅とは、『疫病下で処刑を続行すること』か? やりすぎではないか。

 なぜ、アンヌは奴隷の蜂起に介入して、救える命を救わなかった?

 なぜ、大勢の人間とエルフが死ぬと分かっていながら奴隷の蜂起に対して何の行動もとらなかった?

 それほど悪辣なエルフ達への意趣返しがしたかったのか?」


 検察官アンヌの追及に、弁護人アンヌは軽く肩をすくめた。


「検察官殿は、奴隷の誇りに想いを馳せたことはございますか?」

「誇り……?」

「この世には、命を捨ててでも誇りを守ろうという者がいます。

 さらには、相手の命を奪うことでしか取り戻せない誇りもあります。

 奴隷化された人びとは、奴隷とされたことへの報復の機会をずっと伺っていた。虐げられ殺された同胞の恨みすら背負っていた。

 アンヌは、彼らのその誇りを尊重した――彼らの命を守ることよりも」


 弁護人の発言は、陶酔や他者への賞賛とは程遠い。どこまでも淡々とした口調だった。

 検察は首を振る。


「誇りなど、生きていればいくらでも取り戻せる。

 しかし命は一度失えば取り戻せない。

 奴隷化された一時の恨みをなだめて命を大切にするよう誘導すべきだった」


 検察官アンヌの言葉に、弁護人アンヌが薄く笑った。


「それこそ傲慢というもの。

 命を至上とする価値観を他人に押し付けるのは余計なお世話でしょう。特に、無理やり奴隷にされ生き地獄ともいえる屈辱を味合わされた者に対しては」

「生きたかった者もいたはずだ。生きて故郷に帰りたかった者が、大勢。

 そちらの誇りを至上とする価値観の果てにあるのは報復の連鎖、犠牲の正当化だろう?

 その論理を突き詰めれば、皆殺しにするまで終わりがなくなるではないか」


 苦虫を嚙み潰したような顔で、検察官アンヌが問い詰める。

 弁護人アンヌが、我が意を得たりという顔になった。


「まさしくその通りですわ。上層部を皆殺しにして、次に殺すべき者が誰も居なくなったところでアンヌは終わったと判断し、手を引いたではありませんか」

「…………」


 検察官アンヌが絶句し、弁護人アンヌはそれ以上言う事はないとばかりに黙った。


 ――論点整理は終わったようですね。ここまで聴いた感想としては、検察官、弁護人双方ともに視座が異なっており、どちらも正しい一方で、どちらの意見を是としても別の問題が出てしまう。


 裁判官の席に座る黒いローブの女……転生の女神がアンヌを正面から見下ろす。


 ――そこで。アンヌ。1つ質問をしよう。


「何でしょう?」


 被告席に座り、沈黙を保っていたアンヌが、はじめて声をあげた。


 ――もしも仮に過去に戻ったら、あなたは同じことをしますか?


 その問いは、おそろしく巧妙な罠だった。

 女神は、過去に戻してやるとも、戻す力を与えるとも言っていない。

 ただ、『もし戻れたならどうするか』を問うているにすぎない。


 仮に「よりよい選択をする」と答えれば。それは自らの行為に誤りがあったと認めることになる。


 かといって、「戻らない」と答えれば。残虐行為はやむにやまれず行った、あの時は他にやりようがなかったのだという弁護の余地がなくなる。


 言葉の罠に気づいたのか、それとも気づかなかったのか。アンヌは苦笑した。


「設問自体が成り立ちません」


 ――開き直ったの? それとも法廷を侮辱している?


「いいえ。この世にあまねく原則の話をしています。

 誰しも未来はわからない。

 人は皆、現在という制約の中で行動します。

 そこにいるわたくし達のように後講釈を垂れるのは、終わった後ならば簡単にできるでしょう。

 わたくしはあの時に手に入る情報と、わたくしの能力の限界という制約がある中で、『こうすべきだ』と思う行動をした。その一点だけは揺るぎありません」


 ――ふむ。その結果、直接的な殺害者数は2730人。間接的な死者まで含めると36702人。


 ――つまりあなたが死んだ時、味わうことになる苦しみが2730人、プラスアルファ分加算されたということになります。


「承知の上です」


 ――よくやるねえ……。


 しみじみと、女神が言った。


「わたくしもそう思うわ」


 アンヌもしみじみとうなずいた。


 そこで、目が覚めた。


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