60.兄が見ている世界 —料理対決①—
兄がまきへ言った。
『もちろん、まきちゃんの都合優先で構わないんだけど。』
『まきちゃんが良ければ、毎日でも一緒にいたい。』
まきは今にも泣きそうな顔になる。
『私で良かったら、いつまでも…。』
と答えた。
それを見て、わたしは思う。
まき。
お前、本当にそれでいいのか?
その時だった。
まり姉が勢いよく立ち上がる。
『私、この料理に不満なんて言ってない!』
ありさも隣で何度も頷いている。
兄は冷静だった。
『満足もしてない。だよね?』
まり姉とありさは黙る。
それが答えだった。
兄は壁に掛かっていたカレンダーを外す。
さらにペンを持つと、まきの元へ向かった。
そして笑顔で聞く。
『まきちゃんの都合の良い日を教えて欲しいな。』
まきは少し考える。
『私は基本的に休みの日は大丈夫です。』
『ただ、期末試験前なので勉強もしないといけなくて……。』
兄は即答した。
『まきちゃんに、これだけ無理を言ってお願いしてるんだから。』
『試験勉強は全部俺が責任を持って教える。』
『付きっきりで面倒を見るよ。』
まきの顔が明るくなる。
『そうであれば、放課後も休みの日も全部、先輩と一緒にいられます。』
兄も嬉しそうに頷く。
『ありがとう。』
『それなら放課後は学校に残って勉強。』
『休みの日はうちで勉強して、料理の練習。』
『そんな感じでどうかな?』
まきは少し考えた。
そして言う。
『それなら、私の家は学校の近くなので。』
『放課後の勉強は私の家でしませんか?』
兄は首を傾げる。
『それでもいいけど。』
『俺、家の仕事があるから暗くなる前には帰らないといけないんだけど大丈夫かな?』
『問題ありません。』
まきは即答した。
『二人きりの方が集中できますし、効率的ですから。』
その瞬間だった。
まり姉が再び立ち上がる。
『問題大あり!』
『なんなら問題しかない!』
兄とまきが同時に振り向く。
『あっくんの料理、満足した!』
『とっても美味しかった!』
『だから二人きりで何かする計画は中止!』
兄は真顔で聞き返す。
『まきちゃんとありちゃんが満足する料理を作りたいだけだけど。』
『何か問題あるの?』
まり姉は言葉に詰まる。
しばらく悩んだ後、何かを思いついたように顔を上げた。
『万が一よ!?』
『万が一、何かあったって疑われて内定取り消しになったらどうするの!?』
『実際に何かあったかどうかじゃないの!』
『疑われる可能性があること自体が問題なの!』
兄は少し考え込む。
まり姉は畳み掛けた。
『料理なら私が教える!』
『私とあっくんなら子供の頃からの付き合いだし!』
『疑われることもないから!』
そして小さな声で、『たぶん……。』と付け足した。
その発言に、まきが反応した。
『私と先輩に何かある?』
『そんなの問題ありません。』
『なんなら、かかってこいです。』
『ウェルカムですよ。』
『ギブミーですよ。』
おいおい、まき。本当に大丈夫か?
わたしは少し心配になった。
兄は悩んでいた。
せっかくもらった内定を失いたくないのだろう。
しばらく考え込んだ後、口を開いた。
『確かに。』
『期限を決めずに続けるのは良くないね。』
兄はまり姉を見る。
『じゃあ、こうしよう。』
『まきちゃんと料理の勉強をするのは、まりちゃんの入試が終わるまで。』
『その時、まりちゃんの料理と俺の料理どっちが美味しいか勝負しよう!』
まり姉の目が細くなる。
兄はさらに続けた。
『判定するのは、ありちゃん。』
『目隠しをして試食。』
『まきちゃんが食べさせる。』
『これでどうかな?』
一瞬の沈黙。
そして、
『その勝負、乗った!』
まり姉の闘志に火が付いた。
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