38.兄が見ている世界 —入社試験④—
昼食を食べ終えると、次はいよいよ面接だった。
女性社員が、受験者たちへ声を掛けて回る。
『食べ終わったお弁当箱は、こちらへお願いします』
俺は、その女性社員へ笑顔で声を掛けた。
『とても美味しかったです。お忙しい中、準備していただき、ありがとうございました』
軽く頭を下げると、女性社員は笑った。
『どういたしまして。お弁当を発注するだけでも、意外と大変なのよ?』
そう言って、見積もり確認や予算管理、上司への申請など、準備の流れを話し始める。
『――って、私ばっかり話しちゃったわね』
女性社員は苦笑した後、
『で、試験はどうだった?』
と尋ねてきた。
……うわ、どう答えよう。
下手に自信満々でも印象が悪いかもしれない。
かといって、弱気すぎても駄目だ。
どうする。
……わからない。
なら、正直に返すしかない。
『やっぱり緊張しますね。これから面接もありますし……〇〇さんが受けた時は、どうだったんですか?』
女性社員の名札を見ながらそう尋ねると、相手は自然に話を続けてくれた。
助かった。
その会話の中で、面接官の情報も少しだけ見えてくる。
人事部長。
そして、配属予定部署の部長が二人。
つまり、実際に“欲しい人材かどうか”を判断する人たちだ。
……なら、やることは変わらない。
この会社の強みを理解した上で、自分をしっかり売り込む。ただそれだけだ。
俺は周囲を見渡した。
品質意識に関するポスター。
企業理念。
調べた時に見たスローガン。
……よし。
『次、大坂さん』
先ほどの女性社員に名前を呼ばれた。
『はい』
返事をして顔を向けると、彼女が口パクで『がんばれ』と言っているのが見えた。
俺は少し笑って、軽く頭を下げる。
本心はわからない。
けれど、周囲が全員“競争相手”に見える場所で、一人でも応援してくれているように感じる相手がいるだけで、驚くほど気持ちは楽になる。
扉をノックする。
『どうぞ』
返事を確認し、
『失礼します』
そう言って入室した。
面接官へ背を向けすぎないよう注意しながら扉を閉め、椅子の横へ立つ。
『〇〇工業高校、大坂篤志です。本日は面接の機会をいただき、ありがとうございます』
着席を促されるまで待機。
『どうぞ、座ってください』
『ありがとうございます。失礼します』
一礼し、着席する。
『まず、志望動機を教えてください』
『はい』
俺は、この会社の強みについて話した。
業界内での立ち位置。
そこへ至るまでに積み重ねてきた努力。
品質への姿勢。
技術への信頼。
そして、自分もその一員として働きたいことを伝える。
面接官たちは、静かに頷いていた。
――その時だった。
『ねーねー、あっくん』
不意に、完全に存在を忘れていたあいちゃんの声がした。
『難しいから、もっと噛み砕いて教えてよ』
……今かよ。
俺は心の中でため息をつく。
『つまりね』
俺は頭の中で言葉を整理した。
『俺、この会社が好きなんだよ』
『表向きの雰囲気もそうだし、そこで頑張ってる人たちも好き。だから、自分もその中に入りたいって話』
『もっと優しく! わたしにもわかるように!』
あいちゃんが、さらに要求してくる。
……あーもう。
『好きな人に告白してる感じ』
『この人が好きです。こういう所が好きです。一緒にいたいです。だから付き合ってください――って言ってるのと、だいたい同じ』
『へぇー』
あいちゃんは妙に納得したように頷いた。
『つまり、会社にプロポーズしてるんだね』
『……まあ、そんな感じ』
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