コボルト編②
小学生が3人。
高校生が1人
大学生が1人。
ペットが1匹。
傍から見れば大人数の姉弟みたいな集団だ。
それでも一人一人が暗殺者。
そんな暗殺一家との行軍は、実は足音が面白い。
―――タッ......タッ......タッ......タッ......
聴こえてくる音は一つだけ。
つまりルディ&ルダムの魔法を使わずして、ただ自分一人だけが大地を踏み鳴らしている。
真似ようとも届かない、圧倒的な静音。
音のしない歩き方。
「ふん、ふっふっふ。.....もういいや諦めた。でもさー、護衛係だったらワイトでも良かったんじゃないの?」
俺はむしろ地団駄を踏み鳴らしながら愚痴ってみる。
ガキパワー発動。
「ワイトがよかったなぁ、会いたいなぁ~!」
筋骨隆々。
俺の初代御守りさんと言えば、ワイトであった。
アイツは俺に対して穏健派。
殺されないという安心感がある。
今のところは……
「あぁ、そのことね。言ってなったけどワイトはキリエの大幹部なのよ。」
「はぁん???」
「それでもってアレクサンドロス姓でもあるから、今はジン教授にめっちゃ命を狙われている。」
前言撤回。
冷汗がドッと出る。
「ほ、ほぼ.....レイチェルじゃねぇか・・・!!」
「色々あるのよ。アザナンズは色々な組織にスパイを潜り込ませているの。アブソレムが魔術学院の助教授をしているのも同じ理由。」
「へ、へぇ~。それ俺に言っていいの?」
「もちろんよ!再三忠告しているけれど、1でも10でも情報を漏らしたら殺すから1でも10でも教えてあげるの。」
「あわわわわわわわ!!!」
俺は耳を塞いで情報をシャットアウトする。
「むしろ沢山知っていた方が殺しやすいわ。私たち、殺す前とか殺した後って稟議書を書かなくちゃいけないから。というか私たち、そのための友達でしょ?」
「そんな友達いねぇってば!」
俺が身を仰け反ると、アリスは不思議そうに首を傾げた。
「.....おっと、そこまでだよアリス。」
チェシャがジメっと割って入る。
流石に知られちゃいけないことでもあったか。。。
「私の魔法は水に関するもので遠距離に干渉できる優れものだが実は近距離戦に強くて中距離戦に弱い絶対漏らしちゃダメだよ。.....よろしくね。」
「殺す気満々だ!!」
顔を近づけて早口でニタリと笑うチェシャの手を払い除け、俺は双子を盾にする。
――ジリリ。
コチラをゆっくりと向く双子の顔。
何やら目が、怖……
『『 食ベチャウゾォオオオオ!!!! 』』
バケモノのように野太い双子の声が臓器に響く。
「ひぃぃイイイイイッ!!!」
縮こまる俺を見て二人は笑う。
「「 ハハハハハ~!! 」」
悪魔どもめ!!
全員大嫌いだ!!
「「 ハハハおもしろ~い!! 」」
ルディとルダムは手を繋いで無邪気に笑っている。
この小悪魔さんめ!!
食べちゃうぞ!!
俺は笑う双子を追い抜き先頭のアリスと並列で歩く。
――ペチッ。
揺蕩う音。
それを踏ん付けた右足がピンと張る。
「おあっ、、、靴紐が.....」
行軍がその場でピタリと止まる。
ピリリと張り詰める空気。
アブソレムは呆れた様に溜息を吐き、俺を持ち上げる。
「なになに?」
アブソレムは無言。
なにこれ。
え、殺される?
殺される勢い。
誰も喋らない。
……それからアブソレムは、倒木に座る俺の靴紐を結ぶ。
「安い靴を履いているのか……」
「まぁ、.....それなりに。」
「そうか。」
土に膝を付き。
顔は下を向く。
妖艶なその指先は、器用に手早く俺の靴紐を結んだ。
「良い靴を買った方がいい。特に、我々と歩くときは……」
キュッと結ばれた紐は、二度と解けない事を誓うように小さい玉を作る。
それは繊細で逞しく、蝶が羽を広げている。
「あ、ありがとう!」
イメージとの相違。
靴紐が解けた奴など、鼻で笑われ全員が置いていく組織だと思っていた。
俺達は行軍を進める。
その歩みを揃えるように。
・
・
・
・
・
しばらく歩いても考えていた。
依然一つ、鳴る足音を聞きながら。
―――タッ......…タッ......タッ......タッ......……
不思議だった。
俺はよりアズナンズが分からなくなった。
人を殺している癖に、暖かい奴ら。
とても不思議だった。
しかし.....不思議とは未知であるとも言える。
ともすればそれは無知でもあり、理屈さえ暴いてしまえば唯の単純な合理に成り下がる。
その時の俺はきっとそれを知らなかった。
「おっと。」
その声と共に足音が一つ増える。
――ザッ!!!
