191.現状確認⑦
初めてのお務めを終え、離れへ戻ると、兄が夕食を食べていた。
その様子を見て、わたしは思わず声を上げる。
『しっかり食べられるようになってる。』
兄は箸を止めることなく笑う。
『仮の次期当主には期間の上限があるからね。ちょうど限界だったみたい。空腹でも食べ物が喉を通らなくなってたし。』
そう軽く肩をすくめると、
『あと一か月続いてたら餓死だったかも。』
と、まるで他人事のように笑った。
『笑い事じゃないでしょ!』
わたしが思わずツッコむと、
兄はため息をつく。
『変なところで真面目だなぁ。』
『ちゃんと最後までやり切って、生きてるんだから笑うところでしょ。』
わたしは納得できず、
『でも、死ぬところだったんでしょ?』
と聞き返す。
兄は頷いた。
『でも死んでない。ちゃんと責任を果たした。だから笑えるんだよ。』
少し笑みを浮かべながら続ける。
『漫画でも、強敵を倒した主人公って最後は笑ってるでしょ?』
(そんなものなのかな……。)
わたしは首を傾げながら夕食を食べ始めた。
すると兄は食べ終えると、そのまま風呂へ向かった。
わたしも食後、お母さんに手伝ってもらいながら圧迫衣を脱ぎ、お風呂へ入る。
服を脱ぐだけでも一苦労だ。
体を洗い、ゆっくり湯船へ浸かる。
(あぁ……。)
今日、半日外へ出て歩いただけなのに、もうクタクタだ。
長い入院生活で失った体力は、まだ全然戻っていない。
そして、人型のことを思い出す。
(次は右手から頭……。)
あの灰色になった部分が頭から離れない。
もう契約は終わっている。
人型は外せない。
当主になる時も、そのまま引き継がれる。
(つまり、この傷も、このまま……。)
考えれば考えるほど、不安になる。
しばらく湯船に浸かったあと風呂を上がり、お母さんに保湿剤を塗ってもらい、圧迫衣を着せてもらった。
すると、お母さんが優しく微笑む。
『お務め、お疲れさま。』
その一言だけで少し気持ちが軽くなる。
続けて、
『明日もおじいさんと行くなら、その時間に起こそうか?』
と尋ねてくれた。
『お母さん、お願い。』
そう頼むと、
お母さんは笑顔で頷く。
『任せて。』
その言葉に少し安心した。
歯を磨き終え、トイレへ向かう。
しかし、すでに誰かが入っていた。
コンコン。
『まだ?』
と声を掛けると、中から兄の声が返ってきた。
どうやら、お腹を壊してトイレへこもっているらしい。
『何でお腹壊したの?』
そう尋ねると、
『数か月ぶりに普通の量を食べたから、胃腸がびっくりしたんじゃない?』
とのんびり返事が返ってきた。
『じゃあ、早く出て!!』
わたしはドアをガンガン叩く。
しばらくすると兄が出てきたので、入れ替わるようにトイレへ入った。
すると今度は外から兄がノックしてくる。
『亜衣ちゃん、もう二十分だけど?』
『早く代わって!』
『久しぶりに長時間歩いて、お風呂で体も温まったんだから仕方ないでしょ!』
『それに、レディーのトイレ時間を数えないで!』
わたしが抗議すると、
兄は呆れたように、
『はいはい。』
とだけ返し、その場を離れていった。
ようやくトイレを出ると、
兄は待っていたかのように、再びトイレへ入っていく。
(そんなにお腹痛かったんだ……。)
少しだけ兄が気の毒になった。
自室へ戻ると、今日も勉強を始める。
退院したとはいえ、新学期までには少しでも遅れを取り戻したい。
集中しているうちに、時計を見ることも忘れていた。
ふと顔を上げると、
時計の針は午前三時を指していた。
(やばっ!)
慌てて教科書を閉じ、布団へ潜り込む。
ようやく眠りについた――と思ったら。
『亜衣ちゃん! 朝のお務めよ!』
お母さんの声で目を覚ました。
時計を見る。
四時。
(一時間しか寝てないじゃん……。)
わたしは大きなため息をつきながら、重たい体をゆっくりと起こした。
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