46.兄が見ている世界 —合格発表③—
教室の外で、兄はしばらく待っていた。
すると、少し諦めたような、寂しそうな顔をしたありさが、教室から出てきた。
ありさは周囲をキョロキョロ見回し、担任の姿を見つけると、残念そうにため息をつく。
そして、
『帰ろっか』
そう言って、バス停へ向かい始めた。
兄は、何も聞かない。
するとありさが、困ったような顔で、
『ねぇ、あっくん。
“私に何があったの?”って聞いてくれないの?』
と、聞いて欲しいような、でも聞いて欲しくないような声音で言った。
兄は、
『ありちゃんが、自分から言いたくなる時を待つよ。
ありちゃんは、ちゃんと自分の気持ちを整理してから話せる人だから』
と静かに答えた。
ありさは困ったように息をつき、バス停のベンチへ座る。
そして、軽く兄の制服の裾を引っ張った。
兄が隣へ座ると、ありさは、
『あっくん、その言い方ずるいと思う』
そう言った後、
『だから……』
急に泣きそうな顔になり、篤志へ抱きついた。
『……わたし、頑張ったんだよ……
頑張ったのに……』
『わぁぁぁん……』
兄は、優しい声で、
『ありちゃん、ちゃんと学校出るまで我慢できたじゃん。
ありちゃんは、すごく頑張ってる。偉い、偉い』
と語りかけながら、軽く抱きしめ、頭を撫でた。
十分ほどだろうか。
ひとしきり泣いた後、ありさは自分から兄を離れ、ぷいっと反対側を向く。
『こんな、泣いてぐちゃぐちゃになった顔、あっくんに見せたくない……
だから、先帰って』
まだ鼻声のまま、ありさはそう言った。
兄は、
『わかった』
と答えて立ち上がる。
だが、そのまま少し離れた場所で、ありさを心配そうに見守っていた。
そして十五分ほど経った頃。
ありさが、深呼吸をして前を向いた。
兄は、それを見てゆっくり隣へ戻る。
するとありさは、頬を膨らませ、
『先帰ってって言ったのに!』
と言った。
兄は困ったように笑い、
『ごめんなさい』
と答える。
少し沈黙が続いた後、不意にありさが笑い始めた。
『久しぶりにこんな泣いたら、ちょっとスッキリした』
兄も、小さく笑う。
そしてありさは、ぽつりと話し始めた。
『わたしね……
総合職の内定、落ちちゃった』
『一般職なら内定出せます、だって』
『どうしようかなって悩んでる』
『明日、両親と相談して返事しますって言って帰ってきた。
先生からも、“明日の午前中までに返事しに来い”って言われたから、“わかりました”って……』
ありさは、少し苦笑しながら続けた。
『私だってね、
過去にこの学校から受けた人達が、最終的にどんな通知もらってたかくらい調べてたんだよ?』
『だから、総合職が厳しいのも、なんとなくわかってた』
『でもさ……
もしかしたら、私なら行けるかもって、期待しちゃってたんだよね』
『しかも先生の言い方も、
“総合職ではダメだったけど、一般職なら内定出すって言ってるから、それで返事しとけ”みたいな感じでさ』
『なんか……
勝手に決められてる感じして、ちょっとイラッとしちゃった』
記憶の中の兄とわたしは、
『あー、それはイラッとするな』
と、珍しく同じタイミングで声が重なった。
その瞬間また、
わたしのお尻から、ガスが出る音がした。
またか、
……と思った次の瞬間。
今度は、明らかに“しっかりしたもの”まで出た音がした。
『…………』
わたしも兄も、無言になる。
兄は少し悩んだ後、
『えーっと……
腸がちゃんと動いてるのは、いい事だよ』
とフォローした。
それを聞いたわたしは、
『やっぱり、黙ってて!!
今日はもう帰って!』
そう叫んだのだった。
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