表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/92

46.兄が見ている世界 —合格発表③—

教室の外で、兄はしばらく待っていた。

すると、少し諦めたような、寂しそうな顔をしたありさが、教室から出てきた。


ありさは周囲をキョロキョロ見回し、担任の姿を見つけると、残念そうにため息をつく。


そして、

『帰ろっか』

そう言って、バス停へ向かい始めた。


兄は、何も聞かない。


するとありさが、困ったような顔で、

『ねぇ、あっくん。

“私に何があったの?”って聞いてくれないの?』

と、聞いて欲しいような、でも聞いて欲しくないような声音で言った。


兄は、

『ありちゃんが、自分から言いたくなる時を待つよ。

ありちゃんは、ちゃんと自分の気持ちを整理してから話せる人だから』

と静かに答えた。


ありさは困ったように息をつき、バス停のベンチへ座る。


そして、軽く兄の制服の裾を引っ張った。


兄が隣へ座ると、ありさは、

『あっくん、その言い方ずるいと思う』

そう言った後、

『だから……』

急に泣きそうな顔になり、篤志へ抱きついた。

『……わたし、頑張ったんだよ……

頑張ったのに……』

『わぁぁぁん……』


兄は、優しい声で、

『ありちゃん、ちゃんと学校出るまで我慢できたじゃん。

ありちゃんは、すごく頑張ってる。偉い、偉い』

と語りかけながら、軽く抱きしめ、頭を撫でた。


十分ほどだろうか。


ひとしきり泣いた後、ありさは自分から兄を離れ、ぷいっと反対側を向く。


『こんな、泣いてぐちゃぐちゃになった顔、あっくんに見せたくない……

だから、先帰って』

まだ鼻声のまま、ありさはそう言った。


兄は、

『わかった』

と答えて立ち上がる。


だが、そのまま少し離れた場所で、ありさを心配そうに見守っていた。


そして十五分ほど経った頃。


ありさが、深呼吸をして前を向いた。

兄は、それを見てゆっくり隣へ戻る。

するとありさは、頬を膨らませ、

『先帰ってって言ったのに!』

と言った。


兄は困ったように笑い、

『ごめんなさい』

と答える。


少し沈黙が続いた後、不意にありさが笑い始めた。

『久しぶりにこんな泣いたら、ちょっとスッキリした』


兄も、小さく笑う。


そしてありさは、ぽつりと話し始めた。

『わたしね……

総合職の内定、落ちちゃった』

『一般職なら内定出せます、だって』

『どうしようかなって悩んでる』

『明日、両親と相談して返事しますって言って帰ってきた。

先生からも、“明日の午前中までに返事しに来い”って言われたから、“わかりました”って……』

ありさは、少し苦笑しながら続けた。


『私だってね、

過去にこの学校から受けた人達が、最終的にどんな通知もらってたかくらい調べてたんだよ?』

『だから、総合職が厳しいのも、なんとなくわかってた』

『でもさ……

もしかしたら、私なら行けるかもって、期待しちゃってたんだよね』

『しかも先生の言い方も、

“総合職ではダメだったけど、一般職なら内定出すって言ってるから、それで返事しとけ”みたいな感じでさ』

『なんか……

勝手に決められてる感じして、ちょっとイラッとしちゃった』


記憶の中の兄とわたしは、

『あー、それはイラッとするな』

と、珍しく同じタイミングで声が重なった。


その瞬間また、

わたしのお尻から、ガスが出る音がした。


またか、

……と思った次の瞬間。


今度は、明らかに“しっかりしたもの”まで出た音がした。

『…………』


わたしも兄も、無言になる。

兄は少し悩んだ後、


『えーっと……

腸がちゃんと動いてるのは、いい事だよ』

とフォローした。


それを聞いたわたしは、

『やっぱり、黙ってて!!

今日はもう帰って!』


そう叫んだのだった。

ご意見 ご感想 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