コボルト編Ⅲ ~王国指定禁域~
{西方領の森・第一禁域近郊}
『―――マァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』
噂には聞いていた。
トロールは大きい。
トロールは赤い。
トロールは目に見えない。
禁域には近づくな。
「アレが.....」
地獄の淵で、絶望そのものをまざまざと見せつけられていた。
―――――――――――――――
{同所・第一禁域近郊}
「走るのだァ!!!!」
ミハエルのその声を耳に、オレたちは我に返った。
今やることは走ることのみ。
ミハエルはそう言っている気がした。
気になることは沢山ある。
7m程の高さにあるトロールの視線の先には、受け身を取るボロボロの人間の姿があった。
じいちゃんが生きているのかも分からない。
更に、禁域を脱したトロールが誰の差し金かも分からない。
オークはトロールを制止する言葉を知っているから、アイツらが呼び出した可能性だってある。
でも今は、全部忘れなくちゃ。
――ハァ、ハァ、ハァ!!
馬車馬の如く走れ。
全身の酸素を脚に回せ。
動け、動け。
そう願いながら一心に走った。
トロールが現れたあの場所はゴブリンたちのテリトリー。
野放しにして敵を追うか、目下の異物に対処するのか。
奴隷王は難しい判断を迫られているはず。
ならばオレたちは迷いなく走らなくちゃ。
それが追手たちとの更なる距離になる。
「ミハエルは?!」
「いない!!」
ヒュウッ――!!!
「はぁ.....」
大きな槍がオレたちの誰かに当たる。
「そんなッ……」
『見るな、サヤ!!』
ケンタウロスに勝るとも劣らないオークの投槍術。
当たれば致命傷、でも数は多くない。
精度も弓には勝らない。
誰に当たろうとも走れ。
誰が死のうとも走れ。
「キーヒィヒィヒィヒィ!!」
「キィイィィィィ!!」
「キッキッキッ!!」
槍を構えるゴブリンの待ち伏せ。
言葉を話せない劣等種。
それでも同族。
やつらの手に在る得物は、人間が落とした有り合わせの武器。
どうしてオレたちは戦っている……
『どいてくれ!!』
俺は杖を振るい、砂を巻き上げてぶつける。
「――キィィイイイイイイ!!!!!!!キァ△※ィ×▢※カ!!!」
一般的な白魔法系統の浮遊魔法。
少ない魔力でも相手の視界を奪える。
これもミハエルが教えてくれた人間の知恵。
活かせ。
出しきれ。
――ハァ、ハァ、ハァ!!
妹の手は汗ばんでいる。
「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ、ダメだ!!」
「もう無理!!」
「――あと少しだ!!耐えろ!!」
レンガ造りの道を横断して森の色が赤に変わる。
この森の色は、ここに来たものにしか分からない。
ここからは禁域。
追手の脚も止まるはず。
少なくともゴブリンたちは、ここから先には立ち入らない。
トロールを説得できるオークたちも好んで禁域には入らないだろう。
オレたちは迷わずいつもの道を走る。
村まではもう少しだ。
「はぁ......はぁ......はぁ......!!!」
だいぶ走った。
オレは足を止め、歩きながら振り返る。
サヤ、ランダル、サナリム、ラント、サビィー。
「サマナとランチが.....いないよ.....」
リッカ(ケンタウロス)とオレも含めて生き残りは7人。
ミハエルと、じいちゃんもいない。
サヤは泣きそうな顔をしていた。
「ごめん……あたしのせいで……」
リッカは絶望した顔で言う。
「あたしが……捕まらなければ……」
「捕まらなければ、……どうなった?」
俺は上がった息を落ち着かせながら、声を出す。
「そうだろサヤ、みんなも。リッカが捕まろうが、そうでなかろうが、遅かれ早かれ種族間戦争は起きていた。でも俺たちにはオーク族にもケンタウロス族にも大事な友達がいる。ゴブリンにだって、親戚がいる。……だから大丈夫だよ、リッカ。リッカは何も悪い事はしてない。今はあの窮地から生き延びたことを喜ぼう。」
「そ、そうだぜ。」
「ランダル……」
