3.5 みほ視点②
夏祭り会場は、人で溢れていた。
わたしたちは人混みを抜け、ようやく落ち着いて花火を見られそうな場所を見つけた。
そこで、出店で買ったものを食べたり飲んだりしながら、花火が始まるのを待っていた。
「ゆりもみほも、全然食べないんだな。腹減ってないの?」
男子のたかしが、不思議そうに聞いてくる。
わたしはすぐに言い返した。
「焼き鳥に焼きそば…。そりゃ美味しいでしょうねぇ。そして喉が渇いたら炭酸を流し込む。実に羨ましいことですなぁ」
「じゃあ食べる?」
たかしに悪気はない。
だからこそ、ちゃんと説明してやらねばならない。
「この浴衣姿のわたしが? もしタレとかソース飛ばしたらどうするの? しかも人間って、食べたら出す生き物なんだよ? あのトイレの列に並べと?」
そこまで言うと、たかしは申し訳なさそうな顔になった。
「なんか、ごめん…」
しまった。
空気が変な方向に行った。
わたしは慌ててフォローする。
「いや、浴衣着たいって言ったのわたしだし! だから謝る必要なし! それより食べ物じゃなくて、ちゃんとわたしを見て愛でてくれ!」
「なんだそれ」
たかしが笑う。
よかった。
なんとか空気は戻ったみたいだ。
そんなことを考えていた時だった。
…あれ?
「あいちゃんは?」
わたしが辺りを見回しながら聞くと、たかしが答えた。
「あー、啓と二人で穴場行ったよ。そこで花火見たいんだって」
その瞬間、胸の奥がざわついた。
「…穴場?」
嫌な予感がした。
「どこ?」
「いや、詳しくは聞いてないけど…」
そこまで聞いて、わたしは思わず口にしていた。
「…もしかして、筒場?」
全身がぞくりとした。
たかしは苦笑いしながら言う。
「いやいや、流石にそれはないだろ。立ち入り禁止だし」
「……そうだよね」
そう返しながらも、不安は消えなかった。
やがて、花火が始まった。
夜空に大輪の花が咲き、人々の歓声が響く。
けれど、わたしはどこか落ち着かなかった。
そして…
花火が終わる頃。
遠くから、サイレンの音が聞こえた。
ざわめきが広がっていく。
気づけば、多くの人が一ヶ所へ集まっていた。
嫌な予感がした。
見たくない。
でも、確認しなきゃいけない気がした。
人混みをかき分けるように進んでいく。
そして見えた。
担架。
毛布。
その下から覗く、赤黒い何か。
その隣で、啓が呆然と立ち尽くしていた。
頭が真っ白になる。
気づけばわたしは啓へ駆け寄り、何かを叫んでいた。
何を言ったのかは、覚えていない。




