196.わたしの新生活⑤
夕方のお務めへ向かうため、わたしはじいちゃんと合流し、まず仏壇へ手を合わせた。
その後、じいちゃんと二人でお墓へ向かう。
歩いている途中、じいちゃんが笑いながら言った。
『亜衣は朝から大変だったみたいだな。』
わたしは頬を膨らませ、
『大変なんてもんじゃないよ。もう少しで枝が顔に突き刺さるところだったんだから。』
と不満そうに答えた。
じいちゃんは少し笑ったあと、
『少しは仲良くなった分家の人たちはおるのか?』
と尋ねる。
わたしは小さく首を横に振った。
『全然だよ。
仲良くしなきゃ、話しかけなきゃって思ってはいるんだけど……勉強したり、眠気に負けたりして、結局何もできてない。』
そう言って肩を落とす。
じいちゃんは真面目な表情になり、
『学生だから勉強はもちろん大切だ。
だが、今の亜衣は優先順位をもう少し考えた方がいいな。』
と言った。
そして、不思議そうに続ける。
『篤志に顔つなぎを頼まなかったのか?』
わたしは苦笑いしながら答えた。
『頼んだよ。
でも「俺に何のメリットがあるの?」って聞かれちゃって。
何か利益になることを提示できないと、動いてくれないと思う。』
じいちゃんは少し考えるような表情になった。
『篤志の望むものか……。
簡単というか、単純に分かりそうなものだがな。』
『えっ!何?
じいちゃん教えて!』
わたしが身を乗り出すと、
じいちゃんは苦笑し、
『亜衣は、少しは自分で考えた方がいい。』
と言った。
わたしは自分なりの可愛い表情を作り、じいちゃんをじっと見つめて答えを促す。
すると、じいちゃんは少し身を引きながら、
『どうした?
そんなに目を見開いて見つめられると怖いぞ。』
と平坦な声で言った。
(えっ……。)
わたしの渾身の可愛い表情……
怖いの?
地味にショックを受けているうちに、お墓へ到着した。
桶に水を汲み、お墓の水を替え、じいちゃんと一緒にお経を読む。
お務めを終えると、
『亜衣、帰ろうか。』
と、じいちゃんが声を掛けてくれた。
わたしは桶を片付け、二人で帰路につく。
帰り道。
じいちゃんが静かに口を開いた。
『亜衣。
篤志が一番恐れていることは何だと思う?』
わたしは少し考えてから答える。
『まり姉に嫌われること……かな?』
じいちゃんは優しく笑った。
『惜しいな。
正確には、大切な人を守れないこと。そして、万が一のときに帰って来られる場所を失うことだ。』
その言葉を聞いて、わたしは少し考える。
『それを交渉材料にするなら…
まり姉に危険が及びそうなら、分かった時点ですぐ知らせること。
それと、あっくんが生きている間は、いつでもこの家へ帰って来られる状態を維持し続けること……
そんな感じかな?』
じいちゃんは満足そうに頷いた。
『それも一つだな。
他には、もし、わしが亡くなり亜衣が当主になった後、次期当主になりたい者が複数現れたら、その中から篤志が選んでもよい、と約束する方法もある。』
少し間を置き、
『もう「敵対しない」「力を使う」という約束は交渉に使ったんだろう?』
と続けた。
わたしは目を丸くした。
『知ってたの?』
じいちゃんは穏やかに笑う。
『わしが亡くなった後のことには、わしは関与できん。
だから、亜衣が本当にそれで良いと思うなら、それで構わん。』
そう言ったあと、表情を引き締めた。
『ただし、篤志以外には絶対にするな。
篤志は幼い頃から、この家の教えも契約の重さも理解している。
だからこそ成立する話だ。
同じことを他の者にすれば、お互いに不幸になる。
……これだけは約束しなさい。』
その声色に、わたしの背筋がゾクリと震えた。
わたしは慌てて姿勢を正し、
『はい。約束します。』
と力強く返事をした。
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