「西の森のコボルトっていう種族が、絶滅しなかったんだぜ。あんな窮地に居たのになぁ!!」
「そうだね。リッカは悪くないし、私たちはまたこの森で生きられる。」
サヤ。
「いぇーい、生きてるバンザーイ!!家屋に隠した猪肉の壷着け、食べずには死ねないもんね!!」
サナリムも。
さっきまで、皆あんなに暗い顔をしていたのに。
「うん。その意気だ。サビィーも足を怪我してるみたいだし、早く村に帰ろう。」
「気付いてたんだ。さすが次期村長だね。」
「やなこった。次は頭の良いラントに任せるよ。」
「えぇー。僕、自信ないよランジ。」
サビィ―を支えながら、ラントは下を向く。
ラントは回りに配慮が出来て頭もキレる村長適任者だ。
エイブスとは大違い。
「なら、最悪村はサヤに任せるさ。」
「――最悪って何よ!!」
サヤは今日一番の大きな声を上げる。
その焦った声色に俺たちは緊張の糸が解けたように笑った。
声の大きさなら、奴隷王に勝るかもしれない。
「アハハハハハハ!!」
いいぞ。
みんな元気が戻って来たみたい。
――パチパチッ......メラメラメラ……パチチパチ…………
「ハハハッ、ん?なんか焦げ臭くない?」
禁域の森の霧が、不自然に晴れ。
焦げ臭い煙が漂って来たころ。
その光景は瞳に映る。
「そんな……」
サヤは口を抑え、膝から崩れ落ちた。
「村が.....燃えてる..........」
二足歩行に器用で狡猾な両手。
松明から放たれる火が、木造の故郷に燃え広がる。
そこにいたのはゴブリンでもケンタウロスでも無い種族。
ボロボロの布切れに不揃いの防具を身に着けた、恐るべき種族。
「人間だ……」
人間が村を燃やしている。
「ヤ、ヤメロォオオオオオオオォ!!!!!」
「まてッ!!」
届かない右手。
声を張り上げながらランダルは駆け出した。
野盗の数は目視で四人。
右手に木の棒、左手には石。
「バカッ!!行くなランダル戻れッ!!!!」
「見えねえのかあッ、アレがオイラたちの戻る場所だァ!!!!」
「――クソッ!!」
こちらは女子供を含めた7匹。
戦うにしても計画が欲しい。
ただの野盗が禁域に居るってのも不気味。
「止まれ!!」
「もういやだ……わたしたちが何をしたっていうの……」
「――止まれランダルッ!!」
洞察しろ、人間の武器は?
ショートソード、ナイフ、即席の木槍、杖。
近3遠1、魔法使いか.....
『ウォラァアアアアアアアアアアアアアア・・・・!!!!』
「ん....な、.なんだ?!ぎぃやぁ・・」
――バギィ!!
ランダルの木の棍棒が野盗の頭を明確に捉えた。
しかし勢いのまま倒れたランダルの脇腹にはナイフが刺さっていた。
致命的な相討ち。
助けるには、直ぐにでも戦いを決着させる他ない。
「ウォアアアアアアア!!!」
「アアアアア・・・!!!」
後ろから聞こえる加勢の声。
流石だラント。
それでも.....来て欲しくは無かった……
禁域での魔法はトロールを呼ぶから。
「ひぃぃい!!モンスターだ!!――ゴブリンの群れだぁ!!」
コボルトだよ.....!!
『下等生物め。――鴉。』
【鴉 (パシカル)】
系統:原始魔法系
等級:C級
属性:①白魔
詳細:(原初の魔力を鴉の姿に変えて放つ白魔法の戦式魔術。獲物を狙う気高き遣いは、速射性と弾速、貫通力に優れ、使用者の意志のまま軌道を変えながら的への追尾も出来る。―――向かい来る白い鴉に見えし日、論理学者は薄ら笑う。)
『我が意志のままに!!』
【我が意志のままに(レンカイネ)】
系統:原始魔法系
等級:E~A級
属性:①白魔
詳細:(魔法の王様。使用者の望みを叶えようと作用する代表的な白魔術。完全詠唱は「我が望みに答えよ・我が言葉を捧げん力……我が意志のままに」目的や術者の技量により難易度が可変し、物を浮かす人転ばすなど、魔法使いの卑しい願いは大抵レンカイネが解決する。」
激しい魔力が交差して爆ぜる。
ありったけを出した。
「くっ.....」
晴れる煙の中、しかしアイツは立っている。
『マァァアアアアアアアアアアア!!!!』
――バァアアアアン!!!