『 ……右の靴紐が解けた。 』
俺は声の主であるアブソレムの方を振り返る。
ニタニタと笑いながら。
「え~」
『――私が結ぼう。』
「私が、って。自分の靴紐くらい.....って、え、えぇッ!!」
握られる手。
隙あらばと口を開く俺をアリスが引っ張った。
刹那の暇。
全身に吹き込むように濃霧が現れる。
――ヒュウゥゥゥウウウウッ!!!!!!!!!!
「えっ、えっ、なに、なにっ?」
アリスが軽いパニックになった俺の手を引く。
視界は冷たい真白な霧。
起こるホワイトアウト。
「何だコレっ、ケホッ、ケホッ!!敵?!」
――何も見えない?
――なーんにも?
「なにっ、ディーダム??見えない、見えない!!」
頭の中に声が聞こえる。
アリスの手も感触が消える。
――大丈夫。
――でも大丈夫だよ。
まるで台風の中にいるかの様。
――しっかり数えて。
――信じて数えて。
「え?」
――左に八歩、
「左にハチぃ?」
――右に四歩、――やっぱり前に九歩、――左に十六歩、――右に三十二歩、――左向いて二十四歩、――ほら頑張って。――あと少し頑張って。――分からなくなった?――あと十二歩、――十歩、――九歩。――八歩、――七歩、――六、――五。――四、――三。――ニ、――一。――ついた~、。!!――それじゃあしゃがんで。――息を吸って、――ゆっくり吸って。――大きく吸って、――スゥ~っと吸って。――ゆっくり止めて、――息を止めて。
・
・
・
・
・
坂を上り。
濃霧が晴れて。
景色が広がる。
「「 おかえりタンテ 」」
・
・
・
『―――クヴァァアアアアアアアアゥトッ、フェスティバァァアアアアアゥッ!!!!!!!』
それは突如として目の前に広がった。
三本足の小さい奴ら。
俺の瞳に映るのは半裸の悪魔たちの群れ。
広い耳に卑屈な猫背。
そして深い森に擬態するようなグレーの肌。
焚火の前には鎧を着た兵士の死体が磔にされていた。
「頭を隠して。」
アリスの手が俺の頭を抑える。
「もしかして、アレが.....??」
「怪人型モンスター属、ウェスティリアフォレストアルターモンク。」
チェシャがニヤリと笑い、顔を見合わせる俺とアリスの間で双子が頭を出す。
『――君の探してた、ゴブリンだよ。』
なんて野蛮な……奴らなんだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
{時同じく、別の木陰にて}
「じいちゃん。オレ.....行くよ。」
・
・
・
――――――――――――――――――
『コロセェッ―――!!』
―――アルターモンク歴289年。原罪を抱えた我々は、救世主の血を引く奴隷王「エイブス」に仕え、この森を守り続けてきた。30年前、エイブス様への天啓が新聖典に刻まれた以来、我々は原初の願いである「森の合流」を達成しようとしていた。新聖典に刻まれた文字はたった三文。それは今まで抑圧を強いられてきた我々森の奴隷にとって、最も天啓的な三文であった。
「――クエッ。バエッ。ガセッ。」
小さな声が熱狂の中に入交り、やがて世界を支配していく。
「――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!」
300体を優に超す、奴隷達の大合唱。
『『『――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!』』』
『静まれ。』
王の号令が宰相ジュドーの耳に届く。
「しぃずぅまぁぁぁれぇぇぇぇえぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ・・・・・!!!!!!!!!!!!!!」
ヒリッ――、と。私の握る紙が震えた。
ジュドーの臭い唾が飛ぶ。
「問おう。コボルトの民達よ。」
王が口を開く。
村の大きなキャンプファイアー。
大火刑に処されたヒトの死体。
その前には紐で縛られたケンタウロスの子供。
そして、ボロボロのコボルト7体。
「迎合するか?」
先頭の少女には、切れ味の悪い短剣が握られていた。
