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【完結】私を蔑んだ者たちを徹底的に破滅させます  作者: 逆立ちハムスター


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7/9

厳冬の冷気が王都アルディミアを白銀の檻に閉じ込めてから、ひと月という歳月が流れていた。鉛色の空から絶え間なく降り注ぐ雪は、王城の尖塔や市井の家々の屋根に重くのしかかり、街全体を死の如き静寂で包み込んでいる。しかし、その凍てつくような外気とは裏腹に、王城の北翼――ヴァレリウス大公が座する「黒獅子の塔」の内部は、静かなる、しかし熱を帯びた戦場の様相を呈していた。


大書庫に隣接する作戦会議室。その重厚な樫の木の円卓には、北方軍を率いる歴戦の猛将たちが顔を揃えていた。彼らの顔には無数の刀傷が刻まれ、その巨躯を包む革鎧からは、血と鉄と硝煙の匂いが染み付いている。彼らは皆、辺境の過酷な戦場を生き抜いてきた誇り高き狼たちであり、王都の柔弱な貴族たちを心の底から軽蔑していた。

そのむさ苦しい武将たちの中心、円卓の最上座に近い位置に、一人の女が静かに腰を下ろしている。濃紺の執務服に身を包み、右手の薬指に大公の代理人たる銀狼の指輪を光らせるエレオノーラ・フォン・ヴァーレンベルクであった。


「……以上の試算に基づき、春の雪解けを待たずとも、東方街道を経由した鉄鉱石の搬入経路は確保可能であると具申いたします」

エレオノーラの琴の糸のように張り詰めた、冷涼にして明瞭な声が会議室に響き渡る。彼女の手元には、数多の商会の台帳と、各領地の関税率を記した膨大な書類が広げられていた。

「ローゼン伯爵は現在、自らの息のかかった商会を通じて、王都周辺の春小麦と軍馬の買い占めを行っております。これは春分の大朝餐会に向けた示威行為であると同時に、我が北方軍への物資補給を遅滞させ、大公殿下の軍事力を削ぐための卑劣なる経済封鎖です。しかし、殿下。ご懸念には及びません。私はすでに、東方の自由都市群を束ねる商人ギルドと極秘裏に書簡を交わし、伯爵の息がかかっていない独立商船隊を確保いたしました。彼らには、我が北方軍が関税を免除する特権を担保として提示しております。これにより、伯爵が買い占めた小麦の価格が高騰する前に、我々は三分の一の費用で越冬用の兵站を維持することができます」


円卓を囲む将軍たちは、息を呑んでその美しい戦乙女の報告に聞き入っていた。

一ヶ月前、ヴァレリウス大公がこの「国家叛逆者の娘」を主席戦術顧問として引き入れた時、彼らの間には少なからず反発と困惑があった。戦を知らぬ深窓の令嬢に、血生臭い軍の差配ができるはずがないと。しかし、その疑念は、エレオノーラが実務に就いた最初の三日で完全に粉砕された。彼女は、軍の経理担当官たちが数ヶ月かけても解明できなかった台帳の矛盾を瞬く間に是正し、無駄に流出していた資金を完全にせき止めたのである。彼女の頭脳は、千の剣よりも鋭く、万の盾よりも堅固であった。


「……恐れ入った」

将軍たちの中で最も古参であり、左腕を義手とした白髪の猛将、ギュンター将軍が、深くため息をつきながら頭を垂れた。

「エレオノーラ殿。我ら辺境の無骨者は、剣を振るうことしか知らぬ。ローゼン伯爵の毒蛇のような策謀の前に、兵糧を絶たれて餓死するのを待つばかりであった。貴女のその知略、まさに亡きヴァーレンベルク大公の神髄を見る思いだ。無礼な態度をとっていたこと、この老いぼれの首に免じて許していただきたい」

歴戦の猛将が、かつて下働きにまで身を落とした女に対して、深い敬意をもって頭を下げる。それは、王国軍の歴史においても稀に見る光景であった。

しかし、エレオノーラは驕ることも、得意げに微笑むこともしなかった。彼女はただ静かに立ち上がり、深く優雅な礼を返した。

「頭をお上げください、ギュンター将軍。私の知略など、皆様が流してこられた尊き血と汗の前にあっては、紙切れの上の戯れ言に過ぎません。私が剣の代わりにペンを執るのは、殿下の大義と、皆様の誇り高き背中をお守りするため。我らの敵はただ一つ、この国を蝕む腐敗そのものです」