野太い咆哮と共に、頑張って作った家屋が吹き飛ぶ。
『ムァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』
「ひっ、ひぃ……赤いトロールだッ!!」
――バァァァン!!!
赤い平手。
野盗の一人が新しく現れたトロールの手に叩かれる。
あれはランゴールとサミーナの老夫婦が住んでいた家。
――ァダアン・・・・!!!――ゥガァァン・・・!!!
三体目。
破壊音が増え、村を燃やす炎柱が勢いを増していく。
荒れ狂うトロールたちの打ち壊し。
「ランジ.....これって……」
「あぁ、アイツら……既に魔法を使っていたんだ。俺たちが来る、その前から。」
「ヒドい……」
「おばあちゃんたちは……?」
俺は拳を握って村を見守る。
ただでさえ数が少ないコボルトの生き残り。
時間が経つごとに、その数が減っていく。
「動けない高齢者たちは無事を祈るしかない。」
「そんな……そんなのって、あんまりだよ!!」
手前のトロールと最奥のトロールが取っ組み合いを始めた。
丁度村の中央で。
「・・・くそっ」
「わ、わたしたちは罪人だから?……だから最期は罰が下るの??」
トロールのナワバリは円状に広がっている。
禁域という大円の中に、小さな円が点在しているのだ。
だから禁域にはナワバリの空白地帯がある。
俺たちの村や移動経路はそういったエリアの中にある。
「こっち見てるぞ.....アイツ……」
「もうやだ……」
「走り出した。ランジっ、トロールがッ!!」
ナワバリを持たない弱いトロールからは自力で村を防衛する必要がある。
ボロボロになって彷徨い続けた奴らの、その一体なら.....まだ耐えられた。
でも、この状況は絶望以上。準備も数も足りちゃいない。
「ひぃ、こっち.....くるッ!!」
トロールが拳を振り上げる。
何もかも終わりだ。
俺は杖を握って魔力を溜める。
もう。これしかない。
「オレは、族長の息子だ.....オレが時間を稼ぐ!!」
「お兄.....ちゃん.....!?」
「お前らは逃げッ――」
――ダッ■■■■■■■■■
世界が反転し音が消える。
見えたのは吹き飛んでグチャグチャになった俺の身体。
ちっぽけで細いコボルトの身体。
吹き飛んだ首だけが、その絶望を捉えている。
・
・
・
・
四体目のトロールが現れた。
―――――――――――――――
{西の森・第一禁域近郊}
「ヤツを探せェ!!」
老いたコボルトが木陰に倒れた。
ゴブリンは統率を失う。
彼らの一部は会話が不得意である様だ。
その視界を遮るのは霧のヴェール、チェシャの魔法である。
双子の遮音を合わせればアサシンには最適な隠密魔法になる。
「何故、……助けられたのですかな?」
面白い老人、いや老コボルト。
今際の際で俺たちの存在より、自身が助けられた理由を分析しようとしている。
周りを見渡せばトロールの出現により混乱を来していた。
なに、この混沌。
もう帰りたい。
逃げたコボルトの足跡はヤマネが辿ってくれるというのだが、匂いは時間に移ろうだろう。
如何せんタイムリミットは限られている模様。
「ダンジョンで働いてくれるモンスターを探してるんだ。俺の仲間に成ってくれ。」
ざっくばらん。
単刀直入にそう言った。
「なんと。」
目を丸くしたコボルトをチェシャの箒で拾い上げ、俺たちは歩きだす。
「およよ」
有無を言わさず、先ずは動く。
ここは戦場だぞと、アズナンズが身体で示す。
コボルトを吊るすのは布を二点で結んだ箒ハンモックである。
小柄なコボルトには丁度良い担架だ。
「快適ですな。イタタ……」
「ヒヒ、骨は折れてるだろうね。我々にはモンスターの医学に詳しいものはいない、自己治癒でも出来なきゃいずれは死ぬか、後遺症が残る。こんなゴミを拾ってどうするのかね……イヒヒ」
「最低限度の……自己治癒術なら、昔覚えたことがありますな。たしかこう……」
担架の中で魔法が揺らめく。
「器用貧乏め……」
ボロボロのコボルトを一瞥し、チェシャはぼやく。
一方ケンタウロスの族長は凄くタフネスだった。
