197.わたしの新生活⑥
じいちゃんと二人で家へ戻り、わたしは離れへ入った。
お母さんが安心したように笑う。
『亜衣ちゃん、おかえり。朝みたいにボロボロになってなくて安心したわ。』
わたしは苦笑した。
(夕方まで同じ目に遭ってたら、確実に「もう嫌だー!」って泣いて騒いでたよ……。)
お母さんは続けて、
『晩ご飯の準備できてるから、食べちゃって。』
と声を掛ける。
『うん。』
そう返事をして食卓へ向かった。
食卓には兄もいて、いつもの席に座っていた。
わたしはご飯を食べながら兄へ声を掛ける。
『あっくん、わたしがお風呂から出たあと部屋に来て。
お願いがあるんだ。』
上機嫌な様子でそう伝えると、
兄は片眉を少し上げ、
『何かな?
俺にもメリットがある話なんでしょ?』
と確認してくる。
『うん!』
わたしは笑顔で頷き、そのまま食事を続けた。
兄は先に食べ終えると、
『二十時に部屋へ行くね。』
と言い残し、風呂へ向かう。
『うん! よろしく!』
わたしは元気よく返事をした。
食事を終えたわたしも風呂へ入る。
体を洗い終え、鏡を見る。
(じいちゃんがドン引きした顔って、こんな感じかな。)
試しに目を大きく見開いてみる。
『……かわいい、よね?』
誰もいない浴室で一人つぶやき、湯船へ浸かった。
『あ〜……生き返る〜。』
しばらく温まったあと風呂を出て体を拭く。
お母さんに保湿剤を塗ってもらい、圧迫衣を着せてもらう。
歯を磨き、自室へ向かう途中で兄と鉢合わせた。
『二十時ぴったりだね〜!』
そう笑うと、
兄は苦笑しながら、
『五分前行動でもいいんじゃない?
少し余裕があるだけで、慌てなくて済むよ。』
と助言する。
『善処します。』
わたしは軽く敬礼するような仕草をして答え、二人で部屋へ入った。
わたしは兄へ向かって、
『座って。』
と促す。
兄が腰を下ろすのを確認してから、わたしも正面へ座った。
そして深呼吸を一つ。
『分家の人たちとの顔つなぎをお願いします。』
兄は表情一つ変えず、
『俺にとってのメリットは?』
と尋ねる。
わたしは用意していた答えを口にした。
『まり姉に危険が迫っていて、それにわたしが気付けたら、すぐ情報を共有します。』
兄の眉が僅かに動く。
『回数制限なし?
まりちゃんだけじゃなく、ありちゃんと俺も、その対象に含めてくれる?』
『うん。』
わたしは迷わず頷いた。
続けて、
『それと、あっくんはいつでもこの家へ帰って来られるよう取り計らいます。
万が一のとき、帰れる場所があるって安心でしょ?』
少し得意げに笑ってみせる。
兄は静かに確認した。
『俺だけ?
まりちゃんや、将来できる子どもも含めて?』
『えっと……認めます。』
わたしは少し考えながら答える。
さらに続けた。
『それと、将来、次期当主になりたい人が複数現れた場合は、最終決定権をあっくんに一任します。』
兄はジト目でこちらを見た。
『もし亜衣ちゃんみたいに、抜け駆けして勝手に次期当主になる人が現れたら?
その場合はどうする?』
その質問に、わたしは言葉を失う。
考えても答えが出ない。
しばらく沈黙が続いたあと、兄が静かに口を開いた。
『じゃあ、こうしようか。』
兄は不気味なほど穏やかな笑みを浮かべる。
『俺が生きている間に、俺の承認なしで次期当主になった者は、自死する契約にしてもいい?』
『え……。』
思わず聞き返す。
『そんなこと……できるの?』
兄は笑みを崩さない。
『ああ、できる。』
短く答えたあと、
『ここで話す内容じゃない。母屋に全員集めよう。』
そう言って立ち上がる。
そして、わたしへ静かに手を差し伸べた。
わたしはその手を握り、立ち上がる。
兄と並んで、母屋へ向かった。
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