222. わたしのお付きの人探し①
兄の記憶を見せてもらったわたしは、自分の体へ意識を戻した。
意識が戻って最初に感じたのは、股のあたりの生温かく、それでいて少し冷たいような違和感だった。
これは……漏らした。
わたしは兄へ、
『あっくん、記憶を見せてくれてありがとう。わたし、このまま寝るから部屋を出ていってくれるかな? それと、お母さんを呼んできてほしいな。』
と早口でお願いした。
兄は一瞬、不思議そうな顔をしたが、立ち上がると布団をめくる。
わたしと兄は同時に、
『あ……。』
と声を漏らし、そのまま固まってしまった。
兄は慌てて布団を元に戻し、
『わかった。呼んでくるよ。』
と早口で言うと、返事を待つことなく部屋を出ていった。
しばらくして、お母さんが部屋へ入ってくる。
『あらあら、亜衣ちゃん。入院中はオムツ生活が長かったものね。しばらく寝るときだけでもオムツにしてみようか。』
そう言いながら布団のシーツを外し、濡れた場所をタオルで拭き始めた。
わたしは恥ずかしさで頭の中が真っ白になる。
『お母さん、ごめんなさい……。オムツは、いりません。』
と、小さな声で答えた。
お母さんは軽くため息をつき、
『わかったわ。パジャマのズボンとパンツが濡れてるから脱いで、お風呂で下半身だけ洗ってきなさい。洗面所に着替えは置いてあるから。』
と言って、タオルを渡してくれた。
わたしは言われるまま服とパンツを脱ぎ、タオルを巻いてお風呂へ向かった。
その途中、分家の子どもたちが、
『亜衣様、何かあったんですか?』
と無邪気な笑顔で声をかけてくる。
わたしは笑顔を作り、
『あはは……。ちょっとぼーっとしてたら失敗しちゃってね。お風呂で洗ってくるところなの。』
と答えた。
すると、近くにいた分家の若い女性が、
『今の亜衣様のお部屋には私たちは入れませんので、お片付けをお手伝いできず申し訳ありません。』
と頭を下げ、子どもたちの手を優しく握った。
わたしは、
『気にしないでください。わたしがぼーっとしていたのが悪いので……。』
と頭を下げ、そのままお風呂へ向かった。
体を洗い、着替えを済ませて部屋へ戻る。
そういえば、今まで分家の人たちは軽く会釈する程度だったのに、最近はこうして話しかけてくれるようになった。
兄のおかげで、わたしに対する悪い印象が少しは良くなったのかな。
そんなことを考えながら、
明日は少し早起きして、分家の人たち一人ひとりと話をしてみよう。
と心に決めた。
部屋へ戻ると、お母さんは濡れた布団に消臭スプレーをかけ、再び丁寧に拭き取ってからドライヤーで乾かしていた。
『亜衣ちゃん、おかえり。客間の押し入れにある布団を持ってきてほしいんだけど、今の亜衣ちゃんじゃ重いと思うから、篤志さんに声をかけて手伝ってもらって。』
と言われ、
『はい。』
と返事はしたものの、
あー、言えないよ……。恥ずかしすぎる。
そう思いながら部屋の引き戸を開けると、そこにはすでに新しい布団が用意されていた。
どうやら、先ほどの分家の女性が運んできてくれたようだ。
わたしは、
『ありがとうございます、春さん。』
と声をかける。
春さんは驚いたように、
『えっ……私の名前をご存じなのですか?』
と目を丸くした。
わたしは笑顔で、
『もちろんです。本当に助かりました。ありがとうございます。』
と頭を下げる。
兄の記憶を見せてもらったおかげで、少しでも分家の人達の名前を覚えられていて本当に良かった。
心の中で、小さくガッツポーズをした。
お母さんは、
『あら、お布団を運んでくださったの? 少しずつでも信頼を取り戻せているなら良かったわ。』
と微笑みながら、汚れた布団や衣類、タオルをまとめる。
そして春さんが運んでくれた布団を敷き終えると、それらを持って部屋を出て行った。
わたしは新しい布団に潜り込み、そのまま静かに眠りについた。
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