221. 兄が見ている世界 —大晦日とお正月⑯—
わたしは、再び兄の記憶を見る。
兄が寝落ちしてしばらく経った頃、スマホの着信音が鳴った。
兄は眠そうに目を覚まえ、画面を確認して電話に出る。
すると、
ありさが、
『あっくーーん! お正月早々、私にまりちゃんを押し付けて逃げたなーー!!』
と、勢いよく兄を責め立てた。
兄は少し笑いながら、
『ありちゃんと一緒なら安心だからね。元気そうな声で安心したよ。
電話できたってことは、まりちゃんも落ち着いたのかな?』
と尋ねる。
ありさは軽くため息をついてから、
『私もまりちゃんも元気だよ!
やっと落ち着いたから、こうして電話できたってわけ。』
と答える。
そして少し声の調子を落とし、
『本当に大変だったんだからね。
子どもの頃みたいに、また着せ替え人形にされたんだから。』
と愚痴をこぼした。
兄は笑いながら、
『でも、ありちゃんも楽しそうだったじゃん。
小さい頃、お兄ちゃんしかいないから「お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな」って言ってたでしょ?』
と言う。
ありさも笑い返し、
『小学校低学年の頃の話だよ。
十八歳になった今でも同じ扱いなんだからね。
着替えさせられたり、「オムツの時間ですか?」なんて言われたり……。
思ってたより対象年齢が低かったのかもしれないよ。』
とやれやれと言う声になった。
さらに、
『まりちゃんの服を着せてもらったら、胸がきつくて入らなくてさ。
まりちゃんが不機嫌になって、軽くだけどパチンって胸を叩かれて「これじゃ入らないね」って言いながらサラシを巻き始めた時は、本当にびっくりしたよ。』
と苦笑した。
続けて、
『そうそう。
まりちゃんのお父さんは、「一体何があったんだ?」ってオロオロしてたんだけど、お母さんに、
「昔からあったでしょ。この子、食べ過ぎるとこうなるの! オロオロしない!」
って注意されてたよ。』
と言う頃には、ありさの機嫌もすっかり戻っていた。
兄は笑いながら、
『この時間までまりちゃんに付き合ってたなら、今日はまりちゃんの家に泊まるのかな?』
と尋ねる。
ありさは、
『そうなったよ!
家に電話したら、お母さんから「迷惑をかけないようにねー」だって。』
と言ってから、
『お正月は、お兄ちゃんたちが奥さんや子どもを連れて帰ってくるから、お父さんもお母さんもそっちで手いっぱいなんだよね。
私も手伝わされる予定だったから、結果的には泊まることになって良かったのかもしれないけど。』
と再びため息をついた。
そして、
『あっ、話は変わるけど、一月の後半には高校生活最後の定期テストがあるから、また学校に行かなきゃいけないんだよね。
まりちゃんに言われるまで、すっかり忘れてたよ。
あっくんはどうするの?』
と尋ねる。
兄は少し考えてから、
『最後の定期テストの時は学校へ行くよ。
でも、テスト範囲は高校在学中に習った内容だけだし、新しく授業をするわけじゃなくて、自習中心だったよね。
だから、それまでは特に学校へ行く予定はないかな。』
と答えた。
ありさは頷きながら、
『まりちゃんも、大学へ行く前に勉強できることはやっておきたいって言ってたよ。
免許を取った後は、卒業式まで学校へ行くみたい。』
と言う。
そして少し遠慮がちに、
『あっくんは……私とまりちゃんが学校へ行くなら、一緒に行く?』
と尋ねた。
兄は軽くため息をつき、
『まりちゃんが免許を取って、定期テストの時期になったら一緒に行くよ。
朝から三人で学校へ行くなんて、本当に久しぶりだから楽しみにしてる。』
と答える。
ありさは嬉しそうに、
『うん! 私も楽しみにしてる!
高校二年生や三年生になってからは、補習で登校時間が早くなったりして、思ったより一緒にいられる時間が少なかったから、本当に嬉しいよ!』
と声を弾ませた。
その明るい声だけで、電話の向こうで満面の笑みを浮かべているありさの姿が目に浮かぶようだった。
その後、
『遅い時間にごめんね。
おやすみなさい。』
とありさが言うと、
兄も優しく、
『ありちゃん、おやすみ。』
と返す。
そして通話が切れると、兄はスマホを枕元へ置き、再び静かに眠りについた。
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