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【完結】私を蔑んだ者たちを徹底的に破滅させます。【◐】  作者: 逆立ちハムスター


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3/10

狂乱と虚飾に満ちた「琥珀の間」を背に、二つの影は王城の長く冷たい回廊を歩んでいた。先を行くのは、漆黒の軍服に銀狼の毛皮を纏った北方の守護者、ヴァレリウス大公爵。その後ろを、灰色の粗末な衣を纏ったかつての公爵令嬢、エレオノーラが一定の距離を保ちながら、音もなく従っている。

二人の間に交わされる言葉は皆無であった。しかし、その沈黙は決して気まずいものでも、重圧を伴うものでもなかった。それは、吹雪の夜に深く静まり返る針葉樹林の如き、荘厳で侵し難い静謐であった。ヴァレリウスの歩みは力強く、軍靴に取り付けられた銀の拍車が、冷たい石畳を打つ度に硬質な音を響かせる。その規則正しい足音は、エレオノーラの乱れかけた心の律動を静かに鎮めていくかのようであった。


王城の東翼から北翼へと足を踏み入れると、周囲の空気は劇的な変化を見せた。東翼の壁面を飾っていた豪奢なタペストリーや、虚栄に満ちた歴代の寵姫たちの肖像画は姿を消し、代わりに現れたのは、武骨な黒鉄の燭台と、建国初期の血生臭い戦役を描いた色褪せたフレスコ画である。暖炉の火もまばらになり、石造りの壁からは芯から凍えるような冬の冷気が容赦なく染み出してくる。しかし、エレオノーラにとって、この装飾を削ぎ落とした厳格な空間は、あの甘ったるい香水と偽善の笑みが充満する広間よりも、遥かに息がしやすかった。


彼女は歩みを進めながら、己の前を歩く巨大な背中を静かに見つめていた。ヴァレリウス・フォン・ドラッケンフェルス大公。王弟にして、王国北方の広大な国境地帯を統べる辺境伯。宮廷の柔弱な貴族たちは、彼のことを「北の野蛮人」「血に飢えた孤狼」と呼び、影で恐れ蔑んでいる。事実、彼は王都の社交界には一切顔を出さず、一年の大半を極寒の辺境における異教徒との苛烈な戦闘に費やしていた。エレオノーラの父、今は亡きヴァーレンベルク大公もまた武の誉れ高い人物であったが、政治的・文化的な洗練を併せ持っていた父とは異なり、ヴァレリウスは純粋な「武」と「厳律」の化身であると噂されていた。


半年前、エレオノーラの父が国家叛逆の罪に問われた際、ヴァレリウスは北方の叛乱鎮圧の最前線におり、王都には不在であった。もしこの男が宮廷にいたならば、父の運命は少しでも変わっていたのだろうか。そんな詮無き思いがエレオノーラの脳裏を微かに過ったが、彼女はすぐにその思考を断ち切った。過去の幻影にすがることは、己の魂を弱らせるだけの甘美な毒に過ぎない。彼女が守るべきは、父から受け継いだ無形の遺産――ヴァーレンベルクの血の気高さのみである。


やがて、回廊の突き当たりにある重厚な黒檀の扉の前に二人は到達した。扉の両脇には、完全武装した大公直属の近衛兵が彫像のように直立していたが、主の姿を認めるや否や、一糸乱れぬ動作で最敬礼を行い、重い扉を無言で押し開いた。


そこは、ヴァレリウスが王都に滞在する際のみ使用される「黒獅子の塔」の執務室であった。部屋に足を踏み入れた瞬間、エレオノーラは微かな驚きを覚えた。王弟の私室であるにも関わらず、そこには王族としての権勢を示すような豪奢な調度品は一切見当たらなかった。

床には飾り気のない分厚い絨毯が敷かれ、壁一面には床から天井まで届く巨大な書棚が設えられており、そこには革表紙の重厚な古文書や、兵法書、歴史書が隙間なく並べられている。部屋の中央には、数多の戦場を共にしてきたであろう、傷だらけの巨大な樫の木の執務机が置かれ、その上には広げられた羊皮紙の地図と、銀の文鎮、そして黒くくすんだインク壺が整然と配置されていた。部屋の奥では、巨大な石造りの暖炉の中で薪が赤々と燃え盛り、パチパチと心地よい音を立てながら、凍てつく部屋の空気を力強く温めている。

それは、権力者の豪邸というよりも、禁欲的な修道僧の庵、あるいは前線の野戦将校の天幕を思わせる、厳格にして機能的な空間であった。


「そこへ座るがよい」


ヴァレリウスは、己の肩を覆っていた銀狼の毛皮を無造作に長椅子へ投げ出しながら、暖炉の前に置かれた革張りの肘掛け椅子を顎で示した。

エレオノーラは一瞬、己の泥に汚れ、葡萄酒の染みがついた灰色の衣を見下ろした。このような高価な椅子に、罪人の娘たる下働きの自分が腰を下ろすことは、宮廷の厳格な身分秩序に対する明らかなる反逆である。


「殿下。お言葉は痛み入りますが、私のような卑しい身分の者が、そのような席を汚すことは許されません。ここにて控えさせていただきます」


エレオノーラは礼儀作法に則り、深く頭を下げた。その声は、感情の波を一切感じさせない、琴の糸のように張り詰めた冷涼なものであった。


ヴァレリウスは暖炉の火バサミを手に取り、燃える薪をつつきながら、背を向けたまま低く唸るように言った。

「卑しい身分か。……先ほどの琥珀の間において、貴女は自らを卑しい者と認めて床に這いつくばったわけではあるまい」

「……」

「貴女が床の葡萄酒を拭っていたのは、狂女の命令に屈したからではない。あれは、自らの魂の聖域を穢すまいとする、貴女自身の誇りがなした行動だ。私は戦場で、死の恐怖に魂を売り渡す者を数え切れぬほど見てきた。真に卑しいのは身分や衣ではない。己の尊厳を自ら放棄する心だ」


火の粉が舞い上がり、ヴァレリウスの左目にある深い傷跡を赤く照らし出した。彼は振り返り、隻眼の鋭い眼差しでエレオノーラを真っ直ぐに見据えた。


「ここは私の陣地である。王宮の腐敗した作法など、この部屋においては何の価値も持たぬ。私が座れと命じているのだ。……それとも、北の辺境伯の命令は、かつての公爵令嬢の耳には届かぬか?」


その言葉には、威圧ではなく、武人としての奇妙なまでの誠実さがこもっていた。エレオノーラはもはや辞退することは無礼に当たると判断し、「……御意に」と短く応え、革張りの椅子に静かに腰を下ろした。深く腰掛けることはせず、背筋を真っ直ぐに伸ばし、両手を膝の上で上品に重ねるその姿は、どれほどみすぼらしい衣を纏っていようと、紛れもない王侯貴族の令嬢のそれであった。


ヴァレリウスは傍らの小卓から、飾りのない銀の杯を二つ取ると、自らの手で真紅の熱葡萄酒グリューワインを注いだ。シナモンと丁字クローブの鮮烈で甘い香りが、部屋の空気に溶け込んでいく。彼は一つの杯をエレオノーラに差し出した。


「冷え切っているであろう。飲め」

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