96.兄が見ている世界 —期末試験⑥—
ありさが、
『いただきまーす。』
と言って、兄の作ったカルボナーラを食べる。
『ん〜ん。』
と幸せそうな顔をしていた。
まり姉もフォークを動かしながら、
『空腹時のこの味付けは罪だよねー。』
そう言いながらも、とても満足そうだ。
しばらくして、まり姉が兄に尋ねた。
『そう言えば、まきちゃんの生活はどの部屋でしてたの?
客間?
あいちゃんの部屋とか?』
兄は平然と答える。
『俺の部屋だよ。
無駄に広いし、何より、まきちゃんがその方がいいって言ってくれたからね。』
その回答に、まり姉は勢いよく立ち上がった。
ありさも思わずパスタを喉に詰まらせる。
『何も無かったの?
二人とも同じ部屋で寝てたって事だよね?』
まり姉が確認するように聞く。
兄は首を傾げた。
『何も無かったよ。』
まり姉とありさは、
年頃の男女が同じ部屋で数日過ごして、本当に何も無いのか?
そう思った。
だが、
この人なら本当に何も無かったんだろうな。
そんな顔をしている。
まり姉は話題を変える。
『勉強も教えてたんだよね?
それはどうだったの?』
兄は頷いた。
『まきちゃんの家にお邪魔させてもらって、
まきちゃんの妹のみきちゃんにも勉強を教えてきたよ。』
まり姉は少し不安そうな顔になる。
『いつもの、あの教え方?
大丈夫だった?』
恐る恐る尋ねた。
兄は平然としている。
『学生の仕事は勉強。
仕事である以上、成果を出すのも普通だから、
俺の中では最低限のアウトプットが出せる程度の教育はしたよ。』
その考えについては、わたしも異論はない。
まり姉は頭を抱えた。
『この家の方針かもしれないけど、
あっくんも、あいちゃんも、
すべき事に対する考え方が極端なんだよなー。』
そして兄を指差す。
『もし結婚して子どもが生まれた時は、
ちゃんと相手の意見を聞いてするんだよ!』
念を押すように言った。
兄はその圧に押される。
『はい……。』
と素直に返事をした。
食事を終えると、
まり姉とありさは、
『明日も期末試験だから。』
と言って帰宅した。
兄は、
『勉強……。』
と少し考える。
すると何かを思い出した。
『あっ、危険物の試験結果のハガキ。』
机の上に置いてあった封筒を手に取る。
開封すると、無事合格だった。
兄は一瞬安堵する。
だが次の瞬間、
満点ではなかった箇所を見つけて舌打ちした。
兄らしい。
その後、スマホを立ち上げる。
すると、まきからメッセージが届いていた。
『先輩、私合格しました。
その後の手順を教えてください。』
と書かれている。
兄はすぐに電話を掛けた。
『まきちゃん、試験合格おめでとう。』
『この後の手順だけど、
警察署で収入証紙を買って学校へ提出すれば、その後は学校側がやってくれるからね。』
『明日、一緒に買いに行こうか。』
まきは嬉しそうに答える。
『ありがとうございます。』
そして少し間を置いて、
『警察署ですか?』
と聞き返した。
兄は平然としている。
『この辺だと、そこしか無かったはずだよ。』
『明日の試験の後、一緒に買いに行こう。』
まきは元気よく返事をした。
『はい!』
兄はふと思い出したように聞く。
『そう言えば、まきちゃんは全問正解だった?』
すると、まきは申し訳なさそうに答えた。
『法令で一問間違えてたみたいです。』
『せっかく教えてもらったのに申し訳ありません。』
そう聞いた瞬間、
兄は心の底から安心したような表情になった。
自分と同じ箇所を間違えたら、
自分が間違って教えていたかもしれない。
そんな事を考えて怯えていたのだろう。
ちなみに、
兄が間違えたのは性質の問題だった。
その後、兄は食器や調理器具を片付けながら、
明日の試験へ向けて気持ちを切り替えるのだった。
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