認めよう。
この村で数少ない、文字を掛けるゴブリンとして。
私は、書記官バラード。
―――アルターモンク歴289年。原罪を抱えた我々は、救世主の血を引く奴隷王「エイブス」に仕え、この森を守り続けてきた。そして今日、この森は大きな転換点を迎えようとしていた。コボルトの迎合である。我々は一つになる。その思想を一つにし、この森を一つにする。王は頷き民は昂る。コボルトはかつてこう言った。侵略は何も生まない、と。故に彼らは侵略の牙を失い、弱体化を進めていった。そんな現状に辟易としたのか、彼らはオークを殺して手に入れたという三又槍を持ち、我々の前に現れた。我々がケンタウロスを侵略せんとする、半人馬皆殺祭を開催したその最中に。
「忠誠を見せるのだ。」
―――人間たちが大戦争を起こしている。数の少ないケンタウロスたちは逃げ惑い、資源を蓄えるオークたちは穴倉へ隠れた。そして我々ゴブリンは、、、侵略を続けた。我々は資源を持たず数が多かったのだ。コボルトの子供は、ケンタウロスの子供を刺した。流れる血、止まる息の根。我々は一つとなり、この森を一つに・・・・
ポタ・・・ポタ・・・
「え?」
三又の槍が、私の腹部を貫いた。
「どう.....して.....?」
私を抱きかかえるように腕が伸びる。
臭い息が当たり、乾いた口角がニヤリと上がる。
「バラードよ。」
ジュ.....ド..........?
「今から起こる喜劇をお前に見せられず残念だ。お前は賢い。文字を読める、文字が書ける。お前の眼鏡は正しく知恵者の証だった。そんなものは、いらん。王の世界にいらんのだ。」
ジュドーの周りには、豚の顔。
私の身体はその景色を最後に観衆の中を転げ落ち、土に顔を付けた。
赤い血が眼前に広がり目を浸す。
―――――――――――――
『忠誠を見せるのだ。』
王の言葉にサヤの手が震える。
「じいちゃん。オレ.....行くよ。」
オレは枝先にロープを引っ掻け、勢いを付けた全体重を振り子の如く放り投げた。
顔面に大焚火の熱気が被さる。
――シュッ・・・タンッ!!ザザザ・・・ッ!!
まずは着地。
「お前は.....?」
「コボルト族、族長の孫。.....ランジだ。」
「お兄ちゃん!!」
オレは自前の短剣を構える。
王はニヤリと笑った。
『ほう。』
何という邪悪な圧。
ふぅー。
大丈夫だ。
落ち着け。
長所を三つ。
俺の長所を三つ数えろ。
三つも有れば抜け出せる窮地だ。
1ずる賢い、2ずる賢い、3ずる賢い。
よし、行ける。
「ゴブリンの王よ!!忠誠は見せた!!オレたちはもうオークを殺している。大人のオークだ。ケンタウロスだって殺す、オレたちコボルトの知力をくれてやる、でもコイツは子供だ!!害は無いッ!!」
「殺れ。」
「慈悲は無いのかッ!!」
「黙れ。貴様に選択肢はない。殺すか、今死ぬかだ。」
近衛兵が木の槍を構える。
雑に鋭利な槍は特に痛いことをずる賢い俺は知っている。
「くっ......」
オレは観念したようにケンタウロスの子供へと近づいた。
1ずる賢い、2ずる賢い、3ずる賢い。
俺の長所は三つあるが、
選択肢は初めから一つしかない。
「ごめん。」
「お兄ちゃん!!」
「黙ってろ、サヤ!!」
右手を震わせる。
観衆は煽るように声を出す。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・・』
「くそっ......」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・・』
「う、うぉおおおおお!!!!」
―――グッ!!シュッ!!
すかさず俺は刃を引き抜き、王へ見せるように返り血を天に撒いた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!』
爆発するような歓声。
ゴブリン達の娯楽。
その咆哮が森に響く。
すかさず王は手を上げた。
観衆はボリュームを落し、直ぐに静寂が訪れる。
「捕らえろ。」
「――そんな!!」
オレたちは近衛兵に抑えられ、膝を地面に着ける。
――ドシャッ!!
