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188.現状確認④

久しぶりの我が家だ。

そう思いながら自室の扉を開けると、

『え……?』


そこには、兄が寝転がっていた。


兄はゆっくりと起き上がり、

『何? ノックくらいしてよ。』

と、まるで自分の部屋であるかのように言う。


(えっ!? わたしの部屋が占領されてる!?)

わたしは慌てて、

『あっくん! なんでわたしの部屋にいるの?』

と問いかけた。


兄は不思議そうな顔で、

『いやいや。もう俺、仮の次期当主ですらなくなるから部屋も変わったよ。正式な次期当主様。』

と、当然のように答える。


わたしは首を傾げた。

『じゃあ、わたしの部屋は?』


兄は廊下の奥を指差し、

『一番奥の、次期当主の部屋でしょ。』

と言った。


言われるまま奥へ向かう。


扉を開けると、

『おぉ……広い。』

以前よりずっと広い部屋だった。


わたしの荷物もきちんと運び込まれている。

さらに奥には、もう一部屋。

そこには例の箱が置かれていた。


(まきも、陽子も、ありさも……よくこんな部屋で普通に寝られたな。)

何があるのか知っている状態で暮らすのと、

何も知らずに暮らすのでは、まるで違う。

(“知らぬが仏”って、本当にその通りなんだな……。)

そんなことをしみじみと思ってしまった。


部屋でゴロゴロしていると、そのまま眠ってしまった。


『晩ご飯よー!』

おばあちゃんとお母さんの声で目が覚める。


食卓へ向かうと、兄はすでに夕食を食べ終えていた。


兄は、

『亜衣ちゃん、先にお風呂入っていい?』

と尋ねる。


『うん、いいよ。』

そう答えると、兄は風呂場へ向かった。


わたしが夕食を食べ終える頃には、兄は部屋へ戻っていた。


どうやら、またまり姉の動画を見ているらしい。

部屋の方から、まり姉の歌声がかすかに聞こえてくる。


(また見てる……。)

半ば呆れながら、わたしも風呂へ向かった。


わたしは服や下着、キツイ圧迫衣を脱ぎ、体を洗った後、

『あぁ〜……気持ちいい。』

湯船へ浸かった瞬間、思わず声が漏れる。


入院中はずっとシャワーだけ。

半年近く湯船に浸かっていなかった。

(やっぱり家のお風呂って最高……。)


心からそう思えた。


入浴後、お母さんに保湿剤を塗ってもらっていると、お母さんから

『明日は自分で起きられる?何時に起こせばいい?』

と心配そうに聞かれる。


『ん〜……何時だろ?

大丈夫、自分で起きるよ。』

そう答えると、


『そう? わかった。』

と、お母さんは少し不安そうに頷き、自分も風呂へ向かった。


広くなった部屋で勉強道具を広げ、自習を始める。

気付けば時計は午前三時を回っていた。


(やばっ!

明日は兄の人型を取りに行く日だった。)


慌てて布団へ入り、眠りについた。


翌朝。

『いい加減起きなさい!朝ご飯できてるよ!』


お母さんの声で目を覚ます。


時計を見ると、もう九時だった。

(寝坊した!!)

慌てて朝食を食べ始めると、


じいちゃんと兄が玄関から顔を出した。

『今から行くけど、亜衣ちゃんは行かないの?』


『ちょっと待って!』

急いで朝食をかき込み、お母さんに着替えを手伝ってもらいながら二人へ合流する。


じいちゃんの車に乗り込む。


運転は兄だった。


わたしは、まり姉とありささんから不評だった後部座席へ座る。


車が少し揺れただけで、


お尻へ衝撃がダイレクトに伝わる。

(あー……これは確かに不評だわ。)

子どもの頃は逆に楽しかったのに。


そんなことを考えていると、


兄が口を開いた。

『じいちゃん。

よく当主と次期当主が同じ車で移動するのを止められなかったね。』


じいちゃんは穏やかに笑う。

『これが最後になるかもしれん、と言ったら引き下がってくれた。』

そう答えた。


わたしの隣には、じいちゃんのお付きの方が座っている。


……なんだか睨まれている気がする。

(わたし、何かしたかな……。)

そんなことを考えているうちに、

祠へ到着した。


兄は自分の白く淡く輝く人型を丁寧に取り外し、

両手で包み込むように持って静かに目を閉じた。


すると、

兄の手から淡く美しい煙が立ち昇り、

人型は跡形もなく消えていく。

兄は小さく息を吐いた。


『やっと肩の荷が下りたって感じがする。』

そう呟いた後、

『これから就職までは、思う存分惰眠を貪ろう。』

と満足そうに笑う。


じいちゃんは苦笑しながら、

『三歳の頃から毎日、朝夕のお務めを続けてきたからな。

しばらく休んでも誰も文句は言わん。』

と優しく返した。


その言葉を聞いた瞬間、

『あ……。』

わたしは、とんでもなく大切なことを思い出した。

(わたし……一回もお務めしてない……。)

昨日も。

今日も。

もちろん入院する前も。

(やばい……。)

冷や汗が全身から噴き出す。

……まあ、火傷の跡からは、ほとんど汗は出ないけど。


そんなことを考えていると、

兄がわたしの人型を興味津々な目で見つめ、じいちゃんを呼んだ。


じいちゃんも人型を見るなり眉をひそめる。


(えっ……?今度は何?)


嫌な予感しかしない。

じいちゃんは静かに手招きをした。

『亜衣。こっちへ来なさい。』


わたしは胸をドキドキさせながら、


恐る恐る自分の人型を覗き込んだ。

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