56.兄が見ている世界 —試験勉強⑤—
兄からわたしへの評価を聞き、わたしが落ち込んでいたら、
『ただ何でか、放っておけないんだよね……』
と兄がボソっと言った。
まきが顔を引き攣らせ、
『妹さんへの酷評、なかなかですね。』
と言うと、兄が、
『一緒に生活するって、そんなもんなんじゃないかな?って思って、諦めてるよ。』
と言った。
すると、まきも安心した表情になり、
『そうですね。そんなものなのかもですね。』
と返した。
そうこうしていたら、炊飯器の炊き上がりのアラームが鳴り、兄も、
『ギリ完成!』
と疲れた声で言った。
兄はまきへ、
『どうだった? 手順とかで危うい所とか、改善できそうな所はどこだったかな?』
と問いかけたが、まきは座っていてよく見えていないし、話に集中してあまり見ていなかった。
『良かったと思います。特に悪い所はなかったはずです。』
と、まずいという顔をした。
兄は軽くため息をついて、
『一緒に食べよ。』
とまきへ伝え、まきは、
『はい。』
と元気に答えた。
兄が作った料理をテーブルに並べ、二人でご飯を食べ始めた。
すると兄が、
『次は、まきちゃんについて色々教えてよ!』
と言い、
まきは、
『どうぞ。何でも答えますよ。』
と笑いながら答えた。
しばらくして、まきが、
『豚汁おかわりしますね。』
と言った。
すると兄が、
『どうぞ。まだまだ余ってるから沢山食べて!
俺がよそうから、お椀を貸して。』
と言う。
まきは笑顔で立ち上がりながら、
『ありがとうございます。自分で出来るので大丈夫ですよ。』
と言った。
まきが豚汁をよそい、自分の席へ戻ってくる途中――
床に落ちていた膝掛けを踏んでしまった。
『あっ……』
バシャーッ!
まきが転んでしまった。
まき自身もだが、服も豚汁で汚れてしまっている。
兄は、まきが火傷するかもしれないと思い、風呂に入るように勧め、着替えを準備しようとするが……
ない…… ない……
女性物の服がどこにあるのかわからない。
仕方なく、兄が中学生の頃に着ていた服を取り出した。
まきがシャワーを浴びている浴室の隣の脱衣室へ兄が行き、
兄
『まきちゃん。聞こえるかな?』
まき
『はい。聞こえてますよ。』
兄
『大丈夫だった? 火傷とかしてない?』
まき
『はい。問題ありません。』
兄
『良かった。シャワー終わったら、一旦、俺の服を持ってきたから着てから出てきて貰えるかな?』
まき
『了解しました。』
わたしは、まきが兄の服を着て登場する姿を想像した。
「彼シャツってやつか?」
まきの彼シャツ姿をワクワクしながら待っていたら――
まきが、
『お待たせしました。』
と出てきた。
わたしは、
『えーーー! イメージと違うんですけど!』
と思わず叫んだ。
そこには、兄が中学生の頃に着ていた服を着たまきが立っていた。
わたしが想像していたのは、
ブカブカの服を着て袖が余っているような姿だった。
だが現実は違う。
普通に着れている。
普通に着れているどころか、
なんか色々強調されている。
『おいチビ!』
『ん?』
『お前、なんで中学生の頃の服を渡した!? 今の服を渡せよな!』
まきは顔を真っ赤にして俯いていた。
兄は、
『まきちゃんの服、今から洗濯機から乾燥まで回そうと思うんだけど、普通に洗濯して大丈夫な服かな?』
と聞いた。
まきは、
『大丈夫なはずです。ありがとうございます。』
と答えた。
心なしか声に元気がない。
兄が、
『まきちゃん、洗濯まだまだ時間かかるけど、亜衣の部屋に入って、ちょうどいい服探そうか。』
と言うが、
まきは引き続き元気の無い声で、
『そのままで結構です。』
と言い、部屋の隅で体育座りをしながら、ぶつぶつと何かを呟いている。
兄がため息をつき、
『俺の部屋来て、もうちょっと良い服ないか探してみようか。』
と言うと、
まきは元気な声で、
『はい。』
と言い立ち上がった。
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