電車の突入速度に近いような、質量のある蹴りを脇腹に喰らい、吹っ飛ばされて気絶。しかし時間が経過するとそのまま走り出した。
一方、その時間を稼いだ仲間想いの老齢なコボルトは、殿として死にかける。
これがここまでのあらすじ。
正直者と善人は、往々にして馬鹿を見る。
「して……人間様各位。先の情勢、どこまで見ていたかな?」
「割と最初の方からです。ゴブリンの族長である奴隷王エイブスに、宰相ジュドー。オーク族長のパイク。そして貴方がコボルト族長のミハエル、息子はランジさん。リッカはケンタウロスの族長の娘。ゴブリンとオークは結託。コボルトとケンタウロスも実は結託していて戦況は2対2の構図。って感じ?」
「全然違いますな。」
「え?」
俺は空を見上げるミハエルを覗く。
「奴隷王と宰相は、……コボルトですな。そして私はコボルトの族長などではない。もはやゴブリン族など……存在しますまいな。」
『えぇえええええええええええ!??』
「「タンテ、うるさい~。」」
双子がオレを睨む。
「ごめんなさい。」
俺は静かに歩きながら。
満杯の頭をフル回転させていた。
「じゃあゴブリンの族長は?」
「その血筋は、先程死にましたな。……ジュドーの隣にいた書記官の青年はゴブリン族長の血筋。勤勉な末代でありましたな……」
「じゃあなんでコボルトがゴブリンの王に成れたんだ?」
「ほほほ……元来我々は同族。その違いと言えば思想と僅かな見た目だけ。思想の違いも僅かでありましたな。……ゴブリンは人間で言う所のアナーキスト、コボルトも同じような”自由”を重んじる種族。しかしコボルトは比較的体格が小さく、より小賢しく、より群れる社会性を持っておりました。そして最も賢い者を厳格な投票で決めていましたな。それが後に村長や族長の立ち位置とあいなりおった。」
俺たちは霧の中をゆっくりと歩く。
「自由を……」
「そう。元来我々は自由を重んじる。しかし、コボルトの社会は群れ。そしてより競争的になっていきましたな。その中で若くして頭角を現したのが、現奴隷王エイブス。奴が磨いていた学問は洗脳魔術と呼ばれる類の凶器でありましたな。」
「洗脳魔術?……それじゃあ、今のゴブリンたちは洗脳されているのか?」
「一部はそうかもしれませんな。しかし、恒久的に他者を支配出来る魔法など、人間の魔導士にも中々出来ますまい。しかし洗脳や大衆心理、集団圧力のようなものは、元来魔法などを使わぬとも起こり得るもの。エイブスが仕掛けたソレは……僅かな魔法と、新興宗教。独立的な生活様式を取っていたゴブリン達には良く馴染む文化でありましたな。」
「なるほど。」
俺はスーパーAIに目配せをし、顎に手を当てたまま口パクで伝える。
(よ う や く し て)
……よかろうです
……要約
……要約中
……要約完了
……現在のゴブリン族における独裁は、コボルトによる新興宗教によって成り立っています。ゴブリン族の中にあった自由と野性的欲求は、コボルトのエイブスによる簡素な教義により正当化され、彼らにより野蛮な自由を与えました。
「・・・・より野蛮な自由を与えたということですか。」
「ほほ……正解ですな賢い方よ。」
「アザス」
俺は眼鏡をクイと掛け直す。
「しかし……ゴブリン達は王や教義という名のまやかしの正義を手に入れた代償に、思想の自由や道徳を失いましたな。しかし人間様から見れば、小村の民家を襲い略奪するゴブリンも、畑を耕し作物を分け与えるコボルトも同じに見えるでしょう。我々はそれが許せない。同族のよしみとして、ゴブリンらを……エイブスを……正さなくてはならない。」
震えるような声でミハエルは言った。
全体感としては現状コボルト族はゴブリンを手中に収めている。
しかし問題は、コボルトの奴隷王が統率するゴブリンをコントロール出来ないこと。
「へぇ…」
辺りは様相を変える。
アザナンズは俺たちの会話に口を挟まない。
全員がこの赤い森に注意を向けているからだ。
「この先、進むのか……」
禁域である。
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禁域に立ち入ってからも、ヤマネを追ってしばらく歩いた。
