202.兄が見ている世界 —ペアリング購入②—
目的の宝飾店へ、まり姉と兄が入る。
店員さんが笑顔で近づき、
『いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか?』
と声を掛けた。
兄は、
『ペアリングを探しています。彼女の好みに合うものを購入したいと考えているので、色々見せていただけますか?』
と、まり姉を見た後、店員さんへ笑顔で伝えた。
まり姉は一歩前へ出て、店員さんと楽しそうに話し始める。
一方の兄はというと…
指輪ではなく、素材について書かれた説明パネルを熱心に読んでいた。
現在のプラチナ・金・銀の価格。
それぞれの特徴や耐久性。
兄らしいなー。
まず素材から調べるんだ。
しばらくすると、まり姉がデザインを決めたようだ。
選んだ指輪は、表面に槌で打ったような繊細な槌目模様が施され、光を受けるたびに柔らかな輝きを放つ、とても綺麗なデザインだった。
まり姉は、
『あっくん、これがいいんだけど、どうかな?』
と兄へ尋ねる。
兄は指輪を見るより先に、まり姉の顔を見て笑い、
『まりちゃんがいいなら、これにしよう。』
と即答した。
…即決?
さすが、まり姉信者。
店員さんがリングゲージを持ってきて、二人の指のサイズを測る。
兄の左手薬指は、
『これから少し太くなることも考えて』
という理由で十四号。
まり姉は八号だった。
サイズが決まると、店員さんが、
『素材をお選びいただけますが、いかがいたしますか?』
と尋ねる。
兄は迷うことなく、
『PT950でお願いします。』
と答えた。
店員さんは笑顔で頷き、
『かしこまりました。彼氏様が三十三万円、彼女様が三十一万円になります。』
と説明する。
続けて、
『オプションになりますが、小ぶりのダイヤモンドを五石までお入れできます。いかがなさいますか?』
と尋ねた。
……六十四万円。
わたしの貯金、全部合わせても足りないんだけど。
思わず青ざめる。
まり姉は、
『私は、左からピンク・赤・透明・青・ピンクでお願いします。』
と答えた。
兄は少し首を傾げ、
『まりちゃんは、俺のはどうしたらいいと思う?』
と笑顔で尋ねる。
まり姉は少し考え、
『黒・ピンク・透明・青・黒はどうかな?』
と提案した。
兄は、
『じゃあ、それでお願いします。』
と店員さんへ伝える。
……結局、オプション込みで七十万円超え。
こいつ、家電も車もあれだけ値切るのに……
こういう時は値切らないんだ。
そう思って見ていると、
まり姉が小声で、
『あっくん、お金大丈夫?』
と心配そうに尋ねた。
兄は何事もないような表情で、札束を取り出す。
その様子に、まり姉まで目を丸くして驚いていた。
店員さんがお金を数えている間、
まり姉が笑いながら、
『また値切り交渉するのかと思ってたよー。』
と言う。
すると兄は、
『世界一愛してる、まりちゃんへのプレゼントを値切るわけないでしょ。』
と照れもせず笑顔で答えた。
わたしにも買ってくれないかなぁ。
「世界一可愛い従姉妹の亜衣ちゃんだよ!」
…って心の中で叫んでみたけど、
当然、兄からの反応は何もなかった。
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