その謙虚にして気高い振る舞いに、将軍たちの目に熱いものが込み上げた。彼らは今や、この美しき知の女神のためならば、喜んで命を投げ出す覚悟を決めていた。

円卓の最上座で腕を組んでいたヴァレリウスは、満足げに隻眼を細めた。彼が見込んだ通り、いや、それ以上に、エレオノーラは北方軍にとって不可欠な心臓となりつつあった。


「会議はこれまでとする。各将はエレオノーラの策に従い、部隊の再配置と物資の受け入れ準備に掛かれ」

ヴァレリウスの低く重い号令により、将軍たちは一斉に立ち上がり、敬礼を残して足早に退出していった。


静寂が戻った会議室で、ヴァレリウスはエレオノーラに向き直った。

「見事な采配だ、エレオノーラ。これでローゼン伯爵の経済封鎖は完全に崩れる。奴が私財を投じて買い占めた小麦は、いずれ値崩れを起こし、奴自身の首を絞めることになろう」

「はい、殿下。しかし、手負いの獣ほど恐ろしいものはありません。伯爵は己の策が破綻しつつあることに気づき始めています。春分の大朝餐会まであと半月。彼らがこのまま静観を決め込むとは、到底思えません」

エレオノーラの蒼玉の瞳には、冷徹な警戒の光が宿っていた。

「奴らが力行りっこうに及ぶと?」

「伯爵にとって、最も目障りなのは大公殿下ですが、殿下を直接暗殺することは、北方軍三万の報復を招くため不可能です。となれば、彼らが狙うのは……殿下の陣営における『知の要』であり、かつ、護衛を持たぬ最も脆弱な駒」

エレオノーラは、自らの胸元にそっと手を当てた。

「すなわち、この私です」


その言葉を聞いた瞬間、ヴァレリウスの周囲の空気が凍りついた。彼から放たれる凄まじい殺気が、室内の暖炉の炎すらも一瞬揺らがせた。

「……奴らが貴女の命を狙うというのなら、今すぐ黒獅子の塔の警備を三倍に引き上げる。貴女の側には、常にギュンターをはじめとする近衛兵を配置しよう」

「お待ちください、殿下。それでは意味がありません」

エレオノーラは毅然とした態度で大公の提案を制した。

「警備を固めれば、奴らは警戒して暗殺を引き延ばすだけです。春分の会議において伯爵を完全に失脚させるためには、彼らが『非合法な手段に訴えた』という決定的な物理的証拠――すなわち、暗殺者の生け捕りが必要不可欠です。私が餌となり、彼らを塔の奥深くへと誘い込みます」

「馬鹿なことを言うな!」

ヴァレリウスは激昂し、分厚い樫の机を拳で叩き割らんばかりの勢いで立ち上がった。

「貴女を餌にするだと? 万が一のことがあればどうする! 貴女は今や、我が軍にとって、いや、この私にとって……!」

大公は言葉を詰まらせた。その隻眼に浮かんでいたのは、単なる有能な部下を失うことへの焦りではない。それよりも遥かに深く、執着に満ちた、一人の男としての切実なる恐怖であった。

エレオノーラはその大公の思いを痛いほどに感じ取り、微かに伏し目がちになった。しかし、彼女の決意が揺らぐことはなかった。

「殿下。私はかつて、何の力も持たぬまま、愛する父を奪われました。あの時、ただ泣き崩れることしかできなかった無力な自分を、私は二度と許すつもりはありません。これは私の戦いでもあるのです。どうか、私に命をお預けください」

彼女の懇願は、騎士が主君に対して死地へ赴く許可を求めるような、悲壮で美しいものであった。ヴァレリウスは長く重い沈黙の後、奥歯を噛み締めながら深く息を吐き出した。

「……貴女という女は、本当に恐ろしく、そして腹立たしいほどに気高い。よかろう。だが、条件がある。罠を張る場所は私の目の届く範囲とし、決行の際には私が自ら貴女の背後を守る。これに異論は認めん」

「御意に」

二人の間に、血よりも濃い、強固な死線の盟約が結ばれた瞬間であった。


三日後の深夜。

新月が空を覆い、王都は完全な漆黒の闇に沈んでいた。猛吹雪は止んでいたが、空気を切り裂くような鋭い冷気が、黒獅子の塔を音もなく包み込んでいる。

大書庫の中では、たった一つの蜜蝋燭の灯りが、薄暗い空間に小さな光の輪を作っていた。エレオノーラは執務机に向かい、羽ペンを走らせている。彼女の周囲には護衛の姿は一人としてない。塔の巡回兵たちも、今夜に限って不可解なほどに手薄になっていた。すべては、ローゼン伯爵が放った暗殺者たちを迎え入れるために、エレオノーラ自身が綿密に計算し、作り上げた「隙」であった。

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