ミハエルとは、もっと話したいことがあった。
この交渉を有利に進めるために。
しかし禁域は、この口を黙らせる。
異様な空気。
かつてない緊張感。
誰も言葉を交わさない。
そんな中で口を開いたのは、ミハエルだった。
「……人間殿。」
「な、なに?」
「先程の話...魅力的ではありましたな。」
「な、なんだ、そのことか。」
なんだというか。
俺もそのことを話したかった。
というかその事しか話したくない。
やだ、もう帰りたい。
「しかし我々は自由を愛し重んじる森の民。自由な思想を持つがゆえに、まとまりはせぬ。離反するものが出て、瓦解するとだけ言っておこう。……我々に王は、必要ない。」
その言葉、明確な意思に。
気持ちが揺らぐ。
この世界はどうにも手強く、いつもこの手が届かない。
どうしようもなく無力だ。
『おっと――』
チェシャがニヤリと笑って言った。
その言葉に隊はピタリと足を止める。
『靴紐が、解けた。』
チェシャはそう言うと霧深い前方を見つめながら、俺たちを木陰にこまねいて屈ませる。
何も見えない。
しかし確かにチェシャの目は、何かを捉えているように動く。
「霧を晴らすよ。」
それは無力な俺と老いぼれコボルトに向けられた言葉。
この霧はどうやらチェシャが重ねがけしていたものだったらしい。
更にその「音」も。
―――パチパチパチ・・・ゴォフォォッ・・・・!!
聴こえる。
風が集まる音に乗せ、焦げた匂いと焼けた音が立ち昇る。
俺たちは次いで、その景色を視界に捉えた。
村が、.....燃えている。
「なにあれ。」
アリスは声を漏らす。
チェシャも彼らを見ていたようだ。
「トロールとコボルトだねぇ。ここはかなり危険だ。」
小さいモンスターが大きなモンスターに襲われている。
弱肉強食の光景。
「なっ…......」
「ミハエル?」
戦慄し、震えているようだ。
その目は揺れ、身体は絶望に固まっていた。
同じだ。
村の先からは新たなトロールが近付いて来ていた。
黒煙に触れたその輪郭が見える。
ミハエルは膝を付く。
「村が.....」
きっと同じだ。
このバケモノはあの日の俺と同じなんだ。
目の前で起きている絶望に、何も出来やしない。
トロールは合計4体。
野盗のような人間に、生き残りのコボルト。
「そんな…......」
無力な自分を見ている様だった。
どうすればいいのか分からない。
揺れる動揺。
激しい感情の起伏に視界が狭まる感覚。
分かるよ、ミハエル。
俺は何も出来ずに失った。
ともすれば。
「アレを倒すよ。.....ミハエル。」
このディールは成立する。
「だから俺の仲間になってくれ。」
思い出したかのように俺は交渉する。
強制的に組伏すような仲間はいらない。
同じ目線に立って、面白いと思ってくれる奴が欲しい。
ともすれば、逃げるも参画するも自由だ。
ただそこには理由があるだけ。
命を助けられたという理由が。
「どうせ何も出来ない。それなら強くなるまで。君達がこの森を変えられるほど強くなるまで。」
コボルトが自由でまとまりのない民族。
逆を言えば、賛同してくれるやつだっているかもしれない。
少数でも良い。
協調性に優れ、環境に適応し、創造性に富んだ同じ方向の仲間がいればいい。
「そんなことが叶うのならば.....約束しよう人のモノ。この老いぼれの.....人生を捧ぐと。」
俺は木陰の前に出る。
1体でも頷いてくれるやつがいれば、あるいは1体でも義理堅い奴がいれば、このディールは成立する。
「戦争だ。」
「やれやれ、対魔物は苦手なんだけどねぇ。出来ないと言えば私の株を下げかねない。」
俺が動けば、お守りの殺し屋たちも動く。
「仕方ないわね。」
アリスが立ち上がる。
双子も臨戦態勢の様相。
何か身体が暖かい。
血が滾る。
力が湧いてくる。
発散したい。
「キューちゃん.....」
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Updating the battlefield situation......
