45.兄が見ている世界 —合格発表②—
『それじゃあ、話を戻すよ』
兄がそう言った、その時だった。
わたしは、ふと
『ありさの私服、可愛かったな〜』
と呟いた。
すると兄の記憶は、さっきのデートの場面へ戻った。
待ち合わせの時間。
ありさが、少し小走りでいつものバス停へやって来る。
白のバルーンベアトップスに、ゆったりめのジーンズ。足元は、ヒールの低いサンダルだった。
ありさが、
『ごめん、少し遅れちゃった』
と言うと、
兄は、
『全然待ってないよ。バスの時間もまだ余裕あるから、気にしないで』と笑って答えた。
ありさは、
『良かった〜』
と言いながら、一瞬兄の前で姿勢を正すように立ち、その後、兄の隣へ座る。
おいおい、マイブラザー。
これは褒めるタイミングですぜ!
と、わたしが内心思っていると、
兄は、にこりと笑い、
『ありちゃん、かわいいね。すごく似合ってる。
いつもの制服姿とは違って、大人っぽさの中に、ありちゃんらしい元気な感じもあって、とってもいいと思う』
と言った。
ありさの顔が、一気に赤くなる。
さらに兄は、
『そのサンダルもかわいいね。
でも、走ったら足痛めそうだから、今日はゆっくり歩こう。もし足に違和感あったら、我慢しないですぐ教えてね』
と続けた。
ありさは、『うん』と嬉しそうに返事をする。
そして、
『今日はねー、朝ご飯食べてたら、お父さんがねー』
と、いつものように楽しそうに話し始めた。
うん。
いつものありさだ。
『もういいぜ、マイブラザー。満足だ』
と、わたしが言うと、
兄は、
『はぁ……』
と小さくため息をついた。
『あいちゃんも、おしゃれしたい年頃だからね。
退院したら、制約はあるかもしれないけど、この期間できなかった分まで、いっぱいおしゃれしないとね』
『うん』
わたしは、小さく返事をした。
少し間を置いてから、兄が言う。
『じゃあ、今度こそ戻すね』
『うん』
そして記憶は、再び学校へ戻った。
帰りのHR。
担任の先生が、生徒の名前を呼んでいく。
その中に、兄の名前もあった。
『さっき呼ばれた者は、受験した会社から内定通知が来ている。
入社式当日の集合時間や場所の案内も届いているから、HR後に取りに来るように。
それと、荒木。
お前はそのまま残っておきなさい』
内定をもらった生徒達は、ほっとした表情を浮かべている。
だが、ありさの顔色だけは真っ青だった。
HR後。
内定をもらった生徒達へ、それぞれ会社から届いた内定通知書や、入社式の案内が配られていく。
兄も呼ばれ、書類を受け取った。
だが担任は、
『これと、あとこれもだ』
と言って、数冊の本まで兄へ渡した。
『しっかり目を通しておくように』
兄は、『これは?』と聞く。
すると担任は、
『〇〇株式会社からだ。
詳しくは知らんが、入社までに読んでおけって事なんじゃないか?』
と答えた。
『用事が済んだやつは退室しろ!』
担任がそう言うと、教室には、ありさと担任だけが残されていた。
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