194.わたしの新生活③
兄は眠そうにあくびをすると、
『で、何についてアドバイスすればいいんだっけ?』
と、わたしへ尋ねた。
(コイツ、本当に真面目に答える気あるのかな……。)
そう思いながらも、
『まずは帰り道でカラスに襲われたこと。それと、黒い服を着た長い髪の女の人について。それぞれ何か対策はないの?』
と尋ねる。
兄は眠そうな表情のまま、
『簡単じゃん。昨日と今日、それから行きと帰りで変わったことって何だと思う?』
と逆に問題を出してきた。
わたしは首を傾げながら、
『何だろう……眠かったとか?』
と答える。
すると兄は露骨に不機嫌そうな顔になった。
『違う。
じいちゃんが一緒にいたか、いなかったかだろ。』
そう言われ、
『あっ……そうだ!』
と納得する。
しかし、すぐに不満が湧いてきた。
『ねぇ。まきとか後輩に勉強を教えてた時みたいに、もっと優しく丁寧に教えてほしいんだけど!』
兄は即座に立ち上がろうとする。
『不満なら部屋へ帰る。』
『ごめんなさい!
ありがとうございます! 感謝してます!』
慌てて兄の腕を引っ張り、椅子へ座らせた。
兄は小さくため息をつく。
『だから解決策は簡単。二月初めまでは毎日じいちゃんと一緒にお務めをする。』
『これで解決。』
満足そうに言い切る。
わたしは首を傾げた。
『じゃあ、二月初め以降は?』
兄は、
(何言ってるんだ?)
と言いたげな顔をする。
『あとは亜衣ちゃんの好きにすればいい。
俺は三月に引っ越す。
次期当主が不在でも二十八日までは問題ない。
そこまで生きてれば俺には関係ない。』
わたしは思わず机を叩いた。
『根本的な解決になってないじゃない!!』
兄は肩をすくめる。
『俺はもう出て行く身だから。
下手に口を出しても責任が取れない。
責任が取れないことは言わない。』
『それに、俺には何のメリットもないし。』
わたしは作り笑いを浮かべながら言う。
『アドバイスが間違ってても責任を取れなんて言わないよ。
メリットならあるじゃん。
わたしが当主になったら、あっくんが不利益にならないようにする。
困った時は力も貸す。約束したでしょ?』
兄はジト目でわたしを見つめた。
『その約束なら、もう成立してる。
俺は約束したとき、自分の責務は果たした。
なのに何で、履行する側の亜衣ちゃんが、
“次はこうしてくれないと約束を守れないかも”』
『みたいな条件を後から付け足そうとしてるの?』
兄は静かに続ける。
『一度交わした約束は履行する。それが当たり前。』
『……分家の人たちも見てるぞ。』
その言葉にハッとして周囲を見る。
離れの周囲には、分家の女性や小さな子どもたちがいて、わたしたちのやり取りを静かに見守っていた。
兄は小さく息を吐く。
『弱い姿を見せていいのは、自分の部屋だけだ。』
そう言って顎をしゃくり、
『続きは部屋で話そう。』
と、わたしの部屋へ入るよう促した。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




