216. 兄が見ている世界 —大晦日とお正月⑪—
ありさは、まずまり姉のおみくじを読み始める。
『なになに……。
恋愛──心に決めた人が最上の人。迷うことなかれ。素直な気持ちを言葉にすることで、二人の距離は一気に縮まります。
学業──努力しただけ力になり、自信が湧く。隠れていた才能がようやく開花する予感。苦手を克服する絶好のチャンス。信じてペンを走らせよ。』
読み終えたありさは、大きくため息をつく。
『いいなー。あっくんが最上の人ってかー。
まりちゃん、私の恋愛運、何だと思う?』
まり姉が首を傾げると、
ありさは苦笑いしながら、
『“今は動けば動くほど泥沼にハマる。高望みは怪我の元。執着を捨てよ。相手を追うのをやめ、まずは己の生活を整えるべし。連絡は控えるが吉。”
だからね!』
と頭を抱え、おみくじをまり姉へ返した。
続いて兄のおみくじを開いたありさは、目を丸くする。
『あっくん! 私、こんなおみくじ見たことないんだけど!?』
まり姉も興味津々で、
『なになに? ありちゃん、読んで!』
と身を乗り出した。
わたしは、
(さっき兄が見た時に一緒に見たから、もういいよー。……ムカつくよなー。)
と少しふてくされる。
ありさは、おみくじを読み上げる。
『いくよ!
金運──財運の波が怒涛のごとく押し寄せる。宝くじや投資のみならず、日頃の仕事や学業の成果が大きな報酬へと変わる。ただし、得た富の一部を他人に施せば、その福は一生途切れることなし。
だってさー!
それだけじゃないよ。
仕事──確固たる地位を築く好機。重要な任務や大役を任されたら迷わず引き受けるべし。あなたの決断が組織を救い、大きな賞賛を浴びることとなります。昇進・栄転の兆しあり。』
読み終えると、おみくじを兄へ返し、遠い目をして長いため息をつく。
『まりちゃん、あっくん。
あんた達、一体何者なの?
本当に今この場にいていい人間?
ていうか、存在していい人間なの?』
そうぼやいた後、兄へ視線を向ける。
『そもそも、あっくん入社一年目で何するの?
しかも”施し”って……。
今回だってホテル代もガソリン代も、コンビニのお金まで全部あっくんが出してくれたもんね。』
まり姉は、ありさを励ますように、
『たまたまだよ!』
と笑う。
しかし、ありさはまだ浮かない表情のまま、
『私、今まで生きてきて大吉は何回も引いたことあるけど、こんな内容見たことないもん。
同じ大吉でも全然違うし。
お父さんも、お母さんも、お兄ちゃん達も……。』
と肩を落とし、
『小吉って書いてあるけど、中身だけ凶に入れ替わってない!?恋愛もダメ、お金もダメ、仕事も我慢って……どこが小吉なの……。』
とぶつぶつと言っている。
わたしは、
(こんな顔、お正月の神社でしちゃダメだろ。)
と心の中でツッコむ。
まり姉と兄は、お互いに顔を見合わせて頷く。
次の瞬間、
兄はありさの前へ、まり姉は後ろへ回り込み、二人で一斉にくすぐり始めた。
暗い表情だったありさは、たちまち大笑いし、
『ごめんなさい! もうこんなこと言わないから、やめてーーー!!』
と叫ぶ。
二人は顔を見合わせて笑うと、兄が明るい声で、
『出店で何か買いに行こう。』
と提案した。
まり姉とありさも、
『うん!』
と元気よく返事をし、三人は並んで出店の方へ歩き出した。
ありさが、ボソッと『施し?』と兄を見て言うと、まり姉が人差し指で、ありさの横っ腹をツン!と突く。
ありさは、体をビクンとさせ、
『ひゃ!』
と叫び、
『ごめんなさい。』
と素直に謝った。
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