97.兄が見ている世界 —期末試験⑦—
次の日の朝。
兄はまり姉に、いつものようにうつ伏せ膝枕をお願いしたが、今日はやんわりと断られてしまった。
兄は仕方なく起き上がると、制服の学ランを脱ぐ。
そして、まり姉の頭を自分の太ももへ乗せた。
さらに脱いだ学ランをまり姉へ掛ける。
『今日は俺の番かな。』
そう言うと、兄はカイロを両手に持ち、
左手はまり姉の手とお腹、
右手は腰へ当てながら優しくさすり始めた。
しばらくすると、ありさがやって来る。
『あー、まりちゃん! ずるいー! 私もー!』
そう言いながら兄の隣へ座った。
結果、
右太ももにはまり姉、
左太ももにはありさが頭を乗せ、
兄は左右それぞれの手を握った状態でバスを待つことになった。
そしてバスに乗り、学校へ向かう。
そして、
期末試験を終え、帰宅する時間になった。
まり姉が兄へ声を掛ける。
『あっくん、帰るよ!』
兄は首を横に振った。
『今日、まきちゃんと待ち合わせがあるから、先に帰ってていいよ。』
すると、まり姉が聞く。
『私達も一緒に行っていい?』
兄は一瞬まり姉のお腹辺りを見た。
ああ、生理痛のことか。
朝からあまり調子が良さそうには見えなかったからだ。
まり姉はその視線の意味を理解したのか、
『大丈夫!』
とすぐに答えた。
兄も頷く。
『じゃあ行こうか。』
待ち合わせ場所へ向かうと、既にまきが待っていた。
兄を見つけた瞬間、
『あっ、先輩達、こんにちは!』
と明るい声を出す。
だが、
兄を見た瞬間に上がったテンションが、
まり姉とありさを見た瞬間、目に見えて急降下した。
その様子を見て、わたしは少し笑ってしまった。
ありさが聞く。
『そう言えば、二人でどこへ行くつもりだったの?』
すると、
兄とまきは同時に答えた。
『『警察署。』』
まり姉とありさは、
『え?』
という顔をする。
だが、まり姉はすぐに納得した。
『あー、危険物合格したから収入証紙を買いに行くのね。』
ありさも、
『なんだ、そういう事かぁ。』
と安心した顔になる。
兄は頷いた。
『そうだよ。
後は、期末試験が順調か聞きたかったからね。』
まきは胸を張る。
『今回の期末試験は、私史上最高の成績が取れると確信してます。』
すると、
まり姉とありさが同時にまきへ近付いた。
『ちょっと、まきちゃん。』
『え?』
まきが首を傾げた瞬間だった。
まり姉は肩を掴み、
『やっぱり大きくなってる!』
と言いながら肩•胸•腕を確認する。
ありさも反対側へ回り込む。
『絶対そうだよね!』
と言いながら腕•背中•尻を触り始めた。
『前に会った時よりしっかりしてる。』
『肌の色も良くなってるし。』
『やっぱ成長期は違うなー。』
二人に囲まれたまきは完全に困惑していた。
『え? え? 何ですか?』
助けを求めるように兄を見る。
そして慌てて兄の後ろへ隠れた。
まり姉とありさは我に返る。
『あっ……ごめん。』
『なんか前より大人っぽくなってたから、つい……。』
兄は困ったように苦笑した。
『とりあえず行こうか。』
そう言って四人は警察署へ向かった。
道中、
兄はまきへ尋ねる。
『みきちゃんの受験勉強は順調なのかな?』
まきは嬉しそうに答えた。
『はい。
みきも、私史上最高の点数を取れたって喜んでました。』
兄は満足そうに頷く。
それを聞いたまり姉が尋ねた。
『かなり教え方厳しかったと思うけど、大丈夫だったの?』
まきは少し遠い目になった。
『大丈夫ですよ。
私達のためを思ってやってくれた事ですし……。』
そして何かを思い出したように兄を見る。
『そうだ、先輩。
妹にもメッセージの返事を返してもらえないでしょうか。
全く既読にすらならないって落ち込んでました。』
その瞬間、
兄はまり姉に膝で小突かれた。
『ごめんね。
家に帰ったらすぐ返事するね。』
そう話しているうちに、
四人は警察署へ到着した。
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