229. わたしのお付きの人探し⑧
兄が、
『さっきの会話でのコツは何だと思う?』
とわたしに尋ねる。
わたしは、
『普通に話してただけじゃん。』
と答える。
すると兄は、あからさまに眉間へしわを寄せ、わたしを睨んだ後、大きくため息をついた。
そして、残念な子を見るような目でわたしを見ながら、
『普通に会話してただけなら、俺から何か情報を聞き出せた?』
と問い返す。
わたしは首を傾げ、
『そう言えば、わたしの話しかしてないね……。でも、話しやすかったよ。』
と言う。
兄は満足そうに頷き、
『これが「聴き方」。
俺は亜衣ちゃんの話を途中で遮ったり、「こうするべき」って自分の意見を言ったりしてないでしょ。』
と説明した。
わたしは、
『あっくんって、何を話してたっけ?』
と尋ねる。
兄は、
『亜衣ちゃんの気持ちを確認しただけ。
肯定も否定もしてない。
相手の話を聞くのに、自分の話は不要ってことが分かったかな?』
と尋ねた。
わたしは、
『なんとなく?』
と首を傾げる。
兄は立ち上がり、
『それなら大丈夫だね。
俺はまりちゃんの声を聞きたいから、自分の部屋へ戻るよ。』
と言う。
わたしは目を丸くし、
『待ってよ! わたし、まだ……。』
と言い切る前に、
兄が目を細め、
『自称頭がいい亜衣ちゃんなら大丈夫でしょ。
勉強が好きなだけの頭なの?』
と挑発する。
わたしはカッとなり、
『大丈夫に決まってるじゃん!
あっくんにできて、わたしにできないことなんてないし!』
と、あっさり挑発に乗ってしまった。
兄は安心したように笑い、
『それなら安心して戻るよ。』
と言って部屋を出て行った。
普通にわたしの言葉、遮ってるじゃん……。
逆手に取れば、相手を挑発することもできるのか。
……いや、実際にわたしは簡単に挑発に乗せられたし。
そんなことを考えながら、わたしは深いため息をついた。
⸻
わたしは夕方まで勉強した後、母屋へ向かった。
『じいちゃん、夕方のお務め一緒にしよ!』
と声を掛けるが、祖父は留守にしているようだった。
母屋では銀さんと絹さんが、わたしを待っていた。
銀さんが一歩前へ出て、
『夕方のお務めを亜衣様とご一緒するよう申しつかっております。
よろしくお願いいたします。』
と言い、二人そろって頭を下げる。
わたしは、
(この状況、絶対あっくんが一枚噛んでるよね。)
と思いながらも、
『銀さん、絹さん、よろしくお願いします。』
と笑顔で頭を下げた。
そして、
『先に仏壇へ手を合わせたいと思いますので、少しお待ちください。』
と伝え、一人で仏間へ向かい、夕方のお務めを済ませる。
その後、玄関へ戻り、
『銀さん、絹さん、お待たせしました。
よろしくお願いします。』
と頭を下げ、三人でお墓へ向かった。
⸻
しばらく無言の時間が続く。
さて、何て言って会話を始めようか……。
いや〜、全くのノープランだぜ!
この場を作ってくれたってことは、何か話せってことなんだよね……?
たぶん……。
結局、何も思い付かないまま、お墓へ到着した。
わたしがお経を読んでいる間も、二人のうちどちらかは必ずわたしへ視線を向けている。
まあ、二人とも同時に護衛対象から目を離すわけないよね……。
そう思いながら手を合わせた。
⸻
片付けを終えた帰り道、わたしはようやく口を開く。
『銀さん、絹さん。
あっくんって、小さい頃はどんな子どもだったんですか?』
絹さんは少し昔を思い出すような表情になり、
『大変利発なお子様だったと記憶しております。』
と答えた。
わたしは首を傾げ、
『例えば、どんな場面でそう思われたんですか?』
と尋ねる。
絹さんは穏やかに微笑み、
『ご友人であられる、まり様と遊ばれていた際、定められたルールの穴を見つけ、勝つための戦略をご自身で考え、実践されておりました。
そのお姿を拝見した時は、大変感心いたしました。』
と答えた。
わたしは笑顔になり、
『あっくんは、小さい頃から変わらないんですね。』
と言う。
しかし、絹さんは少し表情を曇らせ、
『いいえ、変わられました。
篤志様のお父様とお母様がお亡くなりになり、亜衣様がこの家へ来られてからは……。
我々分家の者全員が分かるほどに。』
と静かに答えた。
わたしは咄嗟に思う。
話題を変えたい!
何か、別の話題はないの!?
わたしは必死に頭を働かせた。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




