表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/101

19.兄が見ている世界 —部活①—

部室へ到着し、扉を開けると、

『大坂先輩、お久しぶりです!』

と、後輩達が声を掛けてきた。


―女子率たっか!

この工業高校の女子生徒、ほとんどこの部活に入ってるんじゃないか?

ぱっと見、

二十五人くらいいる中で、二十人くらい女子だ。


まあ、男ばっかりの学校だし、

運動部のマネージャーか、この部活くらいしか選択肢無いんだろうな〜。


わたしは兄に尋ねた。

『あっくん、この部活って部員何人いるの?』


『一応、籍だけなら六十人くらいかな。

でも半分以上は幽霊部員だね』

兄はそう答えると、部員達へ向き直った。


『練習問題で間違えた所とか、質問ある人は俺の所に来てね。

もし全部終わってる人いたら、各自帰宅でお願い』


すると、まず男子生徒が数人、兄の元へやって来た。


『先輩、ここ教えてください』


『えっと、この問題は冷凍機械だね』


兄は問題用紙を覗き込みながら説明を始める。


『まず、エアコンとか冷蔵庫って、“熱を消してる”わけじゃなくて、熱を別の場所へ移動させてるのは知ってるよね?』


『はい』


『そこで使うのが冷媒――フロンガスとかだね。

それを圧縮して、凝縮して、膨張させて、蒸発させることで熱を移動させてるんだ』


兄は図を書きながら、順番に説明していく。


一通り説明し終えると、


『何か質問ある?』


と後輩へ尋ねた。


『……大丈夫です』


その返答を聞いた兄は、確認するように続ける。


『じゃあ、もし試験でこういう形で問題が出たら、どう解く?』


『えっと……

さっきの考え方なら、答えはAです』


すると兄は、ぱっと笑顔になった。


『うん、正解!

さすが〇〇君。この調子なら合格できそうだね』


『次、いいですか?』


『うん。次は第二種電気工事士だね』


兄は自然に次の後輩へ向き直る。


『この実技問題は、“どのケーブルが何メートル必要か”を考えるのが大事なんだよね。

実際に一緒に図面描いてみようか』


そんなやり取りが、一時間ほど続いた。


暇になったわたしは、兄へ声を掛ける。


『おいおい、あっくんよ。

意外と頼られてるじゃないか』


『まり姉も満足してるぞ?

好感度アップしたんじゃないかい?』


すると兄は、少し元気の無い声で答えた。


『弱い部分しか埋められないんだから、好感度も何も無いよ』


……まだ引きずってるな、これ。


『少しは普通に会話できるようになったと思ったんだけど。

ありちゃんには、完全に距離置かれたし……』

兄は小さくため息を吐いた。


そこで、わたしは少し気になっていたことを聞いてみる。


『それで、あっくんさんよ。

まり姉とありさ、どっちが好みなんだ?』


『どっちが異性として好きかってこと?』


『おうよ。それ以外ないだろ』


すると兄は、少し考えてから静かに言った。

『俺から“異性として好きです”なんて言われたら、相手が迷惑だろ』


『どうして、そう思うの?』


わたしは、ふざけるのをやめて真面目に聞いてみた。


兄は少し驚いたような顔をして、

『急にしおらしくなったな』

と苦笑する。


そして、そのまま視線を落とした。

『俺個人には、何の魅力も無いからだよ』


『俺一人じゃ、何も出来ないし、何の力も無い。

それなのに“好きです”なんて言われても、困るだろ』

その言葉は、妙に静かだった。


『そんな難しく考えなくてもいいと思うんだけどな……』

わたしは、小さく呟いた。

ご意見 ご感想 宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