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・
テレレレッテレ~♪
【キューちゃんの実録!紅白戦力図】
紅組のみんな
①トロール
②トロール
③トロール
④トロール
⑤野盗っぽい方々
VS
赤組のみんな
①土精霊の使徒、タンテ・トシカ
②剣士の暗殺家、アリス
③双子の暗殺家、ルディ&ルダム
④魔女の暗殺家、チェシャ
⑤コボルトの方々
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――マスター。
・
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ここから先は後戻りが出来ません。
本当に戦いますか?
>はい
>いいえ
>大丈夫だ、問題ない。
>一番良い、支援を頼む。 ←
・
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・
――マスター。
「なんだよ!」
キューちゃんが俺を見つめる。
その目はどこか悲しげだった。
俺は右手でツルハシの冷たい柄を握っている。
左手の杖は暖かい。
俺は思い出す。
滾る熱とは別の暖かさ。
誰だ。
頭の中で誰かが心を焚きつける。
誰だ。
俺は一体、誰の弟子なんだ。
「……やっぱり、ごめん皆。」
「ん?」
「なんで、行こうよタンテ。」
「「戦お~?」」
いや。。。
戦わない。
何故ならば
『これは”アンダーグラウンドな探偵”のやり方じゃない。』
そうだろ?
ルタルちゃん。
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「ふへへ。」
キューちゃんがニヤリと笑う。
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・
・
ここから先は後戻りが出来ません。
本当に戦いますか?
>はい!
>いいえ ←
>新しい武器を試す!!
>コボルトたちの敵を討つ!!
>遂に王道ファンタジー展開コレを待っていました!!!
・
・
ここから先は後戻りが出来ません。
本当に戦いますか?
>いいえ
>いいえ ←
>憧れの無双展開キタル!!
>スカッとしよう!!
>暗殺一家にカッコいいトコロを見せよう!!
>トロールたちを分からせる!!!!
>過小評価されてきた鬱憤をココで…!!
・
・
・
ここから先は後戻りが出来ません。
本当に戦いますか?