そして目の前には観衆の悲鳴を割るように、
王の側近の死体が突き落とされた。
「うそ.....だろ.....?」
奴隷王エイブスの横に並ぶは、太々しいシャクれた豚の顔。
そこにはオークの兵と輿に担がれるオークの族長パイクが居た。
「仕掛け刀と高地赤カブの汁と言ったところか。民よ、これが本物の血だ。小奴らはケンタウロスを殺さなかった、.....のみならず!!オークを殺したと、この王に嘘を吐いた!!」
王の声が響き、観衆が揺れる。
「.....コロセー!!」
『そうだぁああああああああああああ!!!!』
『――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!』
『ゴロセェェェェェェェェエエ!!!!!!!!!!!!!!』
『――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!』
『――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!』
―――・・・
『――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!――クエッ!!バエッ!!ガセッ!!』
『ミィィイハァァアエェェェェェェェェェ・・・・エルッ!!!!!!!』
エイブスが王に成れた理由を知っている。
皆より少し頭が良くて、皆より遥かに声がデカいから。
アイツの長所は二つしかない。
『出てこいぃ、ミハエル。いるのだろう!!話がしたい。』
「いない!!」
「・・・」
「いないぞ!!!!」
「――つまらん。構えろ。」
エイブス兵の武器が上がる。
狙いはオレたちの喉元。
万策尽きた。
そもそも作戦なんて一つしか無かったけど。
考えろ。
考えるんだ。
汗が垂れる。
時間は過ぎる。
ゆっくりと。
着実に。
俺はずる賢い、
『やれ。』
ここまでか.....‼
・
・
・
・
・
・
・
『――急くな、奴隷王。』
深い声。
その音はエイブスとは異なる圧で観衆を黙らせた。
『そこにいたか。ミハエル。』
――ゴッ!
ガンッ――
――ダンッ!
ゴンッ――!!
――ガガンッ!!
まるで磁石を落したかのように、兵士らの武器が重々しく落ちて地面に張り付く。
俺はそれを知っている。
単純で効果的な、七番の武装解除魔法。
困惑するエイブス兵のその中で、一体だけが槍をゆっくりと降ろし平然と兜を取った。
若々しいハリのある顔立ち。
そんな魔法を掛けられた面を外し、皺だらけの老人が顔を出す。
「老いぼれが今更、故郷を離れますまいな。」
鎧が割れローブを羽織った賢者のようなゴブリンが現れると、懐へ静かに杖をしまって溜息を吐く。
『逢いたかったぞ、ミハエル。』
「して若造、何用であるかな?」
『いいや、ただ。』
エイブスの口角がニヤリと上がった。
『――跪けッ!!』
エイブスの近衛兵がすかさず手を上げる。
「キエエエエエエエエ!!!!!」
――ヒュウ……ッ!!!
「―――ウズッ!!」
頭蓋骨一閃。
エイブス兵に矢が刺さる。
―――ヒュゥッ!!ヒュッ――、ヒュゥッ――
「ウッ」「アァッ!!」「アウッ.....」
流れるように連続する風切り音と断末魔。
音の発生源では大木が倒れ道が拓く。
―――ドタラッ!ドタラッ!ドタラッ!!
馬蹄が大地を弾く音
向かい来る足音の鳴る方には猛々しいケンタウロスが走っている。
「じいちゃん!!」
用意していた暗殺兵は一瞬にして命を穿たれる。
一騎当千の弓捌き。
ミハエルは大焚火の炎で半円を描き民衆を牽制した。
奴隷王エイブスは瞳孔を開く。
自身の目を疑うように。
『まさか、半人馬と.....結託したというのか!?』
「――こっちだァ!退くぞ!!!」
半人半馬。
茶色い毛並みをしたケンタウロスが叫ぶ。
「に、逃がすなァ!!――王、見ましたか!?.....アレは一介のケンタウロスではございませぬ!!族長のアレンガルです!!」
『おもしろい……!!』
ゴブリンの群れは倒木に出来た逃げ道を塞ぐように迫る。
質は悪かろうと量で補うゴブリン達の肉壁。
それもここら一体のゴブリンが全て集まっていると来ている。
「くそっ......!!」
『――カンク。』
【突風槍】
系統:自然魔法
等級:C級
属性:①風魔
詳細:(風魔法系の初等式魔。周囲の空気を取り込みながら直線状の突風を引き起こす事が出来る。同列順位の自然系戦式魔術に比べ劣位に見られているが、無色透明で周囲を巻き込むという性質を持ち、派生先に凶悪な魔術が多く存在する基本風魔術。平和主義者、玄人、あるいは創造性に富む術者にはよく好まれている戦式魔術。)
道を塞ごうとする民衆をミハエルの杖が吹き飛ばした。
後ろからはオーク兵の群れ。
重装備だが足は速い。
追いつかれないように、ひたすら走る、走る。
――ヒュッ!!
