213. 兄が見ている世界 —大晦日とお正月⑧—
食事スペースに到着すると、
ありさが、
『おー、晩ご飯もすごかったけど、朝ご飯もいろいろあるねー。お正月だから、お雑煮もあるよ!』
とワクワクした声を上げる。
『さあ、まりちゃん、行くよ!』
そう言って、まり姉の手を引きながら料理を取りに向かった。
兄は、お雑煮を取った後、数種類のスープを少しずつよそって席に着く。
まり姉は知っていたが、ありさも朝からしっかり食べられるタイプのようだ。
オムレツ、フレンチトースト、生ハム、ボイルウインナー、ハッシュドポテト、サラダ、フルーツ。
大きなお皿いっぱいに料理を盛り付けて戻ってきた。
まり姉も、モグモグと幸せそうに食べている。
自分のお皿が空になると、ありさのお皿からも少しずつ料理をもらい始めた。
ありさは苦笑いしながら、
『まりちゃん、今日はあんまり食べちゃダメ! 私の被害が想像以上に多いんだから。』
と切実な口調で訴える。
兄は、
『せっかくたくさん食べられるんだから、遠慮せず食べてよ。』
そう言って、オムレツとフレンチトーストをそれぞれ五つずつ、まり姉の前へ並べた。
まり姉は、
『あっくん、ありがとー。』
と嬉しそうに食べ始める。
ありさは、
『あっくーん!』
と兄をじっと見る。
兄は苦笑いを浮かべながら、
『今日はあと帰るだけだし、お昼も寄れないかもしれないから、食べられる時に食べておいてほしいんだよ。』
と答える。
ありさは、
『お昼抜きになるかもしれないなら仕方ないけどさー。』
と少し不満そうだ。
兄は、
『ありちゃんもたくさん食べてよ。足りなかったら取りに行ってくるよ。』
と声を掛ける。
ありさは首を横に振り、
『私は自分で取りに行けるから、まりちゃんに専念してあげてよ。もうすぐ食べ終わるよ!』
と笑う。
兄は驚いた表情になり、慌てて追加の料理や飲み物を取りに行き、まり姉の前へ運んだ。
まり姉の食欲は衰えることなく、次々と料理を平らげていく。
兄はスマホを向けて動画を撮り始めると、再び料理を取りに向かった。
今度は少量ずつ何種類も持ってくるのではなく、一品を多めに盛って持ってくる作戦へ切り替えたようだ。
ありさは、
『まりちゃん、すごすぎだよ~。こんなに食べて、何で太らないんだよ~。』
と感心したように見つめる。
続けて、
『食べた直後はお腹パンパンでカチカチなのに、一回トイレへ行くと、いつものまりちゃんに戻ってるんだもん。不思議でしょうがないよ。』
『トイレでどんだけ出してて、よくトイレが詰まらないものだと感心するよ。』
としみじみ呟いた後、『きゃ!』と小さく悲鳴を上げる。
まり姉は照れ笑いを浮かべ、
『そんなに見られると恥ずかしいよー。後、食事中にそんな事言ったらダメだよ!』
と言いながら、ありさの胸を鷲掴みにする。
ありさが、慌てて『ごめんなさい!食事中には言わないから。』と言い、鷲掴んでいるまり姉の手を優しく叩く。
まり姉は、ありさの胸から手を離し、また料理へ手を伸ばす。
わたしは、
(そろそろ誰か止めてやれよ。昨日の晩ご飯からずっとアホ姉継続中だぞ。帰りの車まで、このままじゃないか……。)
と思った。
(もしかして、ゆりと兄の取り引きだったりして……。)
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、
(いや、まさかな。)
とすぐに打ち消した。
兄はとっくに食事を終え、ありさも食べ終わっている。
あとは、まり姉の食事が終わるのを待つだけだった。
しばらくして、
『まだまだ食べられるのに、お腹がカチカチでこれ以上入らないよー。』
と名残惜しそうに笑い、ようやく朝食は終了した。
食事を終えると部屋へ戻り、身支度を済ませてチェックアウトのためフロントへ向かう。
すると、お土産売り場が目に入った。
兄は、
『まりちゃん、ご両親とゆりちゃんにお土産買おうか?』
と声を掛ける。
まり姉は、
『うん! ありがと。』
と嬉しそうに笑った。
一方のありさは、財布とお土産を見比べながら悩んでいる。
兄は、
『ありちゃんのご両親にも、俺から一つ買うよ。帰りもまりちゃんの相手をお願いすることになるし。』
と笑う。
ありさは、
『あっくん、ありがと。……え? 帰りもこのアホの相手するの?』
と驚いた表情になる。
まり姉は、
『アホでごめんねー。』
と照れくさそうに笑い、ありさの胸を鷲掴む。
ありさも思わず、
『ごめん、ごめん。帰りもまりちゃんと一緒、楽しみだなー。』
と肩をすくめた。
お土産を購入し、チェックアウトを済ませると、三人はじいちゃんの車へ乗り込む。
兄がエンジンをかけ、楽しかったホテルを後にした。
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