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198.わたしの新生活⑦

わたしは戸惑いながら、

「……あっくん、何をするつもりなの?」

と尋ねた。


兄はにっこりと笑い、

「血の契。」

と一言だけ答える。


続けて、

「亜衣ちゃんは分からないだろうから、俺が実地で教えるよ。安心して。」

と穏やかな口調で言った。


……全然安心できないんですけど!?

口約束じゃダメなの?

それか契約書を書くとかさ!

というか、この家ってこんな物騒な誓いをする家だったの!?

いや、本当に怖いって!


わたしの頭の中は一気に混乱した。


兄はそんなわたしの様子など気にも留めず、手を取って部屋を出る。


廊下を歩いていると、近くにいた分家の女性へ声を掛けた。

「準備が整い次第、次期当主であられる亜衣様と私との血の契を執り行う。

母屋へ集まれる者は集まってほしい、と皆へ伝えてください。」


女性は驚いたように目を見開いた後、深々と頭を下げた。

「かしこまりました。」

そう返事をすると、小走りで他の女性や子どもたちの元へ向かっていく。


その後も母屋へ向かう途中、分家の人たちとすれ違うたび、兄は落ち着いた口調で

「これより血の契を執り行います。」

と伝えていった。


その言葉を聞くたび、皆一様に驚いた表情を浮かべ、急ぎ足で母屋へ向かっていく。


わたしたちが母屋へ着くと、じいちゃんは「やれやれ」といった表情で何やら準備をしていた。


その傍らには、白い着物をまとった綺麗な女性が静かに立っている。

……あれ?

分家筆頭だったっけ?

そんなことを考えていると、じいちゃんがこちらを見た。

「亜衣。案の定、篤志にその提案をしたんだな。」


わたしは素直に頷く。

「うん。

わたしの次に次期当主になりたい人は、あっくんの承認を得る必要があるってことでしょ?」


じいちゃんは静かに頷いた。

「ああ。

篤志から『亜衣の時のように、抜け駆けで次期当主が決まった場合はどうするのか』と聞かれたのだろう。」


……やっぱり全部お見通しか。


わたしは苦笑しながら、

「はい。」

とだけ答えた。


じいちゃんは隣に立つ女性へ向き直る。

玻璃はりさん。

見届け人は、わしと玻璃さん。

準備が整うまでに集まれた分家の者たち立ち会いのもと、執り行うという形でよろしいでしょうか。」


玻璃さんは静かに一礼した。

「異存ございません。」


準備する物は多くなかった。


紙。硯。墨。筆。

そして、小刀。


それらが母屋の居間、玄関からも見える場所へ整然と並べられていく。


中央には兄とわたし。


そのすぐ後ろには、じいちゃんと玻璃さん。


さらに両脇には、分家の中でも重役なのだろうと思われる人たちが、姿勢よく座っていた。


やがて玄関から次々と分家の人たちが入ってくる。


広い母屋だったはずなのに、いつの間にか人でいっぱいになっていた。

子どもたちまで正座し、静まり返っている。

さっきまで賑やかだった空気が嘘みたいだ。


兄は真剣な表情になると、じいちゃんと玻璃さんへ一礼し、ゆっくりと前を向いた。

そして、よく通る声で話し始める。

「これより、次期当主であられる亜衣様と、私、篤志との間で血の契を執り行う。」


場の空気がさらに張り詰める。


「この度、血の契を交わすに至った経緯は、仮ではあるが次期当主として務めを果たしてきた私を差し置き、亜衣様が正式な次期当主となられたことに対し、不平不満の声が上がっていることも一因である。」


兄はそこで一度言葉を切る。


誰一人として口を開かない。


「これより誓う内容は、次のとおり。」

「第一。

亜衣様の次に次期当主となる者は、私、篤志の承認を必要とすること。」


「第二。

その対価として、私、篤志、中野まり、荒木ありさの三名へ危険が迫った際には、亜衣様が察知できた場合、速やかに情報を共有すること。」


「第三。

私、篤志がこの家を離れた後も、生涯にわたり、いつでも帰ることのできる場所を維持すること。」


「本契約は、私篤志の死後効力を失う。」


兄は一呼吸置き、続けた。

「以上の内容を玻璃殿に書き留めていただき、当主様に確認していただいた後、契を執り行う。」


「皆も承知していると思うが、この契を一方的に破棄した者は、いかなる立場であろうと命を落とし、魂さえ崩壊する。」


……え?

嘘でしょ?

知らずに次期当主になった人でも?

魂が崩壊って……


分家の人たちは亡くなって魂だけの存在なのに、その魂さえ消えるってこと?

そんな重大なことだったの?

わたしは思わず息を呑んだ。

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