228. わたしのお付きの人探し⑦
わたしは頬を膨らませ、
『今のわたしじゃ家の外を出歩けないから、お付きの人探しは急務なんだよ!』
と言って兄を睨む。
兄もわたしを見返し、
『それなら、今日の朝みたいに銀さんと絹さんに付いて来てもらいながら、信頼関係を築けばいいでしょ。』
と返した。
『そうだけどさ……。』
とわたしが言い返せずにいると、
兄は、
『亜衣ちゃんの部屋に行くよ。』
と言って立ち上がる。
わたしも慌てて立ち上がり、
『あ! ちょっと! わたしの部屋なんだから勝手に入らないでよ!』
と言いながら兄を追い掛けた。
⸻
わたしと兄は部屋へ入ると、それぞれ適当な場所へ座る。
すると兄が、
『母屋と離れ、どっちに仕えている分家の方が立場が上か分かる?』
と尋ねた。
わたしは、
『母屋かな?』
と答える。
兄は頷き、
『じゃあ、何で亜衣ちゃんは下の立場の人に、上の立場の人の評価を聞こうとしたの?』
と続けた。
わたしは、
『あーー、そうだね……。』
と納得する。
兄はそのまま、
『匿名性の高い環境で聞き出せるならともかく、あの状況じゃ、答える側もリスクでしかないでしょ。』
と言う。
わたしは、
『じゃあ、これからどうすればいいの?』
と尋ねた。
兄は何気ない表情で、
『その都度、じいちゃんに銀さんと絹さんをお付きの人としてお願いしてもらう。
その後、雑談でもしながら心を開いてもらえるよう努力する。
それから正式に二人をお付きの人へ任命してもらう。
これが一番簡単だと思うよ。』
と答えた。
⸻
『雑談って、何を話せばいいの?』
と、わたしは困った表情になる。
兄は呆れたように、
『簡単でしょ。
まずは挨拶。
何かしてもらったら感謝を伝える。
真面目な姿勢を見せる。
共通の出来事や知り合いの話題があれば、当たり障りのない会話をする。』
と説明した。
わたしは頷き、
『やってみるよ!』
と力強く答える。
すると兄はため息をつき、
『亜衣ちゃんには無理かもしれない。』
と言った。
⸻
わたしは兄を睨み、
『はあーー!? 何で!? 今やる気になったのに!!』
と抗議する。
兄は真剣な表情になり、
『じゃあ、二つ約束して。』
と言う。
わたしが頷くと、
『一つ目。
絶対に弱音や愚痴みたいなマイナスのことは言わないこと。
何をするときも真面目で丁寧に。
困っている人がいたら見て見ぬふりをしないこと。
二つ目。
会話をするときは、自分三割、相手七割を意識すること。』
と言った。
……が、すぐに首を横へ振り、
『ごめん。亜衣ちゃんだった。
自分一割、相手九割だ。』
と訂正した。
⸻
わたしは頬を膨らませ、
『つまり、わたしは基本しゃべるなってこと?』
と聞く。
兄は真面目な表情で頷き、
『そう。
どんなところで墓穴を掘るか分からない以上、それしかない。
亜衣ちゃんは、相手が言ったことを繰り返すだけで十分。
自分のことは一割も話さないこと。』
と言う。
わたしは頭を抱え、
『あっくん、そのやり方でわたしと話してみてよ。』
とお願いした。
兄は頷き、
『亜衣ちゃんは、いつも何時間くらい勉強してるの?』
と笑顔で少し前かがみになって尋ねる。
⸻
わたしは、
『最低でも四時間から五時間くらいかな。』
と首を傾げる。
兄は笑顔のまま感心したように、
『亜衣ちゃんは毎日机に向かって頑張ってるんだね。
本当に偉いと思うよ。』
と褒めてくれた。
わたしは肩を落とし、
『うーん……。
でも同級生のみんながどのくらい勉強してるか分からないし、範囲が広すぎて全然終わらないんだよね……。』
と答える。
兄も少し困った表情になり、
『そっか。範囲が広くて焦っちゃうんだね。毎日そんなに頑張ってるのに終わらないと、嫌になるよね。』
と優しく頷く。
⸻
わたしは、
『そうなんだよ!
特に数学が難しくて、何回解いても間違うし、嫌になっちゃうんだよ!!』
と少し拗ねる。
兄は再び笑顔になり、
『数学が特に大変なんだね。何回解いても間違えると、嫌になっちゃうよね。
それでも諦めずに勉強してるのは、本当にすごいことだと思うよ。』
と微笑んだ。
わたしは少し横を向きながら兄をちらりと見て、
『まぁ、中途半端にしたら余計に分からなくなっちゃうだけだし……。』
とつぶやく。
兄は満面の笑みで、
『投げ出さずに続けようと思って、それを実行できるのは本当にすごいことだよ。
いつも亜衣ちゃんのそういう努力家なところ、尊敬してる。』
と言った。
そして、いつもの表情へ戻ると、
『満足した?』
と、声のトーンまで普段通りに戻った。
わたしは、
さっきまで話していた相手と、本当に同一人物なの?
と思い、軽い人間不信になってしまった。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




