186.現状確認②
わたしは、その場の雰囲気に息をのみ、
『ありがとうございます。』
と頭を下げた。
そして、
『それでは、そもそもお付きの方は、どのように決めるのでしょうか?』
と尋ねた。
じいちゃんは穏やかに頷き、
『亜衣が決め、その方と事前に話をした上で、わしへ申し出なさい。
双方の意思を確認し、わしが今行っていることの妨げにならないのであれば、わしが許可を出す。』
と答えた。
わたしは続けて、
『どのような基準で判断すれば良いのでしょうか?』
と聞く。
じいちゃんは迷いなく、
『価値観や行動基準が近く、亜衣が必要だと思える能力を持つ者に声を掛ければ良い。』
と答えた。
わたしは、
『それは、どうやって……。』
と言い掛けた瞬間、
『亜衣、自分で考えなさい。』
と、じいちゃんにぴしゃりと言われた。
もう言い返すことはできない。
「あー、早くお茶持ってこいよ……。」
(近くの川まで水でも汲みに行ってるの? それとも茶葉でも摘みに行ってるの?)
と、心の中で兄へ悪態をつく。
気持ちを切り替え、わたしは改めて質問した。
『申し訳ありません。
では、あっくんは仮の次期当主を辞退されると聞きましたが、その際はどのような手順で行われ、わたしがすることはあるのでしょうか?』
じいちゃんは落ち着いた口調で答える。
『特にない。
篤志の付き人をしてくれている銀さんと絹さんが、その任を解かれるだけだ。』
わたしは少し気になり、
『あっくんは、その後どうなるのでしょうか?』
と尋ねた。
じいちゃんは笑みを浮かべながら、
『特に何もない。
元々、亜衣も次期当主になる前は何もなかっただろう。
義務も恩恵もなくなる。』
と言った後、
『ただ、篤志がよほど好かれていれば、強制ではないが、自ら手助けをしたいと思う者はいるかもしれんな。』
と笑った。
その時、
『お茶をお淹れいたしました。』
と兄の声が聞こえた。
じいちゃんが、
『入ってきなさい。』
と声を掛ける。
兄は、
『失礼いたします。』
と言って居間へ入ってきた。
……案の定、お茶菓子はない。
やっぱり、この場から離れるための口実だったんだ。
わたしは率直に、
『随分と時間が掛かりましたね。』
と言う。
兄は穏やかに微笑み、
『手際が悪く、申し訳ありません。
ご当主様と次期当主様には、少しでも美味しいお茶を召し上がっていただきたく、できる限り丁寧にお淹れいたしました。』
と、にこやかに答えた。
そして、
『お話は済みましたでしょうか?』
と、じいちゃんとわたしを見た。
じいちゃんは湯飲みを手に取り、一口飲む。
静かに目を閉じると、
『……うむ。今日も良い茶だ。
篤志、ありがとう。』
と満足そうに言った。
わたしも一口飲む。
渋みはほとんどなく、お茶本来の甘みと旨みが口いっぱいに広がる。
「淹れ方だけで、こんなに違うんだ……。」
一瞬驚いたが、すぐに表情を戻し、
『あっくん、ありがとう。』
と笑顔で兄を見た。
兄は、どこか誇らしげなドヤ顔をしている。
……顔面にキックしたい。
そんな衝動に駆られたが、もちろん必死に押し殺した。
じいちゃんとわたしは、お茶を飲み終えると静かに頷く。
兄はじいちゃんへ向き直り、姿勢を正した。
『では最後に、私からお願いがございます。
明日をもちまして、私は仮の次期当主を辞退いたします。
つきましては、銀さんと絹さんの任を解いていただきたく存じます。
よろしいでしょうか。』
そう言って、深く頭を下げた。
すると、銀さんと絹さんは静かに兄の隣へ座る。
二人とも自分の責務を全うした誇らしそうな顔をしている。
しかし、その表情には隠し切れない寂しさが滲んでいた。
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