>いいえ
>いいえ ←
>いいえ
>いいえ
>いいえ
>r…いいえ
>ト※ール△t……いいえ
・
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「オレは弱い。」
『違います。それでこそ、アナタなのです。』
・
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・
・
Enemy analysis completed……
明日に続く道が今日で終わるなら
心はこんな選択をしない
自分の輪郭をなぞる赤い線が消えていく
世界が晴れるような感覚
血走った眼からは血の気が引いていく。
『スペル・グノームス。』
握った杖から熱が溢れ出る。
―――――――――――――
「ランジィィィィ!!!!!」
『マァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
吹っ飛ぶランジの四肢。
箒に乗ったチェシャがランジの生首を吊るす。
「凄い。死んだあともここまで意識がハッキリして・・・」
「生きてるよ。」
「うえ?」
「ったく、コボルトを助ける日が来るとはね。」
ランジの頭から下がやがて露わになる。
吹っ飛んだ四肢は崩れ土へ帰した。
村には濃霧が集まっていく。
俺はすかさず2体のトロールの眼前へ、薄く平たい土の壁を迫り上げる。
『マァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
呆気なく崩される土の壁。
舞う砂埃が霧と混じって泥と化す。
すなわちこれは、逃げと消化の選択。
――シューッ
家屋の炎が勢いを弱めていく。
『モァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
足元のコボルトを蹴り上げるトロール。
崩れるのは土人形。
更に凸凹にした足場に踵をぶつけ、1体はひっくり返る。
トロールの視界にもうコボルトはもういない。
そこに映るのは村の中央部。
まだ勢いのある炎柱と、取っ組み合う残りのトロール。
2対の争いに1体が走り出し、ビーチフラッグかの如く、もう1体も追従する。
ぶつけ合う肩。
溜まるフラストレーション。
やがて手前の2体も殺し合いを始める。
全てのトロールが戦い始めたのだ。
まるでシンクロするように。
やがて4体は離れ、一斉に助走を着ける。
それは狂気を孕む突進。
村の中央へ向け、赤き血肉の質量が迫り合う。
『マァァァァァアアアアアアアアアッアアアアア!!!!』
『モァァァァァアアアアアアアアアア!!!!』
『マァァァァァア!!!!』
『マァァァァァアアアアアア・・・アアアア!!!!』
――ピタッ。
『『『『 マッ・・・ 』』』』
まるでシャットダウン。
電源が切れたかのように四体が止まった。
「助かったのか?」
「でも、下がった方がいい。」
俺は野盗の傍らで袖を引っ張った。
野盗はそれを振りほどく。
「ひっ、なんだお前!!」
「やだなー。仲間ですよ、人間という同じ種族の。」
「オカシイ!!」
野盗の魔法使いが目を丸くする。
俺を見て、ではない。
あのトロールを見て。
「何が。」
「俺は学生時代、この森の研究をしていた。通常、縄張りを外れたトロールは戦わないんだ。自分の巣からの距離を完全に把握している。だから...ウッ……!!」
倒れる魔導士。
突如浮く自分の身体。
「離れるよ。」
箒に乗ったチェシャが、俺の襟を引っ掛けて運ぶ。
「あいつ気絶しちゃった。」
「構わないことだねぇ。異常はまだ目の前にいる。しかも四体。」
「ん?」
俺はキューキューブに映る、怪しげな赤い霧状の生体反応へスペルグノームスをぶち込む。
「――そいッ!!」
――サァッ・・・!!
霧散する赤い霧が、魔導士へ侵入するように吸い込まれていく。
魔導士に刻まれた傷跡へ。
「何かいたかい?」
「なんかいた。・・・よっと。」
着地と同時に俺たちは集結する。
村の最奥から水魔法による消化に奮闘するミハエルを除いて。
「に……人間……」
「アンタらは?」
「ミハエルの仲間です。何が起きたか分からないけど、とにかく今は逃げよう。離れた一体ずつならともかく、あの四体が何かの拍子に一斉に俺たちを狙い始めたら、本当にヤバい。」
「でもまだ、村にはコボルトの仲間が.....」
その時、家屋の近くで倒れていたコボルトが立ち上がった。
「ラ、ランダルだ。生きてたのか!!」
ランジと呼ばれたコボルトが声をあげる。
しかしランダルは、正対する4対のトロールへ向けて走り出す。
「なんだ、どうした?そっちじゃない!!――いくなランダルッ!!」
「キューちゃん。あれ.....」
キューキューブには無機質な肉が映る。
