39.兄が見ている世界 —入社試験⑤—
面接官が、次の質問をする。
『それでは、自己PRをお願いします』
兄は、
『はい』
と返事をして、自分の強みについて話し始めた。
部活動で部長として、部員たちをまとめてきたこと。
その中で、それぞれが取得したい資格を確認し、練習問題を見ながら苦手分野を把握して、克服できるようサポートしていたこと。
また、その指導を行うために、自分自身も資格取得へ取り組み、結果として自身の知識や技能向上にも繋がったことを伝えていた。
……いや、資格多すぎない?
文字を見てるだけで目が痛いんだけど。
こんなの、読む前に目が拒否するわ。
わたしが半分呆れながら聞いていると、
『ねぇ、これって結局、何を聞かれてるの?』
と兄へ尋ねた。
兄は少し考えてから、
『告白された側に、“あなたのこと、まだよくわからないから、良いところ教えて”って言われてる感じ』
と答えた。
『自分はどんな事を頑張ってきて、その結果どう成長したのかを説明してるんだよ』
『なるほどねー』
わたしは適当に頷く。
続いて面接官が質問する。
『あなたは、この会社に入社できた場合、どのような形で貢献できると考えていますか?』
『はい』
兄は、自分が持っている資格と、それが会社でどのように役立つかを説明し始めた。
例えば工場では、熱、ガス、電気など、大量のエネルギーを安定して供給し続ける必要がある。
そのためには、ボイラー、高圧ガス、電気工事などの知識や技術が必要になる。
また、工場内の機械は非常に高価であり、不具合が起きた際には迅速な対応が求められる。
その際、機械保全や電子回路の知識があれば、故障箇所の特定や修理対応にも役立てることができる。
つまり兄は、
『自分は、資格や知識を使って、工場を安定して動かす役に立てます』
という事を伝えていた。
……うん。
やっぱり難しい。
わたしには、さっぱりわからない。
『つまり、これって何を聞かれてるの?』
わたしが再び聞くと、兄は即答した。
『“あなたが私を好きなのはわかった。じゃあ、付き合った後、私をどう幸せにしてくれるの?”って聞かれてる感じ』
『あー、なるほど!』
それならわかる。
面接官が、最後の質問をする。
『では、何か質問したいことはありますか?』
兄は、
『はい』
と返事をして質問を伝えた。
その様子を見ながら、わたしは兄へ聞く。
『ねぇ、ここって別に質問無いなら、しなくてもいいんじゃないの?』
兄は苦笑しながら、
『これも例えた方がいいの?』
と聞いてくる。
『うん』
わたしが頷くと、兄はため息交じりに説明した。
『初めて話す相手に、“趣味は?”とか、“休みの日は何してるの?”って聞いたりするでしょ』
『相手がどんな事を好きで、どんな事を大事にしてるのか知らないと、後で困るから』
『あー……まり姉と何かあった?』
わたしが探ると、一瞬だけ、まり姉に怒られている兄の記憶が見えた。
……あー、これは結構怒られてますね。
『“別にお前に興味ないけど、とりあえずホテル行くぞ”って感じよりは、ちゃんと相手を知ろうとしてる方が印象いいでしょ?』
『まあ、それはそうだね』
わたしは素直に頷いた。
そして―
『以上で、面接を終了します』
面接官がそう告げた。
兄は立ち上がり、
『本日は、お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました』
と深く礼をする。
扉の前で一度立ち止まり、
『失礼します』
もう一度お辞儀をして、静かにドアを閉めた。
『時間は10分ちょっとなのに、すごく長く感じた〜』
わたしが言うと、兄は即座に、
『あいちゃんが途中で色々聞いてくるからでしょ』
と言い返してきた。
『ありがとね』
わたしは笑いながら言う。
『将来使うかはわからないけど、忘れるまでは覚えといてあげる』
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