55.兄が見ている世界 —試験勉強④—
バスが到着し、兄はまきを起こした。
『そろそろ降りようか』
まきは頷きで返した。
まきはバスを降りて驚いた。
周りには畑と収穫を終えた田んぼくらいしか無かったからだと思う。
兄は手を差し出して、
『行こっか』
と言うと、まきは、
『はい!』
と明るく答えた。
しばらく歩いて家に到着した。
そこでも、まきはびっくりした表情をした。
家が古いからだろうか…?
そして離れの台所へ向かう。
まきへ台所の椅子をすすめると、兄が言った。
『まきちゃん、ちゃんと説明してなくてごめんね。今度の家庭科の実技試験で料理があるんだけど、俺、あんまり料理したことが無くて。でも親や兄妹も頼れる人が居なかったから、まきちゃんにお願いしたんだ。』
まきは笑って、
『そんな所だろうと思ってましたよ。』
そして軽くため息をつくと、
『自宅デートなんてそんな甘い話じゃ無いですよね……』
と言い、
『私が先輩に料理を教えればいいんですね!』
と胸を張った。
兄は、
『確かに教えて欲しいけど、まきちゃんキツいだろうし、おかしいと思った時に止めて欲しいのと、後は味を見て欲しいかな。試験当日まで時間が無いから実戦で行きたいと思ってる。』
と答えた。
わたしは、
『おいおい、大丈夫か? 料理したこと無いだろ!』
と言うと、
兄は、
『教科書はしっかり読んだし、少し動画も見た。』
わたしは、
『それは、あんまりじゃ無く全くだからな!』
と突っ込んだ。
『それじゃ始めるね。』
『まきちゃん、ごめん。だけどよろしくお願いします。』
まきは笑いながら了承した。
『あ、そうだ。ちょっと待ってて。』
と言って兄は膝掛けを取りに行き、まきの膝にかけた。
そうして兄は手を洗い、料理を始めた。
包丁大きいな〜。電気工事の時のナイフぐらいのサイズなら扱いやすいのに……
と思いながら料理の準備を始めた。
作る料理は、豚汁、ほうれん草のおひたし、卵焼き、野菜炒め、後は白米だ。
どれも試験当日に作る物だ。
白米なんて炊飯器に入れて終わりだと思うかもしれないが、今まで親元で育って一切料理をしてこなかった者は、その使い方を知らず、いざ一人暮らしを始めて苦労した人が居るとか居ないとか……
そして、試験終了の合図が炊飯器の炊き上がり時間だったりもする。
いざ、炊飯器の炊飯ボタンを押し、料理開始!
兄がお湯を沸かしている間に、こんにゃくなどの具材を切り始めた。
使い始めたら簡単なようで、思ったよりスムーズに皮を剥き、野菜を切ることができた。
手順に関しては、イメージトレーニングだけなら何度もした。
思っていたより楽だ。
水などの分量も単位さえ間違わなければ、その目盛付近まで入れておけば大丈夫だし、マイクロメーターでも1〜4μmの測定誤差があるんだし、この計量カップで測れる程度であればたかが知れている。
思っていたより順調に料理できるもんだなぁ―
そう思いながら進めていると、
まきが、
『あの、まり先輩とは、お付き合いされているのでしょうか?』
と聞いてきた。
兄が、
『付き合って無いね。』
と答える。
『じゃあ、まり先輩のこと、どう思ってるんですか? 好き……ですか?』
と、まきが質問し、兄は、
『もちろん好きだよ。好きという気持ちよりも安心するって気持ちが強いけどね。』
と答えた。
『えっと、その……私は?』
と、不安そうにまきは兄に尋ねる。
『まきちゃんのことをどう思ってるかってこと?』
兄が質問の内容を確認する。
『はい……』
まきは弱々しく返事をした。
兄は、
『まきちゃんのことも勿論好きだよ。』
と答えた。
『他には?』
まきは兄に聞く。
『初めて会った時は、少しお調子者で、かわいいけど危なっかしいなって気持ちがあったけど、今は、自分が何をすべきかをしっかり判断して行動出来る、しっかり者かな?
キツい時も、弱音をなかなか言ってくれないから心配な面がある。
今日思った事は、オシャレなかわいい女の子!
後は……』
まきは兄の話を途中で遮り、
『もういいです。わかりました。』
と顔を真っ赤にして言った。
他に何か話すことはないかと、まきは考えた。
『妹さんがいらっしゃるんですよね?
詳しくは知らないのですが、夏祭りで何かあったと聞いています。
妹さんのことは、どう思われてるんですか?』
わたしは、
お? 急にわたしの話題?
さぁて、あっくんは何言ってくれるのか?
期待して待っていると―
兄は、
『亜衣のことだよね……?』
少し考え、
『亜衣は、俺のことが嫌いで、避けてて、バカでチビで根暗だって見下してくる子かな?』
ごめんて。
わたしがそう思うと、
『後は、俺の言うことは全く聞かないのに、甘言に何にも考えずにのって、何かあったらぎゃーぎゃー言うアホな子?』
わたしは、土下座して兄に謝りたくなった。
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