「.....死んでます。」
死体である。
走るランダルに生体反応は無い。
追うように、家屋から走り出すぐしゃぐしゃのコボルトが妙な走り方で中央へ集まっていく。
既に死んだはずの、逃げ遅れたコボルトたちが。
「なんだ、あれは……親戚たちが…!!」
チェシャはニヤリと口角をあげる。
その瞳は真剣そのもの。
「まずいかもねえ。」
4対のトロールはゆっくりと近づきながら、互いの身体を潰し合っていく。
まるで一つになろうとするように。
赤い瘴気が渦を巻きながら集まっていく。
追従するように、辺り一面の死体という死体は一つのその肉塊へと融合する。
『イヒヒヒヒ――』
肉塊から伸びるトロールの腕の先、その手から更に腕が生え、二本分の長さとなった両腕が2本ずつ生える。
4体分の同種キメラ。
無数の目玉。
右肩に乗る大きな一つの耳。
使える者は適当に寄せ集めたような産物。
自重を支えられるほどの脚は無く。
無数に生えた手足がキャタピラのように肉塊を動かす。
やがて一つと成った生物からは、血の霧が吹き出した。
「くっ・・・!!!」
「チェシャ?」
「アレを吸い込まないことだね。」
チェシャは霧を集約するように、向かい来る血の霧へ気流をぶつける。
『アムはね。本当ハ君あ良ぁったんd・・・』
チェシャは両手を使い、自身の霧で血の濃霧を塞き止める。
『君ア欲しかった・・・!!』
停滞する二つの霧が、横一本線を引く。
「――ピィッ!!」
飛来する鳥が、赤い霧へ侵入した刹那。
甲高く一つ鳴いて、墜落した。
狂った野党の魔導士が立ち上がる。
『イヒヒ・・・アムはね。傷口があれば入り込める。惜しかったなー。あの場で君が戦っていたら、君は僕に成れたのに・・・・』
チェシャは死体から出る血の霧を払いのけるのに全力を挙げていた。
「スペルグノームス。」
霧の境界線のアチラ側へ。
俺は巨大な岩石を撃ち込む。
同時双子は大きく息を吸いこみ、前方に声を当てる。
『『 ―――〇!!!!!! 』』
無音。
しかし、パチュンと巨大な耳からは血が噴き出した。
攻撃型音波。その方向を絞ったらしい。
胴体には2m程の岩石サイズの穴が開く。
俺と双子の対デカブツ用コンビネーション。
しかしどちらも傷口が塞がり、流血が止まる。
アリスは柄を持つ手を小さく震わしたまま、それを抜かずに制止していた。
「なんだ.....アイツは???」
キューキューブが拡張現実に文字を刻む。
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Enemy analysis completed……?
《 〇〇〇〇〇【〇】、自称:アム 》
危険度☆☆☆☆☆☆☆☆・・・
種族:NaN(解析中.....)
属性:NaN(解析中.....)
特徴:色んな種族の血肉の集まり。足元には吸収されなかった衣類などが転がっています。
アドバイスQ:「あとはなーんも分かりません。なんですかねアレ。もっと時間を下さい。」
――SP、MP、HP 大体トロール4~6体分くらい?
――健康状態:……健康って、なんでしょうかね?
――損傷部位:……損傷って、どれでしょうかね?
『えへへへへ・・・死んでェ!!』
鞭のようにしなる、長い手。
狙いはチェシャ。
魔力に抑えられ、動けないチェシャ。
「ククッ・・・」
――ザァンッ!!
袈裟方向に一閃。
大木から斜めに振り下ろされた高速の一太刀が、肉塊を捌く。
『アレ。オロロロ・・・』
――ズルズルズル・・・・・・!!!!!!!パシャアッ!!
各部位は融解するように地面へ墜ちる。
再生するはずの肉塊は傷口をポコポコと泡立て崩れていく。
赤く染まった銀の刃。
顔には着物を千切ってあしらえたマスク。
露わになる白い肩。
光る赤い目。
鬼のように逆立つ殺気。
『あー、気に入ってたのになあ。コレハ....分が悪いや』
勝負を決した、唯一太刀。
『アム・・悲しい・・・・』
魔導士は骨が抜けたかのように崩れ落ちる。
着物をボロボロにしたアブソレムが、迫力のある血振りを見せた。
ヒュッ――!!
赤い霧がチェシャの霧と混じり、村に雨が降り注ぐ。
降りしきる赤い雨を遮るように彼女は立つ。
「次は無い。」
『・・・たははは・・・・・はー・・・』
鬼の袂から逃げるように
笑い声が反響しながら遠のいていった
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{ダンジョンステータス}
Qキューブ(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)
研究レベル:0
DP :0
MP:0
RP:0
状 態:地上(ダンジョン外)




