19.兄が見ている世界 —部活①—
部室へ到着し、扉を開けると、
『大坂先輩、お久しぶりです!』
と、後輩達が声を掛けてきた。
―女子率たっか!
この工業高校の女子生徒、ほとんどこの部活に入ってるんじゃないか?
ぱっと見、
二十五人くらいいる中で、二十人くらい女子だ。
まあ、男ばっかりの学校だし、
運動部のマネージャーか、この部活くらいしか選択肢無いんだろうな〜。
わたしは兄に尋ねた。
『あっくん、この部活って部員何人いるの?』
『一応、籍だけなら六十人くらいかな。
でも半分以上は幽霊部員だね』
兄はそう答えると、部員達へ向き直った。
『練習問題で間違えた所とか、質問ある人は俺の所に来てね。
もし全部終わってる人いたら、各自帰宅でお願い』
すると、まず男子生徒が数人、兄の元へやって来た。
『先輩、ここ教えてください』
『えっと、この問題は冷凍機械だね』
兄は問題用紙を覗き込みながら説明を始める。
『まず、エアコンとか冷蔵庫って、“熱を消してる”わけじゃなくて、熱を別の場所へ移動させてるのは知ってるよね?』
『はい』
『そこで使うのが冷媒――フロンガスとかだね。
それを圧縮して、凝縮して、膨張させて、蒸発させることで熱を移動させてるんだ』
兄は図を書きながら、順番に説明していく。
一通り説明し終えると、
『何か質問ある?』
と後輩へ尋ねた。
『……大丈夫です』
その返答を聞いた兄は、確認するように続ける。
『じゃあ、もし試験でこういう形で問題が出たら、どう解く?』
『えっと……
さっきの考え方なら、答えはAです』
すると兄は、ぱっと笑顔になった。
『うん、正解!
さすが〇〇君。この調子なら合格できそうだね』
『次、いいですか?』
『うん。次は第二種電気工事士だね』
兄は自然に次の後輩へ向き直る。
『この実技問題は、“どのケーブルが何メートル必要か”を考えるのが大事なんだよね。
実際に一緒に図面描いてみようか』
そんなやり取りが、一時間ほど続いた。
暇になったわたしは、兄へ声を掛ける。
『おいおい、あっくんよ。
意外と頼られてるじゃないか』
『まり姉も満足してるぞ?
好感度アップしたんじゃないかい?』
すると兄は、少し元気の無い声で答えた。
『弱い部分しか埋められないんだから、好感度も何も無いよ』
……まだ引きずってるな、これ。
『少しは普通に会話できるようになったと思ったんだけど。
ありちゃんには、完全に距離置かれたし……』
兄は小さくため息を吐いた。
そこで、わたしは少し気になっていたことを聞いてみる。
『それで、あっくんさんよ。
まり姉とありさ、どっちが好みなんだ?』
『どっちが異性として好きかってこと?』
『おうよ。それ以外ないだろ』
すると兄は、少し考えてから静かに言った。
『俺から“異性として好きです”なんて言われたら、相手が迷惑だろ』
『どうして、そう思うの?』
わたしは、ふざけるのをやめて真面目に聞いてみた。
兄は少し驚いたような顔をして、
『急にしおらしくなったな』
と苦笑する。
そして、そのまま視線を落とした。
『俺個人には、何の魅力も無いからだよ』
『俺一人じゃ、何も出来ないし、何の力も無い。
それなのに“好きです”なんて言われても、困るだろ』
その言葉は、妙に静かだった。
『そんな難しく考えなくてもいいと思うんだけどな……』
わたしは、小さく呟いた。
ご意見 ご感想 宜しくお願いします。