『・・・ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
遠くに捉えた木の上の待ち伏せは、華麗な弓捌きで処理される。
これが数の少ないケンタウロスがこの森で生き延び、狡猾なゴブリンやオークたちとナワバリを争える理由。
地の利を活かした狩猟民族としての知恵と、
圧倒的な長距離狙撃能力。
「ふぅんぬッ!!」
振るう豪腕。
前方に残る雑兵は、敵を蹴り殺すために鍛え上がった前足と、軽々と振られる大斧の餌食となっていく。圧倒的なケンタウロスの突破能力。
「レヴィ――。」
【火炎塊】
系統:自然魔法
等級:C級
属性:①炎魔
詳細:(炎魔法系の初等式魔。魔力を燃え続ける火炎に変えて放つ、最も単純な攻撃魔法。単純が故に技量差が出やすく歴史も長いために、より洗礼されたレヴィを放つ大会「レヴィ・コンテスト」が存在する。採点項目は、スピード、スピン、燃え広がり方、美しさ.....などなど。)
――――シュボゥフッ・・!!!!メラメラメラメラメラ・・・・・!!!
後方の猛追。
鼻を鳴らしながら走るオーク。
精度の悪い投擲を見せるゴブリン。
彼らの行く手を遮るように、ミハエルの放つ火炎は斜め左方向にドロップしながら、タイヤが転がるように炎の壁を作った。
なんとテクニカル。
前はケンタウロス、後ろはコボルト。
両英雄の逃走劇。
「行けるぞォ、子供たち!!」
戦場にあるはずのない安心感。
順風満帆。
圧倒的な矛と盾を両脇に携えた、この満足感。
雲間に広がり出す光明。
見えもしなかったら活路が開かれていく。
『走れェエ!!!!……』
―――ド ム ッ ・・・ !!!
刹那。
あまりにも突然の出来事。
その爪先は衝突する。
丸太が、紐に縛られ落されるように。
800kgに迫るだろうケンタウロスの身体を悠々と蹴り飛ばす。
何も無い空間からそれは現れた。
赤い地肌に傷を付け。
大樹のような足が伸びる。
『―――マァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』
禁域のトロールが現れた。
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{ダンジョンステータス}
内部コア(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)
研究レベル:2
DP :0
MP:0
RP:0
状 態:マジ森すぎて草(ダンジョン外)
TIPS
・{禁域のトロール}
『ロルタ・ヴェイル禁林のメインボス、禁域のトロール。カブトムシのように個体差のある赤褐色の地肌は、禁域では姿を隠すカモフラージュになるどころか、本当にその姿を魔力ごと消し去ってしまう。このステルス性はウェスティリア魔術学院が抱える魔法学の研究テーマの一つ。仕組みは未解明である。圧倒的な質量を持つ巨体の接近を感知することが出来ず、視界に捉えた時には手遅れとなる様は、巨大な悪魔か死神のようである。彼らは自身のナワバリを寝床からの発する魔結石(魔素濃度が高いトロールの糞結石)の匂いの半径で決定し、その広さが個体の強さとなっている。
またナワバリを決定する指標の一つに足の速さがあり、見た目にそぐわぬ俊敏さがその凶悪さに拍車をかけている。総じてロルタ・ヴェイル禁林に足を踏み入れるということは、目と耳を塞いだ状態で、無限に続く踏切を愚直に進むようなものである。なおその時レールを走る列車は、侵入者を轢きたい心理が働いているものとする。』




