223. わたしのお付きの人探し②
次の日の朝。
お母さんに起こされるよりも早く目を覚ましたわたしは、着替えを済ませて部屋を出ると、洗面所へ向かい、顔を洗って歯を磨いた。
離れの玄関へ向かう途中、分家の女性たち数人とすれ違い、挨拶をする。
『おはようございます、秋さん。』
そう言って頭を下げると、秋さんは少し驚いたような表情を浮かべながらも、
『おはようございます。』
と笑顔で返してくれた。
春さんともすれ違い、
『春さん、おはようございます!昨日はありがとうございました。わたし一人では運べなかったので、本当に助かりました。』
と頭を下げる。
春さんは少し照れくさそうに笑っていた。
玄関を出ると、庭の手入れをしてくださっている方々にも挨拶をし、そのまま母屋へ向かった。
『じいちゃん、おはよう!』
そう声をかけると、じいちゃんもちょうど着替えを終え、わたしを呼びに来ようとしていたところだったようだ。
分家の方々にも挨拶を済ませたあと、仏間へ入り、一緒にお経を読み、手を合わせる。
その後、じいちゃんが、
『亜衣、先にお墓へ行っていてくれないか。』
と言った。
わたしは全力で首を横に振る。
またカラスに襲われたり、あの黒い服の女の人に足をつかまれたりするのは、もうごめんだ。
お付きの人が決まるまでは、家の敷地の外を一人で歩く勇気はない。
じいちゃんは困ったように笑い、
『銀さん、絹さん。しばらく亜衣についてやってくれないか。』
と頼む。
二人は、
『はい、かしこまりました。』
と返事をし、わたしの護衛についてくれた。
銀さんと絹さんに守ってもらえるなんて、兄と一緒にいるときのような安心感があった。
わたしは、
『わかったよ!先に行って準備してるね。』
と返事をし、銀さんと絹さんと一緒に墓地へ向かった。
家の敷地を出ると、案の定、黒い服の女の人が少し離れた場所から恨めしそうにこちらを見つめている。
……怖い。
だけど、銀さんと絹さんが警戒してくれているおかげか、近づいてくる気配はない。
それでも一定の距離を保ったまま、ずっと後ろについてきている。
いや、本当に何なの……。
お墓が見えてきたところで、原付に乗ったじいちゃんがわたしたちを追い越していった。
『じいちゃん、ずるいって!』
思わず叫ぶ。
じいちゃんは笑いながら墓地の近くへ原付を止め、
『ぎりぎり亜衣より先に着いたな。』
と得意そうだ。
……大人げないなあ。
そう思ったけれど、口には出さなかった。
じいちゃんが到着すると、黒い服の女の人はいつの間にか姿を消していた。
じいちゃんには近づきたくないってことね。
当主を相手にする勇気はないってことか。
わたしだって次期当主なんだけど!
そう思ったところで、ふと兄のことを思い出す。
そういえば、あの女の人は兄にも近づかなかった。
もともとはタクシーで偶然乗り合わせただけで、本来なら何の関わりもない人なのに……。
そう考えると、不思議な気持ちになり、わたしは小さくため息をついた。
じいちゃんは、すでにバケツへ水を汲み終えていた。
わたしは本家のお墓を丁寧に拭き、その後、分家のお墓も一つひとつ心を込めて掃除していく。
掃除を終え、じいちゃんの隣でお経を読もうとすると、じいちゃんがお経の書かれた紙を差し出した。
『今日帰ったら母屋へ来なさい。写経をする。わしの前で読めるようにもな。』
と言われる。
いやいや、こんなの読めるわけないでしょ!
そう思って紙を見ると、ちゃんとふりがなが振ってあった。
じいちゃん、ありがとう。
そう思った次の瞬間、
『篤志が五歳のときに書いたやつだ。』
と、じいちゃんが笑いながら言う。
いやいや、五歳で写経って何!?
わたしなんて十七歳になって初めてやるんだけど!?
心の中で盛大にツッコミを入れる。
兄が昔書いた写経のおかげで、お経も滞りなく終えることができた。
朝のお務めを終えると、じいちゃんは原付で先に帰宅する。
わたしはヘトヘトになりながら、そのあとを歩いて帰った。
……もちろん、黒い服の女の人は、相変わらず一定の距離を保ったままついてきていた。
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